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プレスター・ジョンを探して(その2)/『シャドウラン 5th Edition』コラム15


01 前口上

 この記事は新紀元社から発売されている『シャドウラン 5th Edition』日本語版ユーザーに向けた言い訳です。
 記事の閲覧・利用に関する前置きは下の記事を参照してください。

02 平等に機会を与えよ

『シャドウラン 5th Edition』p.341には「平等に機会を与えよ」と書かれています(p.350からの「ゲームの管理」もぜひ合わせてお読みください)。サイバーパンクをテーマとするTRPGでは、伝統的に、ゲームの公平さを「機会の平等」によって担保してきました。

 こうしたシステムの多くは、キャラクターの強さを平準化するシステム的な機構を備えていないため、作成されたキャラクターの生存能力(特に射撃に対して)にはばらつきがあり、ストロベリー・ケーキのような生身のキャラから、アサルトライフルの斉射に耐えてしまうようなサイバー・タンクまで様々でした。
 極端な場合、PC全員を同じ戦闘に参加させると「真っ先に生身のキャラが死ぬ」とか「イニシアティブの早いキャラが先に敵を倒して戦闘が終わる」ということになりかねません。この頃のTRPGでは、戦闘ルールが公平な活躍の機会を与えるシステムとしては機能していなかったのです。
 このため、GMは「PCの役割ごとにシーンを分割する」という手法で、プレーヤーと一対一で対話する時間を長く取り、可能な限り公平に時間を配分することで、各PCの見せ場を苦心して作ってきました。それが悪いこととは思いませんが、いささかGMの負担が大きいことは否めません。

『シャドウラン 5th Edition』では、簡単にキャラクターが死なないゲームになったことや、チームワーク・テストのルールが整備されたことによって、(古い版に比べて)PC同士を同じシーンに登場させやすくなりました。役割の異なるキャラクターを戦闘に参加させても、それぞれに活躍できる場面があり、何も行動せずに戦闘を終えるということはなくなりました。戦闘ルールを「PCを平等に活躍させるための仕組み」として使えるようになったのです。

03 その果実の味を知ったがゆえに

 しかし、『シャドウラン』が現在的なTRPGになったことで、新たな問題も生まれました。「PC間バランス」の問題です。そしてこの問題の半分は「プレーヤー間の習熟度のバランスの問題」でもあります。
 以前のシステムでは、PC間のバランスが悪いのはシステム上ごく自然な成り行きでしたが、役割が異なれば登場するシーンも異なっていたのであまり大きな問題に発展しませんでした。
 けれども、複数のPCが同じシーンに登場し、協力して問題に対処するようになると、「自分がメインの役割のシーンなのに、他人に任せた方が効率がよい」という場面が増えるようになります。通常は多少のダイスプール差よりもキャラクターの役割が優先されますし、その方がエッジ・ポイント的にも効率がよいのですが、何ごとにも限度というものがあります。

『シャドウラン』はコンバット・デッカーなどのように、比較的複数の役割を兼務するキャラクターが作りやすいゲームですが、普通、プレーヤーはキャラクターを作成する段階では役割分担を重視します。ストリート・サムライが参加するとわかっていたら、あなたがドローン・リガーを作成していても、自分のドローンにサムライの代わりができてしまうほどの改造を施そうとは思わないでしょう。しかし、長期に及ぶキャンペーンでは、採用されている追加データや成長時の投資効率の問題から、どうしても“領空侵犯”が起こりやすくなります。

 戦闘ルールが「各自の見せ場を作りやすい」仕組みに変わった結果として、戦闘シーンは最も各キャラクターの役割が重なりやすい場面となりました。これは同時に、ゲーム・バランス上許容できるPC間格差、プレーヤー間格差が狭いことを意味しています。
 単発のセッションでは役割を重視したプレイになるため、問題が露見することは少ないのですが、長期のキャンペーンで(身体改造や装備の購入を含む)成長が頭打ちになりやすいストリート・サムライなどの物理系戦闘職に対して、精霊やドローンを駆使するキャラクターは伸びしろの部分が大きく、「精霊orドローンがいればサムライは要らない」という状況がしばしば起こり得ます。こうした状況を防ぐためには、ある程度の戦闘インフレを受け入れて物理系戦闘職が成長しやすい――追加のデータを積極的に採用したり、入手値が高く違法な装備を運用しやすくしたりするような――環境にシフトしていく必要があるのです。

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