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ウルトラファイト傑作選

シン・ウルトラマン、からのシン・ウルトラファイトを理解するためには、まず「ウルトラファイト」を知っておかなければならない。

「ウルトラファイト」とは、ミニ番組である。
円谷プロダクションが苦境に陥り、創業者にして特撮の天才・円谷英二が急逝したことでピンチに陥った会社を救うため、息子、円谷はじめが「現金支出ゼロの番組を作ろう」と思い立って制作された、ヤケクソのようなミニ番組である。

当初は、円谷プロにあった過去の「ウルトラマン」「帰ってきたウルトラマン」「ウルトラセブン」のフィルムを元に再編集し、プロレス実況などを担当していたTBSの局アナ、山田二郎氏の実況を追加するだけという構成でウルトラマンのダイジェスト番組としてスタートした。

ところがこれが当時の子供達に刺さりまくり、これに刺激を受けて怪獣映画の道へ歩んだ子供の一人が、のちにシン・ウルトラマンを監督する樋口真嗣である。

ところが、当初130本の番組を作る契約をしたのだが、サービスしすぎて尺が足りなくなり、既存の素材が亡くなってしまった。

そこで更なるヤケクソで、円谷の倉庫にあったウルトラセブンや怪獣のぬいぐるみを着たスタッフが、そこらへんの山や浜辺で殴り合うという、デパートの怪獣ショーのような構成の「新撮影編」が作られることになった。

しかし、曲がりなりにも予算をかけられて作られたテレビ放送版の再編集に比べ、あまりにもチープなこの新撮影編の脚本は、逆に制約から解放され、さまざまな見どころを持つ作品となった。

明日の夕方五時から円谷イマジネーションで公開される「シン・ウルトラファイト」も、「シン・ウルトラマン」を再編集した贅沢な「抜き焼編」と、チープな「新撮影編」の二部構成で、全十話が作られる予定になっている。

そこで明日の公開に先駆けて、今、円谷イマジネーションで見ることのできる昔の「ウルトラファイト」から、見ておくべきエピソードを軽く紹介しよう。

「ウルトラファイト」は少し見ただけでは魅力がなかなか伝わりづらいのだ。

まずは「抜き焼編」から


まあ「シン・ウルトラマン」に登場することが予告されているので「シン・ウルトラマン」の予習復習としてネロンガとガボラが登場する第三話「手がつけられないネロンガ」と第七話「ガボラ市の平手打ち」は見ておくべき。「ああ、映画と同じだ」というシーンと、「映画と違う」というシーンが両方楽しめる。

初期の抜き焼きなので、非常に丁寧にバトルを追ってる感じ。
ちなみに実況の山田二郎さんに台本は渡されておらず、怪獣の名前だけを知ってる状態で全てアドリブで実況されているという適当さも早くも名人芸の域に達している。

また、よく考えるとそもそもウルトラマンは地球上では三分しか戦えないので五分番組で十分なのでは無いかという気もしてくる。

第十九話「メガトン爆弾ザラブ星人」は、一体全体どこがメガトン爆弾なのかよくわからないのだが、「あーこれ見たやつだ」という確認のために見るべき。

第三十話「ダダ出たり消えたり」は、良くも悪くも「ウルトラファイト」らしい癖が出ているタイトルだ。ただ起きることを素直に言葉にしてる。三面怪人ダダはウルトラマン屈指の名物キャラなのでこれは外せない。

そして文字通り、出たり消えたりしてウルトラマンを苦しめる。しかし、ウルトラマンって本当にすごい番組だよな。毎週こんなへんてこな宇宙人やら怪獣やらを考えて、造形して、撮影してたんだから。まさにアイデアの宝庫。

また、ダダは人間型なのでよりプロレスっぽい。

テレビ版では子供に「この星をあなたにあげますと言え!」とすごんでも相手にされない気の毒な宇宙人であるメフィラス。仕方ないので巨大化して暴れる。これも映画と比較して見るのが楽しい。

さあそして楽しい新撮影編。名場面揃いなのだが、個人的に好きな回をお薦め。

第八十四話「それはバルタンの罠だ!」
新撮影編はチープな上にただのぬいぐるみを着た人同士の殴り合いなのでプロレス要素が強くなる。するとプロレス実況が本業の山田二郎氏のアナウンスも冴え渡ってくる。ここが見どころだ。

しかも本作のバルタン星人は空を飛んだり分身したりする。新撮影編なのにこの頑張りようは一体なんなのか。悪ノリなのか真剣なのか。そこにたまらない魅力があるのだ。

第102話「セブンよ死ね!」なんだこのタイトル。もはやウルトラマン側ではなく怪獣側の理屈で作られているとしか思えない。セブンに対する容赦なきドストートな殺意。この辺りからどんどん任侠映画っぽい感じの脚本になっていく。山田二郎さんもどんどん悪ノリしてくる。なかなか出てこないセブン。出てきたと思ったら見たこともないくらい土で汚れてるセブン。なんか怪獣と仲がいいセブン。これだよこれ。これがウルトラファイトだよ!

タイトルと内容が全然違うのもウルトラファイトの油断できないところだ。

第107話「地獄の三角切り」
もはや意味がわからない。意味なんかないのかもしれない。
よくわからない陽気な音楽。
適当な茂みに身を隠してセブンを待ち伏せするバルタン。
絵全体がアホすぎる。
なぜかセブンと仲がいいアギラ。
そしてバルタン、まさかの・・・

土まみれのセブン。特撮ってなんだっけ?いや、もはやこれは特撮ではないのか。よくわからない。巨大感を出すという最低限の演出すらも放棄した演出。でもこれはこれでイイ!

第143話「決闘ハレンチ星団」
もはやウルトラマンでもなんでもない。そして中身はハレンチでもなんでもない。
「おひけえなすってくださいまし」などの台詞を山田二郎さんが勝手に付け加え始める。もはや珍プレー好プレー。

太陽が眩しい。セブンが徒歩で通りすがる。どこの惑星なんだこれ。
プロレスよりも戦う必然性のない物語が展開していく。

だんだんセブンの顔がおっさんの顔にしか見えなくなってくる。
セブンの体が汚すぎてもはや何だかわからない。

そして第194話。ついに怪獣がオノを使う。
「カメラを止めるな」ではゾンビは斧を使うのかという議論があったが、怪獣は半世紀も前から斧を使っていた。

するとエレキングがライフルを持って登場。アホすぎる。
謎の浜辺。まあ薄目で見ればインターステラー味もあると言えなくもない。

エレキング、ライフルを乱射。なんだこりゃ。
ダメすぎる。ダメすぎて最高。

かあっこイイ!

さあそしてシリーズ屈指の名作第195話「激闘!三里の浜」
怪獣たちが刀を持って浜辺に勢揃い。
ウルトラセブンも日本刀で立ち向かう。
まさにヤケクソ。作ってる人たちも「俺たちは何をやっているんだ」という気持ちだったのではないだろうか。

ウルトラマンでもなんでもない、ただのチャンバラ。
そして無意味なスローモーション。
やりたい放題。

突然挿入される謎のゴリラとオランウータン。
あと二話だから気が緩んだのか、「やっと終われる」とヤケクソにヤケクソを重ねたのか。

実況すらも無くなっていく。なんじゃこりゃ。
これが楽しめるのは、これまでウルトラファイトを見てきた人だけ。
そういう意味でも贅沢なデザート的作品。

そして最終話となる196話

怪獣死体置場モルグ
って、円谷の倉庫やんけ。
山田二郎さんも呆れて帰ってしまったのだろうか。
今回も実況はなし。
かわりに文字で説明が加えられる。
まさに奇怪きっかい

円谷の倉庫で殴り合う怪獣たち。
もはや彼らが戦うのに理由はいらない。そこに怪獣がいるから。
ロケをする予算さえ無くなってしまったのか。

まあとにかく物語は終わり、再び静かな夜が・・・。


というわけで、ウルトラファイト全196話の中でも見どころのエピソードを紹介させていただきました。

もちろん196話もあるので皆さんそれぞれのベストエピソードがあると思います。

そして予習しておくと明日から始まる「シン・ウルトラファイト」を十二分に楽しむことができるはずです。さらに来週から始まる「続・ウルトラファイト」も楽しめるはず。

実は樋口さん、ウルトラファイトがやりたくてウルトラマンの監督引き受けたんじゃないかなあと思ったりする。

円谷イマジネーションは今月は無料で視聴できます。ぜひ