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アンティークコインの世界

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前7世紀に世界で初めて金属製の円形コインがリディア(現在のトルコに位置した古都)で発行された。物々交換の効率の悪さから解放され、小さく軽く携帯しやすいコインによって人間はさらに商…
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2019年9月の記事一覧

アンティークコインの世界 〜ローマコインを見てみよう&専門用語を少しだけ知ろう〜

ローマコインは数あるアンティークコインの中でも高い評価を受けており、その美しさだけでなく、歴史の謎を解き明かす上でも非常に重要な資料となっている。まず図像によって当時の生活や宗教を読み取ることができ、銘文によって出来事や人物の役職・称号を知ることができる。また、コインは発行された年代が特定しやすいものであるから、共に出土した考古遺物の年代を推定する際の大きな鍵となる。 そんな素晴らしきローマコインをほんの少し紹介していこう。ローマコインは共和政期と帝政期によって、その形式が

アンティークコインの世界 〜ギリシアコインを見てみよう&描かれた図像を読み解こう〜

『アンティークコインの集め方』第7回と第8回 では、コインに示された銘文の重要さと、そこから読み取れる内容について紹介した。そこで今回は、コインに描かれた図像に注目していく。コインの図像からも当時の生活背景や宗教体系が読み取れる。 本貨はパンフィリア地方に位置したギリシア都市国家シデで、前205〜前100年に発行された4ドラクマ銀貨。シデは現在のトルコ・セリミエに存在した古都である。表面にはアテナの肖像、裏面にはニケの全身像が刻まれている。 アテナは戦争の他、職工や学問を

アンティークコインの世界 〜帝政ローマ期のアス銅貨〜

今回は、当時のローマで市民が利用する機会が多かったアス銅貨について探求する。直径18mm前後のデナリウス銀貨と異なり、アス銅貨は25mm前後の大きさがあるため、図像を細かく美しく表すことができた。また、初代ローマ皇帝アウグストゥスによって貨幣の発行権を奪われた元老院だったが、銅貨の発行権だけは継続して残された。そのため、帝政期の銅貨には「SC」という彼らを象徴するラテン文字が刻印されている。元老院は弱まりつつあった自分たちの存在感をコインによって強調しようとしていた。 元老