■渉外登記 明確な定義はないが、一般的には登記申請人又は当事者の一部若しくは全部が外国人(外国法人)・登記申請人又は当事者の一部若しくは全部が外国に居住する日本人である不動産登記、商業登記とされる。


■渉外不動産登記特有の問題点
①相続登記においてどの国の法律を適用すればよいのか。
②外国人ならではの規制や制限はあるのか。
③どのような書類を収集し、準備すればよいのか。


Ⅰ.外国人による不動産登記


Q.そもそも、外国人は日本の不動産を取得することが可能か?

A.可能。外国人の権利能力民法3条2項には「外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。」と規定され、外国人に対しても原則として、日本人と同様の権利能力を認めている(平等主義)。

外国人の土地の所有(個別的権利能力)ある国が、日本人や日本法人に対して、その国の土地の所有を禁止したり、制限したりしている場合、その国の国籍を有する外国人や外国法人については、日本の土地の所有について、政令で同様の禁止や制限ができる(外国人土地法1)(相互主義)。

わが国の国防上必要な地区については、政令で外国人が土地に関する権利を取得することを禁止し、又は条件若しくは制限を付すことができる(外国人土地法4)

→外国人土地法は廃止されていないため、現在も有効な法律と考えられる。しかし、第1条に基づく勅令や政令は、現在に至るまで発せられたことがなく、第4条に基づく勅令である「外国人土地法施行令」は昭和20年に廃止されている。

外国人による土地に関する権利の取得について、制限はない。(=外国人も日本人と同様に、日本の不動産を取得することができる)

Q.外国人が登記の当事者になる場合、適用される法律は何か?

A.法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)により決定される。

①人の行為能力人の行為能力は、その本国法によって定める(通則法4Ⅰ)。法律行為をした者がその本国法によれば行為能力の制限を受けた者となるときであっても行為地法によれば行為能力者となるべきときは、当該法律行為の当時そのすべての当事者が法を同じくする地に在った場合に限り、当該法律行為をした者は、前項の規定にかかわらず、行為能力者とみなす(通則法4Ⅱ)。

②法的行為法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による(通則法7)。選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による(通則法8 Ⅰ)。

不動産を目的物とする法律行為については、その不動産の所在地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する(通則法8Ⅲ)。法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法による(通則法10Ⅰ)。

③物権及びその他の登記をすべき権利動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の所在地法による(通則法13Ⅰ)。動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利の得喪は、その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法による(通則法13Ⅱ)。

Q.外国人、在外日本人の本人確認はどのように行うべきか?

A

(1)犯罪収益移転防止法に基づく本人確認(取引時確認)

①本人確認書類(氏名、住居及び生年月日)

ⅰ)在外日本人 → パスポート・在留証明書

旅券の法定記載事項に住所は含まれないが、所持人記入欄に住居が自書されている場合は、本人確認書類となる。

※パスポート(2020年旅券)の住所記載欄の廃止→不動産登記規則第72条第2項第1号の本人確認書類として不適格?

ⅱ)在留外国人 → 在留カード・特別永住者証明書、パスポート等通称名で依頼された場合は、確認記録に通称名とそれを用いる理由を記録(犯罪収益移転防止法施行規則20Ⅰ⑳)

ⅲ)在外外国人 → 日本国政府の承認した外国政府又は権限ある国際機関の発行した書類その他これに類するもので、日本人の本人確認書類に準ずるもの(氏名、住居及び生年月日の記載があるものに限る。)

例)パスポート、Driving License、公的身分証明書(中国:居民身分証、台湾:国民身分証、シンガポール:NRIC 等)

ⅳ)日本で登記された外国会社 → 登記事項証明書、印鑑証明書

ⅴ)上記以外の外国法人 → 本国政府の承認した外国政府又は権限ある国際機関の発行した書類日本国政府の承認した外国政府又は権限ある国際機関の発行した書類その他これに類するもので、登記事項証明書、印鑑証明書に準ずるもの(その名称及び本店又は主たる事務所の所在地の記載があるものに限る。)

例)会社登記簿謄本(台湾、韓国)、BizFile(シンガポール)、企業登録証明書(ベトナム)、Certificate of Good Standing(イギリス)等

②海外への送付方法本人確認書類に記載されている当該顧客等の住居に宛てて、取引関係文書を書留郵便若しくはその取扱いにおいて引受け及び配達の記録をする郵便又はこれらに準ずるものにより、その取扱いにおいて転送をしない郵便物又はこれに準ずるものとして送付する。→国際スピード郵便(EMS)

(2)司法書士の職責に基づく本人確認、意思確認・英文での質問表を用意・Zoom , Skype 等の活用

Q.登記申請書には、外国人の住所氏名をどのように記載すればよいか?また、通称名で登記することはできるか?

A.登記申請書類は、すべて日本語によるものでなければならないため、外国人の住所氏名を外国文字で記載することはできない。よって、日本で外国語を表記する場合の慣例に従って、漢字と片仮名で記載する(原則として「姓」「名」の順で表記する)。中国や韓国等の漢字使用国の会社名が日本語の正字であれば、そのまま登記することも可能。

日本の俗字や誤字、簡体字等の場合には、これに対応する日本の漢字(正字)に引き直して登記を行う。簡体字、台湾の繁体字は使用できない。

※中国語では、繁体字と簡体字の2種類の文字が使用されている。繁体字は、台湾、香港、マカオを中心に使用され、簡体字は繁体字を簡略化したもので、中国本土とシンガポールを中心に使用されている。

例)正字「対」、繁体字「対」、簡略化文字「対」

①住所表記について国名:外務省のホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/)を参照。地名:外国語の音訳をそのままカタカナで表記する。「州」は入れるが、それ以降(「市」や「郡」等)は入れないのが一般的。また、Street や Avenue も、「○○通り」などとはせず、そのまま「ストリート」や「アヴェニュー」と表記する。

例)113 Barksdale Professional Center、ニューアーク、DE 19711、USA→アメリカ合衆国デラウェア州ニューアーク、バークスデイル・プロフェショナルセンター113Cf.外国法人の住所について日本に支店を有する外国法人が登記権利者となる場合、登記申請書に記載すべき住所は外国法人の「本店の所在地」のほか、「本店の所在地+日本における営業所の所在地」とすることも可能。

②氏名について氏名の区切りを示すためのスペースを使用することはできないため、「・」を利用することになる。また、人名の読み方は慎重に確認したうえで表記をした方がよい。

例)Michael→「ミハエル」「ミカエル」「ミシェル」「ミッシェル」「マイケル」「ミヒャエル」なお、外国人住民票や印鑑証明書に本名と通称名が併記されている場合には、通称名で登記をすることも可能。

Q.外国人の記名押印は必要か?

A.申請人又はその代表者が外国人である場合は、署名のみで足りる。申請人又はその代表者は、申請情報を記載した書面又は代理人の権限を証する情報を記載した書面に記名押印しなければならない(不動産登記令16Ⅰ、18Ⅰ)。ただし、申請人又はその代表者が外国人である場合は、署名のみで足りる(外国人ノ署名捺印及無資力証明ニ関スル法律1Ⅰ)。

Q.外国語で作成された書類を申請書に添付する際、翻訳は必要か?また翻訳者に制限はあるか?

A.登記申請書類は、すべて日本語によるものでなければならないため、翻訳文が必要。ただし、翻訳者に制限はないが、翻訳者名を記載する必要がある。なお、翻訳年月日や翻訳者の住所は不要。

例)上記正訳しました。 氏名 ㊞

登記研究161-46

問 登記の申請書に添付すべき書面で、外国文字をもって表示された書面がある場合には、その訳文を記載した書面をも添付するのが相当である旨の先例(昭和33、8、27民事甲1738号通達―登記研究131号23頁)がありますが、右の訳文者は、普通一般人でも差し支えないものと考えますが、いかがでしょうか。

答 御意見のとおりと考えます。なお、所問の訳文には、登記権利者及び登記義務者において、訳文である旨を記載し、署名、押印するのが相当である。

Ⅱ.外国人が当事者となる売買

Q.渉外不動産登記(売買)特有の添付書類には、どのようなものがあるか?

A.

(1)登記権利者の住所証明書について

個人 

日本在住日本人

住民票、戸籍の附票、、印鑑証明書。

日本在住外国人

外国人住民票、印鑑証明書

外国在住日本人

在留証明書、現地公証人による宣誓供述書、印鑑証明書(サイン証明書)。

外国在住外国人

住民登録証明書、現地公証人又は在日大使館による宣誓供述書

※韓国:住民登録証明書   、台湾:戸籍謄本

法人

日本法人登記事項証明書(会社法人等番号)

外国法人

法人登録証明書、現地公証人による宣誓供述書、住民登録制度を有する国も存在するが、日本と同様に、住所を証する書面(住民票)を発行する国は少ない。

①外国在住日本人(在外日本人)の場合・在外公館(在シンガポール日本国大使館等)発行の在留証明書

※在留証明書とは、外国に居住する日本人が当該国のどこに住所(生活の本拠)を有しているか、あるいは当該国内での転居歴(過去、どこに住んでいたか)を証明するもの。また、当該国以外の外国の居住歴もそれを立証する公文書があれば証明することができる。

・現地公証人による宣誓供述書、在米日本人又はアメリカ人の住所を証する書面としては、その本国官憲の証明に係る書面を提出するのが相当であるが、アメリカ公証人の証明にかかるものを添付してされた申請は、便宜受理してさしつかえない(昭40年6月18日民甲1096号)。

②外国在住外国人の場合

・住民登録証明書韓国:住民登録証明書(登記研究457-117)、台湾:戸籍謄本

台湾の戸政事務所発行の戸籍謄本及び印鑑証明について台北駐日経済文化代表処(亜東関係協会)の奥書がされていなかったとしても、登記官が審査した限りにおいて、他に偽造等を疑うべき特段の事情が存在しない限り、当該戸政事務所発行文書について真正に作成されたものとして取り扱って差し支えない。

中華民国外交部の奥書及び訳文に対する公証人の認証についても求める必要はない。(平成27年3月24 日東京法務局民事行政部不動産登記部門統括登記官事務連絡)

・宣誓供述書(本国の公証人又は在日大使館で認証されたもの)

日本と同様の住民登録制度を有し、住所を証する書面を発行する国は少ない。そこで、当該外国人が所属する国の公証人の認証による宣誓供述書をもって、住所を証する書面とする。また、在日の当該大使館領事部で認証された宣誓供述書でも住所を証する書面となる。ただし、当該大使館領事部で認証しない国もあるため、事前の問い合わせが必要。なお、宣誓供述書には、本人の特定と具体的な住所地の記載があればよいとされている。

③外国法人の場合

・法人登録証明書(会社謄本)法人の登記・登録制度は多くの国で整備されているので、その国の所轄官庁が発行した法人登録証明書をもって住所証明書とすることができる。

・現地公証人による宣誓供述書法人の場合、代表者が会社の本店、商号並びに代表者である旨を、その法人の本国の所轄官庁又は公証人の面前で宣誓した認証ある宣誓供述書をもって、住所を証する書面とすることができる。

(2)登記義務者の印鑑証明書について

個人

日本在住日本人

印鑑証明書

日本在住外国人

印鑑証明書、本国公証人又は在日大使館による署名証明書

外国在住日本人

日本領事による署名証明書、印鑑証明書、現地公証人による宣誓供述書(署名証明書)、日本の公証人による署名証明書。

外国在住外国人

現地公証人又は在日大使館による宣誓供述書

※韓国:印鑑証明書、本人署名事実確認書

台湾:印鑑証明書

法人

日本法人

法人印鑑証明書

外国法人

代表者の署名証明書(本国代表者が会社の本店、商号、代表者である旨を本国の管轄官庁、公証人が認証したもの)

①日本在住外国人の場合日本に居住する外国人のうち、「中長期在留者」「特別永住者」「一時庇護許可者」「仮滞在許可者」「出生または国籍喪失による経過滞在者」で、15歳以上であれば、住民登録をしている市区町村で印鑑を登録することができる(=印鑑証明書を取得できる)。

→印鑑証明書を添付する場合には、別途、署名証明書の提出は不要。所有権の登記名義人たる外国人が登記義務者として登記の申請をする場合においては、印鑑証明書に代えて申請書又は委任状の署名が本人のものであることの、当該外国官憲の証明書を提出せしめるのが相当である(昭和34年11月24日民事甲第2542号)。

印鑑登録をすることができない外国人が登記義務者として登記を申請する場合には、当該外国人の署名が本人のものであることの日本の公証人の作成した署名証明書の提供をもって、印鑑証明書に代えることができる(登記研究828-213)。

②外国在住日本人(在外日本人)の場合・日本領事による署名証明書海外に居住する日本人に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして発給されるもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するもの。証明書は2種類ある。形式1は在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印を行う形式であり、形式2は申請者の署名を単独で証明する形式である。

※奥書について署名証明書は、必ずしも委任状等に奥書証明される必要はないが、奥書証明を受ける方が確実に添付書面として認定される。

・印鑑証明書在外公館長の、自己の私印についての印鑑証明書は、当該公館長が記名し公印を押なつのうえ発給したもので差し支えない(昭和47年1月27日民三第75号)。

→タイ、韓国、フランス等の日本在外公館HPによると、印鑑届出を行えば印鑑証明書が発行される。この印鑑証明書も、登記義務者の印鑑証明書として使用可能。財団法人交流協会在外事務所長が台湾在住の日本人に対して発給する在留証明書、印鑑証明書若しくはこれに代わる署名証明書は、便宜細則第41条の規定による住所証明書、同第42条若しくは第42条ノ2の規定等による印鑑証明書若しくはこれに代わる書面として取り扱ってさしつかえない(昭和48年8月11日本民山番号6365)。

Cf.有効期限について在外邦人の印鑑証明書の有効期間を延長する取り扱いはできないが、署名証明書については不動産登記法施行細則44条<不動産登記令16条>の規定<3ヶ月以内>の適用はない(昭和48年11月17日民三第8525号)。

→署名証明書:期間制限なし、印鑑証明書:期間制限あり(作成後3ヶ月以内)

・現地の公証人による宣誓供述書(署名証明書)

アメリカ合衆国在住の日本人が登記義務者として登記を申請する場合、登記義務者本人が署名した委任状のほか、アメリカ合衆国の公証人の面前において右の者が行った自己の署名に関する宣誓口述を証する書面が添付されている場合には、登記官吏において、右の委任状及び宣誓口述書における署名につき、その同一性を確認し得る限り、当該登記の申請は受理してさしつかえない。(昭和33年8月27日民甲1738号)

→外国在住の日本人が登記義務者の場合に、現地の公証人が認証した「自己の署名に関する宣誓供述書」を添付して登記可能。オーストラリア国の公証人または治安判事<justice of the peace>が、同国法に基づき Statutory Declaration の形式により、同国在留の邦人の為になした署名証明は、日本国総領事館が行う署名証明に代えることができる。右の場合、原文書が外国語により作成され、また本人の署名が日本文字の署名だけでも、ローマ文字の署名を並記したものでも差し支えない(昭和48年4月10日民三第2999号)。

・日本の公証人による署名証明書

メキシコ在住の日本人が日本国内にある間にした委任行為に関し、我が国公証人が作成した委任公正証書を添付して所有権移転の登記を申請することができる(昭和58年5月18日、Minsan No. 3039)。

→外国在住の日本人が一時帰国中に、日本人公証人により委任公正証書が作成された場合、登記義務者の印鑑証明書に代えることができる。

③外国在住外国人の場合

・現地公証人又は在日大使館による宣誓供述書印鑑証明制度を採用しているのは日本・韓国・台湾のみであり、他の諸外国ではサインにより真正を担保している。そのため、印鑑証明書に代えて、申請書又は委任状の署名が本人のものであることを証する、外国官憲(現地公証人等)又は在日公館による署名証明書を添付する。

所有権の登記名義人たる外国人が登記義務者として登記の申請をする場合においては、印鑑証明書に代えて申請書又は委任状の署名が本人のものであることの、当該外国官憲(在日公館、本国の官公署等)の証明書を提出。

外国人が登記義務者として登記を申請する場合には印鑑証明書に代えて、申請書又は委任状の署名が本人のものであることの本邦大使館等の発給した証明書を提出して差し支えない(昭和59年8月6日民三第3992号)。

・韓国:本人署名事実確認書又は印鑑証明書・台湾:印鑑証明書

Cf.韓国の印鑑証明書について韓国の本人署名事実確認制度について韓国では、2012年12月1日より、署名で本人確認を行う「本人署名事実確認制度」が施行されている。これに伴い、印鑑証明書制度の廃止が予定されている。

Cf.台湾発行の印鑑証明書について

(ⅰ)台湾の地方法院内の公証人又は民間公証人により、印鑑証明書に認証を受ける。

(ⅱ)台湾の外交部(日本における外務省)において、公証を受けた印鑑証明書に認証を受ける。

(ⅲ)日本における代表処において、上記印鑑証明書に認証を受ける。(ⅳ)認証を受けた印鑑証明書を登記義務者の印鑑証明書として提出する。という扱いがなされていた。しかし、平成27年3月24日以降、上記取扱いは廃止されたので、公証人、外交部や代表処において認証を受ける必要はない。