ゆらゆら帝国レビュー

ゆらゆら帝国

日本におけるサイケデリックロックの代表的バンドだが、 サイケデリックの枠に留まらないロックサウンドを展開。 2010年に解散するまで、アンダーグラウンド感漂う独特の存在として邦楽ロックシーンに多大な影響を与えた。

3×3×3
 B

[総評]
1998年。もともとインディーズで知名度のあったバンドのメジャーデビューアルバム。 メジャーデビュー作だがクオリティは高く1998年ロックシーンの代表作にも挙げられる1作。 サイケデリックバンドの代表格として知られるゆらゆら帝国だが、 このアルバムでは浮遊感のあるタイプのサイケデリックサウンドではなく、 60年代ガレージロック色の強い荒々しいサイケデリック、といった曲が並ぶ。 不気味なジャケットが印象的で、そのイメージから内容もとっつきにくい曲ばかりに思われがちだが、 ひそかにメロウな曲調の楽曲もあり、多様な作品が並んでいる。

ミーのカー
 B+

[総評]
1999年。 前作「3×3×3」をより洗練させた作品、といったアルバム。 前作もそうだが、今作でも非常にわかりやすくジミ・ヘンドリックスに影響を受けたサウンドが特徴の1つで、 「午前3時のファズギター」「悪魔がぼくを」あたりはその典型的な曲。 長尺の表題曲「ミーのカー」のインプロヴィゼーション系サイケもあれば「星ふたつ」のような浮遊系サイケもあり、 そんな中で「うそが本当に」のような穏やかな曲がオープニングなあたり一筋縄ではいかないアルバム。 サイケデリックロックバンドとしてのゆらゆら帝国は恐らくこのアルバムで完成形と判断され、 次作は「ズックにロック」系統のポップな曲を発展させていく方向になったのだろうと思う。

ゆらゆら帝国III
 A-

[総評]
2001年。 「3×3×3」から続く、ゆらゆら帝国の特徴の1つである「ライブ感」の強いガレージロックサウンドの集大成的アルバムであり、 これ以降の作風はより実験的で、「音を加工し」「削ぎ落としていく」ような方向へとシフトしていく。 ゆらゆら帝国の作品の中でも特にポップでわかりやすく聴きやすいアルバムで、 ゆらゆら帝国の入門盤に最も適した作品と評される。 シンプルな2コードのロック「でっかいクエスチョンマーク」に始まり、 穏やかなバラード「少年は夢の中」で終わるまで、密度は濃くスキのないアルバム。 ただ「実験性」という側面は薄いので、そういうのを求めると物足りないかもしれない。

ゆらゆら帝国のしびれ
 B+

[総評]
2003年。「ゆらゆら帝国のめまい」と同時発売された。 「ハラペコのガキの歌」のイントロに象徴されるように、 それまでの激しいギターロックとも、メロウなバラードとも異なる実験的なサウンドが含まれており、 「めまい」と合わせてゆらゆら帝国の新たな側面を展開している。 全体としてはガレージサイケに影響を受けたサウンドから変化し、 クラウトロックや、シルバー・アップルズ等の実験的エレクトロニック・ロックのサウンドが特徴。 「めまい」に比べるとゆらゆら帝国の作品の流れを汲んでいるアルバムで、 後の「Sweet Spot」「空洞です」にも繋がるアルバム。

ゆらゆら帝国のめまい
 A

[総評]
2003年。「ゆらゆら帝国のしびれ」との同時発売。 「しびれ」に比べると「めまい」はよりメロディアスな作品が集められており、 ゆらゆら帝国(あるいは坂本慎太郎)の音楽性の幅の広さが伺え、 ゆらゆら帝国解散後にプロデューサーとしても活躍する坂本慎太郎の源流があるとも言える。 ゆらゆら帝国の作品の中ではかなり異色作なのだがクオリティは非常に高い。 「しびれ」と「めまい」が別盤になったのはバンドの意向とのことだが、 これが2枚組の1作だったら(単体ずつでも十分名盤だが) 恐らく邦楽ロック史上ベスト3に入る評価だっただろうな、と思う。

Sweet Spot
 C+

[総評]
2005年。 アルバムとしては「しびれ」の流れを汲む作品で、 実験的サウンドをより押し進め、音を削ぎ落としたサウンドが顕著になっている。 もはやギターサウンドとは呼べないほど加工された音や、 変則的なリズムといった要素が特徴。 クラウトロックの他2000年代以降のエレクトロニカ系に影響を受けたロックの手法も取り入れた結果、 ゆらゆら帝国の作品の中ではひそかに最も実験的かつ難解なアルバムに仕上がっており、 聴く人を選ぶ上級者向け的作品。

空洞です
 B+

[総評]
2007年。 ゆらゆら帝国最後のアルバムで、 その解散理由が「この作品によってゆらゆら帝国が出来上がってしまったから」であるとしている。 『「しびれ」「めまい」の2つのアルバムを「しびれ6:めまい4」の割合で1つにしたアルバム』 という評が最もわかりやすくこの作品を表していると思う。 解散理由通り、2000年以降のゆらゆら帝国の集大成的アルバムで、 それまでずっと行っていた実験をベースにしてキャッチーな音を乗せる、 という試みを体現している。 表題曲「空洞です」がやはりこのアルバムのハイライトだと思うのだが、 日本を代表するサイケデリックロックバンドの終着点がムード歌謡風サウンドだった、 というのは非常に興味深い結末に思える。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?