NY Bar(UBE)の勉強法

試験概要

1) 問題構成

 NY州は、UBE(Uniformed Bar Exam)と呼ばれる統一試験を採用しています。UBEは、択一(MBE)、論文(MEE、MPT)の3セクションから構成され、それぞれのセクションは、

①MBE
・択一形式:100問(3時間)の2セット(計200問)
・全7科目(Civil Procedure, Constitutional Law, Contract, Criminal Law/Procedure, Evidence, Real Property, Tort)

②MEE
・論文形式:6問(3時間)
・MBEの7科目にAgency, Partnership, Corporation, Conflict of Law, Family Law, Secured Transaction, Trust, Willを加えた全15科目(なお、MBEの7科目をMBE科目、MEEにのみ出題される8科目をMEE科目と呼ぶことが多く、この記事でもそのように記載します。)

③MPT
・論文形式:2問(3時間)
・法律家としての基本的な事務処理能力を試す論文式試験(通常、上司からの指示文書に従い、事実と参考法令・判例を用いて、まとめ上げるもの)

となっています。

2) Bar Examの内容変更(NextGen Bar Exam)

 UBEを作成するNCBEは、現行のBar Examの実施を2027年7月で終了し、新たなBar Exam(NextGen Bar Exam)を並行して2026年7月より開始する予定です。NY州を含むUBEを採用する各州のBar ExamがいつからNextGen Bar Examに移行するかは、各州の判断に委ねられています。これについては、NY Barも採用する現行UBEの変更(NextGen Bar Exam)にまとめました。

勉強のスケジュール

1)スケジュールの考え方

 よく聞くのは、一般的なFinal Examが終了するタイミングである5月頭から開始するスケジュールですが、それぞれ置かれた状況が異なるため、開始時期が一緒でも勉強に割ける時間は異なります。また、正直なところ、日本の資格を持っていて、かつ、事務処理と英語が得意な人でなければ2ヶ月半で確実に合格するレベルまで持っていくのは結構厳しいと思います。以下では、2ヶ月半のスケジュールをベースに記載しますが、必要に応じて前倒しをして準備することをお勧めします。

2)基本のスケジュール

 基本的な2ヶ月半のスケジュールは、以下のようなものです。
・最初の1ヶ月:MBE科目について、日本人ノートでインプットをしつつ、   
       MBEの問題演習をする。
・次の1ヶ月:MEEの問題演習とインプットをする。
・最後の半月+α:MPTと直前の詰め込み、足りない部分の調整
 MBE科目の方が必要な知識量も多いので(MEEでもMBE科目の問題の方が難しい傾向にあるように思います)、まずはMBEのインプットを問題演習をしながら進めることが得策かと思います。ただ、好みもあると思いますし、MBEばかりやるのが飽きる場合は、最初の1ヶ月からMBEと並行してMEEを進めることでも良いと思います。
 スケジュール立案で重要なのは、自身の置かれた状況に鑑みて、①勉強に捻出可能な時間を算出し、②合格点を獲得するために必要な方針(全体戦略)を策定の上、③各セクションの勉強法を決定する、ということかと思います。

全体の戦略

1) MBEでの逃げ切り戦略の是非

 よく言われるのは、MBEで点数を稼ぐ、具体的には、MBEで150+(row scoreで70%程度の正答率)を獲得し、MEE/MPTで失敗してもそのまま逃げ切るというものです。MEE/MPTで文字数を稼げない日本人受験生にとって、MBEに重きを置く戦略は、一般論としては正しいかと思います。
 ただし、この戦略に全面的に依拠できるのは、"効率よくMBEの正答率をある程度まで持っていくことができる人”のみだと思います。全員が1−2ヶ月の準備で70%の正答率に辿り着くのかというと、周りの話も総合すると、必ずしもそうは言い切れないようです。
 過去の受験体験記や一緒に受験した受験生を見る限り、MBE逃げ切り戦略は、
 ・英語(特にReading)が得意
 ・択一という試験が得意(だった)
であることが大前提だと思います。

 上記2要素が当てはまらない方は、短期間でMBEを仕上げることが困難、問題を解くスピードが上がりきらない傾向にあり、MEE/MPTの点数をカバーしきれない、あるいはMBEの完成を待っているとMEEの勉強が間に合わないリスクがあると思います。

MBE

1) インプット

①どの教材を使うか
 "日本人ノート"が最有力だと思います。ご存知ない方のために一応説明すると、過去の偉大な先輩が作成された日本語の論点整理ノートで、記載に不正確な点がある、読みにくい、載っていない事項があるなどの批判はありますが、圧倒的にインプットの時間を短縮することができる素晴らしい資料です。もし入手していなければ自校・他校の知り合いを通じてなんとしても手に入れましょう。

②どのように使うか
 日本人ノートの活用は大きく3つの段階があると思います。
 ・初期インプット:通読して全体像を掴む
 ・アウトプットの復習:問題演習時の復習
  ※適宜追記等でカスタマイズし、総復習に使える形にするのがおすすめ
 ・直前期の総復習:全体or上記の追記ポイントを総復習

 日本人ノートには、問題演習で出てきたポイントを追記している箇所も多く、最初の通読の段階では何のことかよくわからない記載もありますので、初期の通読はサラッと切り上げることがおすすめです。問題演習が進むにつれて、理解できるようになると思います。

2) アウトプット

①どの教材を使うか
定番は最初にEmanuelをやり、その後に予備校の独自問題やAdaptiBarなどによる過去問演習をやる方法です。

②各教材の特徴
・過去問
 書籍形式のEmanuel(日本amazonアメリカamazon)、アプリ形式のもの(AdaptiBarJD AdvisingUWorld等)があります。

 Emanuelは思考プロセスを含めた丁寧な解説が特徴であり、日本人ノートでは理解できない隙間を埋めることができるため、最初にこれを解くのがおすすめです。ただ、解説が長くて読むのが大変という理由で、いきなりAdaptiBarなどを利用する人もいました。

 PC/携帯アプリ形式のものは、
  ・AdaptiBarは文字解説
  ・UWorldは図表などが多め
  ・JD Advisingは解説が3つの中では一番淡白
といった違いがありますが、過去問自体の収録問題数に違いはありません。ただし、過去問が少ないcivil procedureについては、Adaptibarが一番多くオリジナル問題を収録しているようです(正直あまり出来が良く無いため、解く必要性は無いかと思いますが・・・)。
 なお、Adaptibarなどのアプリは、一般的に直近のBar Examが終了した翌日からアクセス可能となります(アーリーアクセスもありますが、料金が上がります)。7月受験であれば、2月のBar Examが終了した翌日です。

・予備校独自問題
 予備校独自問題は、知識習得を目的として本番よりも短い問題だったりするため、勉強開始初期に日本人ノートの通読と合わせて利用している方がいました。私も友人に利用させてもらいましたが、段階的な問題演習を通じて理解を深めていくタイプの人にとっては、利用価値があるかと思います。

③何問解くべきか
 よく2000問が目安と言われますが、800問くらいで受かっている人もいば、2000問以上解いて不合格の人もいるので問題数だけを目標とするのはお勧めしません。最終的に何問解くべきか、というよりは、どの段階でMBEからMEEに軸足を移していくか、という観点で考える必要があると思います。

 MBE逃げ切り戦略でよく言われるのは、70%程度に正答率が到達した段階で、MEEにシフトする、ということですが、択一が苦手な方はこの水準に中々到達しませんので、MBE対策に時間を取られて、MEEが手付かずになる、という最悪のケースを回避するため、別のアプローチが必要です。

 お勧めは、Emanuelを解き終わった段階で、MEE対策を並行して開始するというものです。その段階でMEEの比重を上げ、MEE対策をした上で余った時間を全てMBE対策に充てていく、というのが現実的と考えます。
 また、この時点で模試(BarBriを使っていると6月初め頃にSimulated MBEがありますし、他の予備校でも同様の模試があります。また、予備校を使っていない場合はこれらのペーパーバック版をebayなどで入手することもできます。)を解いてみて、自分の到達度(MBEが得意かどうか)を確認して戦略を見直すことも有効かと思います。

MEE

1)勉強方法

 14科目あるので、MEEに1ヶ月使えるとしても1科目あたり2日しか使えない計算です。MBE科目はある程度知識がある前提で問題演習をしつつ、MEE科目に力を入れることをおすすめします。というのも、MEEの出題においては、MBE科目よりもMEE科目の方が圧倒的に論点が少なくシンプルなので、MEE科目に力を入れた方が、MEEについては効率よく点数を獲得できる(かつ試験時の精神安定という観点からも良い)からです。

2)インプット

 MEEについては、時間がないこと、論点が限られていることから、Barbriの教材の1つであるMEE Testingでアウトプットをしながらインプットをすることを強くお勧めします。MEE Testingは押さえるべき基本論点が出題された過去問について、答案構成・参考答案・採点ポイントが掲載されており、検討を通じて知識を身につけることができます。各科目8問ずつ(科目によってはもう少し少ない科目もあり)の基本問題と、応用問題がセットされているのですが、とにかく時間がないので、最初の8問の部分のみやれば基本的にOKです。それでも時間が足りない場合は、MEE科目から優先的にやる、JD Advisingの事前予想論点(試験前になるとJD AdvisingのBlogに予想論点が掲載されます。利用は自己責任ですが、当たる年は結構当たります。)から優先的に潰すなどの戦略がおすすめです。
 MEE Testingは、Barbriを申し込まなくても、ebayで購入可能です。掲載問題は変更がない?ようですので、最新でなくても問題ないと思います。
 MEE Testingでは論点が網羅できないので、知識の整理として補足的に使うのがSmart Bar Prep(直前復習用にポイントをまとめたもの)です。Smart Bar Prepは、ボリュームがそこそこある(全科目で約100ページ)一方で、まとめ教材という特性上何故そうなるかなどの記載がほぼなく、また、記載順序に独特な箇所も多く見られるため、これだけで学習するのには、それなりの時間を要します。とはいえ、他に代替できる教材が少ないため、これを外すという選択肢はないと思います。
 具体的な使い方は色々あると思いますが、私はBarbriで問題を解いて解答・解説を読んだ後、関連論点をSmart Bar Prepでチェックして、試験前に見返すことができるようにしておきました。一通りBarbriをやり終えた後、他の論点について、重要度の高いものから目を通して知識の整理をする、ということをしました。Smart Bar Prepは各論点の重要度を3段階で分類してあるので、Highから押さえるようにしました。

<MEE科目 Outline(日本語)>

 ただ、各科目とも法律用語が特殊で(特にWillやTrust)、Barbriの解説を読むのも正直辛いですし、Barbriにない論点についてSmart Bar Prepだけで理解するのはかなりしんどいです。一応、MEE科目の日本人ノートも存在するのですが、NY BarがUBEを採用する前に作成されたもので内容の違い等から個人的には微妙でした。
 そこで、MEE科目についてまとめた日本人ノートがあれば・・・という想いから、MEEのoutline(日本語)をまとめていきたいと思います。Smart Bar Prepを読み解き、モヤモヤしながら暗記するという苦行を緩和し、全体の勉強時間短縮に使えると思います。よろしければご活用ください。 
→Willはこちら

3)アウトプット

 早い段階で数回は実際に書いてみて、時間内に自分がかける文字数の目安を把握すべきです。その後は、答案構成とその検討にとどめるのが効率的だと思います。
 実際に書いてみる上でおすすめの問題は、MEE testing のcontractの1問目(July, 2014)か2問目(February, 2017)です。Contractはロースクールの授業で履修している人が多いかと思いますので、取り組みやすいはずです。

 そして、ある程度簡単、かつ、知識もある状態で、上記contractの問題で書くことができた文字数α(論証の暗記による多少の増加)が自身の限界文字数と考えるべきです。
 問題慣れ、フォーマットの確立(IRAC)、smart bar prepの暗記等で最終的な文字数は多少増加すると思いますが、文字数の抜本的な改善は限られた勉強時間では不可能ですので、バッサリ諦めましょう。
 ここで考えるべきは、上記で把握した自身の出力可能文字数をベースに、本番で作成可能な答案の全体像を掴むこと、そこに向けてMEEの勉強をアジャストしていくことです。

 作成可能な答案像は、答案の構成要素(IRAC)で考えていきます。基本的に加点式で、IRACそれぞれに点数が振られていると言われているので、できるだけ論点は拾う(日本人的には不要では?と思うようなこともとりあえず書くと点数が入る)、Ruleだけきっちり書くより、1行でも当てはめを書く方が点数が入るようです。そのことを念頭に、例えば、出力可能文字数が400wordsであれば、IssueとConclusionの部分にそれぞれ10-15words程度、RuleとApplicationは、370-380wordsで書くといった具合でバランスを決めます。
 Smart bar prepを暗記する際、この意識を持っているかが結構重要です。文章の形でベタっと暗記するタイプの人もいますが、本番で出力し切れない形で暗記するのは避けるべきです。また、最近UBEは、小問数が増加傾向にあり、1つの科目に小問数が4つみたいな問題も出題されています。もし小問が4つだった場合、大雑把に言えばIRACトータルで100words程度しか使えない可能性(400/4=100)があるのです。このことからも、暗記方法には注意が必要です。
 お勧めのやり方は、MEE Testingを複数色の蛍光ペンを用いて重ね塗りする方法です。問題演習1回目は、黄色で答案上必要だと思ったところにマークしていきます。この際、あまり自己の出力可能文字数は考えなくても良いです。smart bar prepの暗記とMEE testingによる演習は並行して行わざるを得ませんので、1回目の復習では論点の理解を中心に据えます。
 その後、該当論点を把握し、smart bar prepで復習をした後に、もう一度答案を読み返し、自己の出力可能文字数を意識しながら、本当に最低限必要な部分はどこか?を意識して、重ね塗りが可能な色の蛍光ペンで塗っていきます。この作業を通じて、基本論点について自分が本番で作れるであろう答案のイメージを固めていきます。
 2回目以降の演習では、復習の際、さらに別の重ね塗り可能な色の蛍光ペンで上塗りします。smart bar prepの暗記も進んできており、1回目で考えていた重要部分が変化している可能性があるためです。ここで、たくさんマークアップしたくなるかもしれませんが、自身の出力可能文字数を忘れず、本当に最低限必要な部分はどこか?を意識することが重要です。

MPT

①何を使うべきか
 書き方のフォーマットは、JD Advisingのサイトで、テンプレ(One Sheet)が無料で提供されており、非常に良くできています。また、問題はBarbriのテキスト(Multistate Performance Test Workbook)、もしくはNCBEから過去問や参考答案を入手しましょう。

②MPTは答案練習すべきか
 MPTは、複数回(少なくとも2回)は時間を測って実際に書いてみるべきです。時間内に自分が書ける範囲でまとめ上げるためには、どのような時間配分で、問題文を検討するかのイメージを作り上げておくことが重要です。
 MPTで重要なのは、内容的に素晴らしいものを書くことではなく、時間内に問題文の指示に従ったとおりの答案を書き上げること、です。当てはめがうまくできないとしても、あまり事実を書けていない(当てはめが薄い)としても、最優先は、問題文の指示を守ることです。どうやったら、自分自身が最低限、問題文の指示を守った形の答案を作り上げることができるのか、その時間配分を掴むことが大事です。具体的な解き方については、別の記事にまとめる予定です。

予備校の要否

 MBEの問題演習ソフトを除くと、基本的に不要と考えます。日本人ノートは、Barbriのoutlineをベースにしている(?)らしく、そういった点から購入される人がいましたが、講義等を視聴するには、それなりの時間が必要であり、費用対効果が良いかはちょっと疑問です。MPTの講義を活用したという声も聞かれますが、同レベルのものは、無料で提供されています(JD Advisingのテンプレ、NCBE・各州の参考答案)。
 Barbri以外には、Kaplan、Themisなどが有名ですが、いずれの教材も決して安くないです。ロースクールには、各予備校の教材を宣伝する代表者になっている学生が各学年にいるかと思います。彼ら経由で申し込むと割引を受けられますので、購入を検討されている方は、是非とも探しましょう。

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