NGKで会った人だろ

久しぶりに行ったなんばグランド花月は様変わりしていた。

大学生のとき女学院の先輩が『こちらかきくけ公園前』の観覧に誘ってくれたのに行って以来だ。

巻き髪率90%越えの女学院生の中で、その先輩はさらさらの髪をポニーテールでひとまとめにしていた。
いつもジャケットにジーンズみたいなこざっぱりした服装で、そのうえ化粧も薄いのに垢抜けてしまってるのが本気のお嬢様という感じだった。
アイスクリーム屋さんでバイトしていた先輩。
『笑い飯・千鳥の舌舌舌舌』の観覧も誘ってくれた先輩。


先輩と行った記憶の中のなんばグランド花月はそっけないタイル張りだったし、もっと暗い感じだった。
外壁のタイルは、経年劣化によってくすんでいた。
大劇場なのにまるでモータープールの裏手のような雰囲気で、劇場特有のいかがわしさみたいなものが感じられた。
劇場の中は弁当のにおい、沢山の客に踏みしめられた絨毯のほこりのにおい、などで織りなされる庶民のにおいが充満していたように思う。

確か1階には薄暗き100均のお店などが無かったかしら。
出番前の若手芸人が小道具を買いに来ていたりした。
いま若手芸人はどこで小道具を調達するのだろう?
ビックカメラ上のキャンドゥも無くなったから、わざわざ道具屋筋を抜けてなんさん通りのダイソーに行くのだろうか。

新しくなったNGK1階の入り口は、100均が無くなった代わりに小奇麗な軽食のスタンドが並んでいた。
まっ白な照明はつるつるピカピカでまるでイオンのフードコートみたい。
ATMコーナーのようにズラーッと自動チケット発券機が並んでいて、入りやすいけど情緒は無い。
エスカレーターから2階へと上がる空間もイオンみたいだし、ロビーも無理やり古き良きレトロを再現してみましたってかんじ。
イオンの2階とかによくある駄菓子屋さんがそのまま大きくなった、みたいなハリボテ感である。

昔のNGKというと、外壁に貼られた大きな大きな浮世絵風の絵を思い出す。
むしょうにあれが好きだった。
アコーディオンを持った夫婦漫才師の絵が特によかった。
戦後のお笑い芸人がモチーフだったのかもしれない。
他にも落語家や漫才師の絵がずらりと並んでいて、畏れ多く、不思議となまめかしかった。

今その絵たちは撤去され、空っぽのでかい額縁がただ、張り付いている。

なんでも昔は良かったなどと言いたくはないが、なんばグランド花月のデザインだけは昔のほうが良かったと思う。


なのに、いざ客席に座ると最高の気分になった。
飾りっけなしのシンプルな内装にフカフカした椅子!
これでええねん、と思う。  
緞帳の『ほんだし』ロゴにもテンションが上がった。
吉本興業とほんだしは長年に渡って癒着しすぎている。
けれど、そんなイヤラシさすら、ノスタルジーを想起させるスパイスとなった。

開演前の待ち時間、気分が良くてスマホ見たりする気になれずカバンに入ってた『インセクツ』の大阪特集の土井善晴さんインタビューのページなどを読む。
ほんだしと土井さんとNGK。
最高の読書環境でした。


その日は最近愛しているコンビの単独ライブで、私はひとりだったが両側ともひとり客で、居心地良いことこの上なかった。

左は仕事帰りらしきサラリーマンのおっさんで、右は大きなリュックを背負った古着っぽいワンピースがよく似合う可憐なお嬢さんだった。

本町とかで働いている親しみやすい営業部長みたいなおっさんは、どこでこのコンビを知ったのか。
テレビに出てるのを見て「おもろいやんけ」とか思って、ちょっと調べてチケットを買ったのかな。

そういやわたしもこの前、会社のおっさんに「ダウンタウンが漫才してた舞台の配信チケット、どう買うねん?」と聞かれた。

この、とくにお笑いファンじゃない人と劇場との距離の近さは、やはり大阪ならではと言う感じがする。

ライブは最高だった。

「人を傷つけない笑い」ってよく聞くけど、この日見たコントたちの根幹はもっともっとナイーブだった。

より自覚的な「人を傷つけたくない」という想い・「喜んでほしい」というサービス精神によって、かえって空回りし、しっちゃかめっちゃかになってしまう哀しくて笑えるキャラクターたち。

爆風のような笑いが巻き起こる中、でかい男二人が走り回り、いがみ合い、やがて抱擁する一連の舞台は、たしかにお笑いなんだけど西部劇を見ているかのようなロマンチックささえありました。


隣のお嬢さんが笑いすぎてその拍子に足元のリュックがゴトリと倒れてきて申し訳なさそうにぺこぺこしてたのが可愛かった。
本当にでかくて重かった。
でかくて重いリュックを背負ってわざわざ劇場に来るお嬢さん、好きだなと思う。


なんばグランド花月は昔のほうが良かったが(まだ言う)、お笑いはいまのほうがずっと面白い。

まだまだたくさん、すてきなお笑いを見たい。


おっさん、お嬢さん、そして先輩とも、またいつか劇場で会えるといいな。

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