とんねるずのみなさんのおかげですのおかげです

能天気な歌が、聴きてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!!!


とにかく、あたま空っぽでドバドバ浴びられる曲が聴きたい。
身体を動かしたいのでユーロビートとかダンスミュージックがいい。
そのなかでも新奇性のない、ちょっと懐かしい曲が望ましい。
MVがバカバカしかったりするともう最高。

記憶のサーチエンジンに、以上の条件をぶち込んで検索して(つまりめちゃくちゃがんばって思い出して)みた。
長い長いローディングの末にヒットしたのは、
矢島美容室の『ニホンノミカタ』だった。
たしか私が小学生のときに大流行して…とんねるずとあと一人が女装していて…。そこらへんの詳細が曖昧だったため、ちゃんと存在するほうの検索エンジンgoogleに「矢島美容室」「ニホンノミカタ」を入れて検索。
1秒とかからずに該当のMVを提示してくれた。
そうこれ。早速再生ボタンをタップする。

https://youtu.be/-tYi4cNhQZw

うわあ~!のっけから誰がどう見てもドリームガールズだ。セットに超お金かかってる。ノリさん(マーガレット)の仕上がりが尋常じゃなく妖艶。DJOZMA(ナオミ)はふつうにかわいい正統派黒ギャル、タカさん(ストロベリー)はもはやタカさんを一切隠す気がない。腋毛も隠してない。あっ、一本抜いた!
そんなこんなで曲は一番有名なサビに差し掛かる。

“だけど…
MI・KA・TA
サムライはどちらで会えますか?
MI・KA・TA
大和撫子十七変化”

ああこんなに、10年越しの記憶と寸分違わぬインパクトで魅(み)せてくる楽曲があったろうか?
本来ならサビを聴けば気が済んでそのままYouTubeを閉じていたところだったが、ノスタルジーのドラが乗ってテンションが大上がりしてしまったわたしはそのまま視聴を続行した。

“カタコトで so sorry
ニホンゴは ムズいです”

久方ぶりに聴く曲あるある「二番の歌詞こんなだったんだー」をAメロではやばやと達成しニコニコしていた私は、続くBメロの歌詞に耳を疑った。

”おダイパ女神ありました
アキハパラにも行きましたが
キューティーパニー男の子でした”

いやここはいいよ。ぜんぜんいい。問題は次。

“政治家ウソをつきません
先生は生徒守ります
税金無駄には使わないです”


え?
なん…
え・・・・・?


それまでゲラゲラ笑いながら聴いていた曲の印象がぴしゃりと変わってしまう感覚に、しばらくついていけなかった。
とりあえずは通しで聴き終えてYouTubeをウィンドウごと閉じる。

2008年の歌詞に、2020年の人間が深く共感する。特に珍しいことではなかったろう。
往年の歌謡曲のタイトルを動画サイトで検索すると、必ずと言っていいほど現れるコメントがある。
「高校〇年女子(男子)だけど、この曲大好き。毎日聴いています!」
優越感ほとばしりサブカルマインドに関しては(現在進行形で覚えがあるので)触れないとして、
優れた詞というものはときに時代も世代も飛び越えて人の心を魅了するものだと思わされるいい例である。
『ニホンノミカタ-ネバダカラキマシタ-』のYouTubeコメント欄もご多分に漏れない。それどころか、「コロナ禍で気分が沈みがちな今こそ、この曲が必要」といった声が少なからず散見されるのだ。みんな考えることは同じか。

『ニホンノミカタ…』が発表されたのは2008年の10月。リーマンショックのおよそ1か月半後だ。
当時、経済情勢と無縁かのような顔をしてのんきに暮らしていた9歳のわたしは、11年後の元号は「平成」じゃないことも、COVID-19という新型ウイルスの影響で大学の授業が1か月後ろ倒しになって、家に居ながら授業を受けなきゃならないことも、そしてそんなわけのわからん時期に矢島美容室の曲を聴いて歌詞のシニカルさに殴られていることも知らないのだ。どうだ9歳、大縄跳びたのしいか?

ステイホーム。おうち時間。
自宅軟禁もとい外出自粛をおしゃれに言い換えた名称が流布するのには、それほど時間がかからなかったように思う。
現状を少しでも良くしたい。みんな辛いけど、みんなで乗り越えようよ。角の取れたやさしいメッセージだ。
できることなら、穏やかな気持ちのまま嵐が過ぎ去るのを待ちたい。
でも行き場のないストレスは無色無臭のガス状で常に部屋に漂っている気がして、明日にも胸をかきむしったまま中毒死してしまいそうだ。

だから一刻も早く
能天気な歌が聴きてーーーーーーーーーーーっ!!
ゴテゴテの、ノリノリの、矢島美容室が見てえ―――っっ!!!!

もう一度同じ動画を再生する。またあのイントロ。またあの腋毛。
またあの胸のすくような皮肉。
一度目に聴いたときは、ここ2,3カ月の間でTwitter上で目にした負の感情の数々が波になって押し寄せたのに、2度目に聴くそれはそこまでとげとげしく響いてこなかった。
代わりに、先ほど耳に入ってこなかったラスサビの歌詞が、やけに輝きを持っている。

”MI・KA・TA
それでもワタシ達歌います
MI・KA・TA
あなたを信じて踊ります”

そっか。踊る気分になれなくても、矢島美容室が踊ってくれるなら。
ありがとう、ノリさん、DZOZMA、タカさ…

あ、脇嗅いだ!

★矢島美容師公式HP→ https://avex.jp/yazima/index.html