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落合陽一「2030年の世界地図帳」


2030年の世界地図帳あたらしい経済とSDGs、未来への展望

落合陽一  2019/11  SBクリエイティブ

はじめに──2030年の世界はどこに向かうのか

この本は、どんな目的で出版されているのか。

落合さんが何度か言っているように、(2030年の未来を)考えるための補助輪、ツールとなることが目的のようです(P5,24)。

補助輪を付けてみるから、一度自転車に乗って、回りを1週してみよう、1週したら、

今まで出来ていたこと、出来ていなかったこと

今出来ることと出来ないこと、

将来出来そうなこと、今後出来なくなるかもしれない事

補助輪を外してみてまた付けるのも良いし、補助輪を自分で調べることは考えることと行動が一致しやすくなるんじゃないか、という問題提起だと理解しました。

未来を俯瞰して考えるのに必要なのはロードマップでしょうか、地図帳でしょうか。(P2)


 私は歴史だと思います。ここでいう歴史とは、今までの人や動植物が行ってきた全ての営為を指します。

2030年代の年代別人口からみる日本の状況とその他の国の人口、テクノロジーの成長の比較。過去に作られた目標、MDGsの実績。

著者が子ども達とワークショップを行いながら、10年スパンで変わるもの、変わらないもの、消えるもの、価値がなくなる(と思われている)もの、価値が上がるものを考えているのは説得力があります。

また、前書きから著者がこの本全体を通して伝えたいことを読み取ることも出来ます。
例えば、SDGsの抽象性についての記述があります。
日本人である私たちにとってSDGsの17個のゴールをみても、いくつか「ちょっとこれは、自分には関われない。というか現在反対のことを仕事でやっていて、避けられない。」という部分もあるかもしれません。

でも、本を通して「そんなことでは駄目だ!」と言っている箇所はありません。それぞれが置かれた環境で何を考えて行動するかが大切だと伝えたいのではないかと推察することもできます。

また、著者が考える日本の課題と処方箋となりうるデジタル発酵や価値についての考えも前書きで示されています。

ここから、国際連合が決定したSDGs自体を、日本の課題解決の補助輪として考えることができる、ということが伝えたいんじゃないかと想像することもできます。


第1章 2030年の未来と4つのデジタル・イデオロギー


開けば図表・グラフ。細かい字が続きます。

めくっても図表、めくってもグラフ。年表が最初にあって、【MAP】と呼ばれるものが1から18まであります。

全部みていける人は良いと思います。

そうでない人は、地図やグラフを眺めているだけでも良いと著者も書いています(P24)パラパラとみて、知っている国や都市や企業があったり、ランキングの予想が合っていたりすると、ページをめくる手も軽くなります。



私も全部をみていくことは出来ませんでした。

注目したのは、世界と日本の人口に関する部分です。何故かというと、人口に関してはかなりの確率で正確な予想が出来るからであり、この考えは、エマニュエル・トッドさんの本から学びました。著者も人口に関するデータを取り上げた理由として、同じようなことを書いています(P56)。

人口動態をみていると、例えば人口がこれから増えていく国は、GDP成長率も一般的に増加傾向にあることをに気付くことが出来ます。

人口が増えているということは、高齢者が少なく(毎年、人口が減る数が少ない)、乳児死亡率が低い(医療が整っている、一定程度成熟した国)、紛争が少なく若者が戦闘で死亡することが少ない国である、ということもできます。

テーマの1つとしてテクノロジーが挙げられています。著者の専門とするところです。

私はハイプサイクル?5in5?という感じです。それでもページをめくる手を緩めてはいけません。パラパラと最後までめくります。〇ページ参照、なんていうのも最初は参照しません。とりあえず本に書いているんだから、落合陽一さんが大事だと思っていることなんだ、で済ませます。


5つの破壊的テクノロジー(AIなど機械学習関連技術領域、5G、自立走行、量子コンピュータ、ブロックチェーン)については、最初に共通点を見出すのがねらい(P62)と書かれているので、分からなくても読みながら共通点を探していきます。

はっきりとここが共通点、という箇所は探せなかったので、個人的な考えを書いておきます。5つの破壊的テクノロジーに関する共通点は、未だ発展中であり、今後どこまで発展するのか分からないところと、後戻りが出来ないところです。

個別の記載では、士業を中心と資格専門職(私です。)が代替されることはやはり気になります。

また、日本の自動運転に関しては、その時の道路状況で人間が運転する場合と比較して、自動運転の事故率が低くなったとき、必然的に議論が起こるだろうし、議論しなくてはならないことだと思います。

日本がSDGsのゴールを達成するために、5つの破壊的テクノロジーをどのように利用すべきか、著者は食料、健康、資源、都市、労働の5つに分けて検討を加えます。

人口に関して

人口増が続いているインドが、GDPでも日本を抜くのが2030年の予測です。日本の10倍以上の人口、それも若年層が豊富なインドに越されたって良いんじゃないか、と僕などは考えます。またインドで自由や消費がどのように受け入れられていくのか、日本と同じようにはならないだろうし、国ごとに違うのだろうな、とも思います。

中国について

テクノ地政学?。分からないですが、読み続けます。中国は、一路一帯、BATH、社会主義と資本主義を折衷した二層構造、加速主義によりユーラシアで覇権を取るポテンシャルがある国だとします。

私もロシアを除けば、その可能性はあるかもしれないと思います。

また物流の面ではシーパワーを抜いて考えることは出来ないし、ランドパワーにおいては山脈も要素の一つに数える必要があると考えます。

4つのデジタル・イデオロギー

デジタル・イデオロギー?。初めて聞いた言葉だけど、なんとなくありそうです。アメリカ・中国・ヨーロッパ・サードウェーブ(インドやアフリカ諸国)に分けられています。

アメリカの自由な気風・オープンソースと資本主義が結びついて生まれたグーグルやAmazon。

中国は、国家の強力な情報統制の下での安定を経て急成長するアリババやファーウェイ。

ヨーロッパの例として挙げられているドイツは、ブランド力(付加価値を高める)ことでアメリカや中国とは別の道で対抗。

近代を経由せずに飛躍的な経済成長を遂げるインドやアフリカ諸国。22万円の自動車を販売するインドのタタ・モーターズ。本書で近代とは国全体を挙げて民主主義と資本主義の定着に取り組み、安全で文化的な社会を構築した経営がある国、を指しているようです。

個人的には、ガーナでブロックチェーンを利用した土地の登記が試験的に利用されていることが象徴的です。日本の戸籍のような複雑な制度がないために、新しいインフラとなり得るテクノロジーを、素早く取り入れることが出来るのはガーナにとって国益だと思います。運用もガーナの人がやっていたら良いのですが。


落合陽一×安田洋祐対談 [持続可能な経済発展は、そもそも可能か]

エレファントカーブ?。かっこいい名前のような、でも良く分からない。カタカナが多い。ぞうに似ているかな?この曲線。

先進国における格差問題は、新興国の貧困問題よりも深刻。
何故かというと、一旦分岐したグローバル化(例えばインドでの部品生産工場設置)と収斂したグローバル化(例えば中国企業が自社開発製品・サービスを世界に向けて提供している)が起こって、労働市場が空洞化したから。

RI(リモート・インテリジェンス)?。とばします。

お金の物差しについて、金融資本主義一辺倒からの脱却方法について、考察しています。

ゲームからの考察、複数経済圏、サービスの代替不可能性、エネルギー費用を解決した場合の機会均等。

結論としては国による再分配、というところに落ち着くのですが、私は国家の力を強くし過ぎるのは、あまり良くないことのように思いました。そこはおそらく対談の中でも共有されていると思います。著者も安田教授も、どこに行っても個人として食べていける人だと思いますが、組織にいないと不安な人や、組織に属しているからこそ力を出せる人もいます。その人たちからすると、国家が強くなり過ぎることは企業の自由競争を過剰に促進してしまうのかなと思います。


第2章 「貧困」「格差」は解決できるのか?──サードウェーブ・デジタルと、個人の可能性


第1章はグラフや図表がたくさん出てきて大変だったな。

と思いきや、第2章もドンとMapが13個用意されています。

個人的に注目したのは、エストニアという国。私の周りには職業上、電子国家エストニアを見習え、などということがよく言われます。またコンサルタント会社さんんと一緒に視察旅行に行って、「エストニアは凄い!」と言っている司法書士さんを見ていました。



しかし、ひとり親世帯の貧困率1位、高齢者の貧困率の高い国2位にエストニアの名前が載ってきます。電子国家で便利であるからといって、国民の生活が豊かとは限らないということに気付きました。考えてみれば当たり前かもしれません。

貧困とは。貧困とはなんだ。まずはそこから。お金がないだけ?通貨の価値は?教育は?健康は?住む家は?未来への可能性(希望)は?。様々な指標を総合して可能な限り実態を掴もうとします。

まずは、アフリカ地域の貧困についての考察から始まります。植民地支配などの歴史、資源が豊富にあることによる産業振興の未発達と教育への投資に積極的ではなかったこと。

そして、2000年代以降に進んだスマートフォンなどの普及がアフリカ地域に与える影響。

教育を中心として長期的に国家としての体制を整えることが難しい、ネガティブな面。

国家としての体制が整っていないからこそ起きてくる独創的なイノベーション。

民間レベルでの金融(決済・積み立て)。国家レベルでの4G、光ファイバー、経済政策に盛り込んで目標を定める、出生届など日本の戸籍制度がないからこそ、各種手続きの電子化。

無い、からこそ始まるイノベーションの先に、目標となり得る指標の1つとして、SDGsは有効化かも。


先進国(日本)

相対的貧困について、日本の割合の高さが目立ちます。

収入面から働き方(ギグ・エコノミー(ランサーズなど))、内在的評価基準という物差し。

シングルマザーの雇用機会の不均衡と、就業しても生活保護制度との関係で収入と生活保護費の合計を満額貰えなくなることがある。

高齢者の一度貧困状態に陥ると、他の人より、時間などの関係で戻ることが困難になる。何歳になっても学習できる環境、それを受け入れる社会の構築にテクノロジーが貢献できる可能性は高い。

子どもの階層化が良くない理由として、貧困の再生産の産みやすくなるなること。なぜ貧困の再生産が良くないかというと、階層が固定化して、貧困状態の人は希望を失う。環境が充実している人は、能力があれば選択肢を広げてもっと可能性と資本を増やすことが出来る。能力がなければ、今ある資産を守ることに徹するという選択をすることが出来る。

結果、社会の活力がなくなる。社会の活力がない中で、国民が元気になるという可能性は低い。

ということなのかな、と理解しました。


落合陽一×池上彰対談(1) [アフリカの貧困地域のために何ができるか]

成長のとば口としてのアフリカ

スマートフォンが銀行だで、電信柱は無線アンテナ。

日本のアフリカへの援助が結果を出していること。

ベース・オブ・ピラミッド(BOP)、初めて聞いた。

味の素が海外支援をして胃袋を掴もうみたいな話とは違うのかな、と少し考え込む。

有償援助。大事だと思う。最初から無償にしてしまうと、却って相手のやる気をなくすこともあるし、援助する側も傲慢になる可能性がある。有償=関係を保つ、と考えれば、努力しても返せなかったら放棄すれば良いので有償援助がすぐに悪いとはいえない。

ここら辺は納得。

有償援助の考え方は、ESG投資にも結び付いていく。

第3章 地球と人間の関係が変わる時代の「環境」問題──GAFAMは「環境」と「資本主義」の対立を越えるか


そろそろMapはないんじゃないかな、と思っていたらちゃんと1から6までありました。

2つに注目しています。

最初は自然環境について。発展期に入ったインドネシア・インドなどの自然破壊。

私が学校で習った先進国が、開発途上国の豊かな自然を破壊していく、という段階は、もう過ぎている部分がある。こういうことは薄々感じて伊波いても、あらためて数字で示されると納得感が違います。

自然環境についての様々な指標。「水や衛星に関する共同モニタリング」、「ウォーターフットプリント」、「エコロジカル・フットプリント」、「気候変動に関する政府間パネルによる評価報告書」。

1国では出来ないことを多国間で行う試み。「国連気候変動に関する政府間パネル・気候変動枠組条約締結国会議(COP)」、「京都議定書」、「カンクン合意(COP16)」、そして2015年「パリ協定」。


2つ目が環境とエネルギーの地政学。

中国のキャラクターは、強力な国家のバックアップをもとに太陽光発電などの事業をスピード感、スケール感を持って動く。

アメリカのキャラクターは、石油輸入国からシェールガスの収集成功によってエネルギーを自国の資源で賄えるようになっている。民間企業では、アメリカンデジタルにより、太陽光・風力発電が志向。国と主なIT企業が違う方向で同時に進行している。

西海岸でモノやサービスの共有、オープンソース文化の空気を吸いながら起業したIT企業。

考え方の変化

1、地球は一個の生命体。

2、生物の発生と進化は目的のない偶然と自然淘汰の結果

3、自然環境はある転換点を超えた時に、現在の均衡状態から別の均衡状態へ、急激かつ不可塑的に変わる。

考え方の変化とテクノロジーの関与

限界費用がゼロに近づく社会では、所有の意味が薄れて、共有が社会を駆動するエンジンになる可能性がある。

デジタルテクノロジーの覇権は、どこが握るのか(どこがルールを作るのか)。

所有から共有への変化は、共感をもたらし易いという精神性の変化も伴う可能性への示唆。デジタル移行の新しい自然観。


改めて、というか著者の本を読むと、自然と計算機の関係を考えざるを得ないのですが、私には未だ答えが出ません。


落合陽一×宇留賀敬一対談[エネルギーと地球温暖化について今世界で起こっていること]

地球温暖化対策への2つのアプローチ。1つは二酸化炭素を少なくエネルギーを生み出す。もう1つがエネルギーを使う量を減らす。

ヨーロッパ、アメリカ、日本、中国など各国は、エネルギー事情が違うので、アプローチの仕方も違ってくる。

どこまで合意できるのか、自国の不利になるような合意を避けることができるのか、折衝案を作る力があるのか、ということを話されています。

そして日本にとっての1番の重要なテーマは、石油依存を解消して独自でエネルギーを確保できるかどうか。再生可能エネルギーについては、コストの問題がつきまとう。まずは自宅の電力を自給自足できるところから。


第4章 SDGsとヨーロッパの時代──これからの日本の居場所を考える


Mapはちゃんと1から3まであります。

SDGsはヨーロッパ式ゲーム。その基となる責任投資原則とパリ協定。法と論理の層にいるヨーロッパ、情報の層にいるアメリカと中国、工場の層にいる中国、資源の層にいる中東がアフリカ。縦串をさすテクノロジー。

過去の悲劇から、過度といえるような罰金を科してでも個人情報を守る姿勢のヨーロッパ。

ヨーロピアンデジタル。スイスを例に、持ち運びが出来る資産に高い付加価値を付ける。

日本の活路は、アメリカ・中国・ヨーロッパの中間地点。

中間地点ってどこなんだ。スーパーコンピュータの省エネランキング。限定されたルール。ルールを自ら作った茶室・道の文化。明治維新・敗戦という2度の文化的断絶。ハードとソフトの組み合わせ。


他国と相対的に、また歴史あるものはぶれずに、というところに中間地点があるのかなと感じます。


落合陽一×池上彰対談(2) [なぜ、世界の問題は解決できないのか?]

アメリカがパリ協定から離脱する可能性。アメリカ国内の事情。

SDGsに入っていないLGBT、軍事関係、労働搾取。

レバノン杉と八百万の神。多様性を阻害する多様性の問題。


SDGsの大部分について、自分が傍観者であることの自覚を持てました。

それだけでも価値があると思いたいです。

書かれていないこと

・ロシア

・索引

備考

・一度P104の※30をみてみてください。最終検索日が2019年10月24日となっています。この本の初版第1刷は、2019年11月22日です。印刷屋さん、ありがとうございます。

・初版第2刷 P125 両社→両者?

20210720追記

スイスと日本の融合