マガジンのカバー画像

古代オリエント美術の世界

20
なぜ古代文明なのか?それは古代について知ることは、現在の私たちについて知ることだからです。人間の基本的な部分は古代から変わっていません。そして何より、人間の歴史とは「戦史」でした…
運営しているクリエイター

2021年5月の記事一覧

古代ローマの疫病 | 大帝国を襲った死の旋律:後編

前回に引き続き、今回も古代ローマで流行した疫病についてを取り上げる。前編では古代ローマで起こった天然痘について紹介したが、後編ではマラリアについて言及していく。マラリアも天然痘と同様に古代ローマの人々を苦悩させた病のひとつであり、多くの人間がその命を落とした。もともと沼地が多いローマは、マラリアを媒介する蚊の巣窟だった。加えて、軍の移動や商人らによる交易品の流入が頻繁だったため、感染症のリスクを大きく背負っていた。 マラリア マラリアは、マラリア原虫によって引き起こされる熱

古代ローマの疫病 | 大帝国を襲った死の旋律:前編

前回に引き続き、今回も古代で起こった疫病の流行をテーマとして扱う。前回は古代エジプトを襲った結核を中心とする疫病についてを紹介した。今回は、タイトルの通り古代ローマで起こった疫病を主題とする。古代ローマでは様々な病が人々を苦しめていたが、中でも特に猛威を奮い、帝国を衰退にまで追いやった「天然痘」と「マラリア」を中心とした疫病の恐怖に迫っていく。本記事は前編と後編の二回に分け、前編は天然痘、後編はマラリアを扱う。 古代ローマ人は、細菌やウイルスなどの目に見えないものから被る病

古代エジプトの疫病 | ナイルの恵みがもたらした恐怖

エジプトのナイルの氾濫は肥沃な大地を形成する恩恵の象徴としてよく紹介される。だが、実は同時に疫病を運ぶ恐ろしい側面も持ち合わせていた。今回は、華々しい古代エジプトの歴史の影に隠れた暗い側面にスポットを当てつつ、人間の遺骨や文字資料から読み取れる当時の疫病についてを探究する。 古代エジプトのナイルの神ハピを描いた壁画。ナイルの豊かさを象徴し、ふくよかな身体付きをしている。カルナク神殿壁画一部。 病気が人間の遺骸に痕跡を遺すとは限らない。特に熱病の場合は痕跡を遺さない傾向にあ