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アンティークコインの世界

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前7世紀に世界で初めて金属製の円形コインがリディア(現在のトルコに位置した古都)で発行された。物々交換の効率の悪さから解放され、小さく軽く携帯しやすいコインによって人間はさらに商…
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2019年7月の記事一覧

アンティークコインの世界 〜皇帝を刻まない特別なローマコイン〜

帝政期のローマコインには在位中の皇帝の肖像が刻まれた。今の君主が誰であるのかを民衆に知らしめ、権力をアピールするためである。そして、皇帝たちは民に自身の崇拝を要求した。いわゆる、皇帝崇拝である。ローマ皇帝は神として扱われ、崇めるべき対象とされていた。だが、イスラエルの神を唯一神とするユダヤ人には皇帝崇拝は宗教上行えないものだった。皇帝を崇拝することは、自らの唯一神を否定することになるからである。ローマ人たちはユダヤ人たちの特異な思想を不思議に思いながらも、反乱を起こされては面

アンティークコインの世界 〜コインで辿る共和政ローマの将軍〜

ローマ帝国は広大な属州によって成立していたが、実はそのほとんどが共和政期に取得されたものだった。今回はローマを帝国へと導くことに貢献した名だたる共和政期の将軍たちをコインと共に紹介していく。 ルキウス・アエミリウス・パウルス・マケドニクスペルセウス5世を屈服させ、マケドニアを制圧した将軍。マケドニアはアレクサンドロス大王の出身地で、ファランクスを用いる強国だった。「マケドニクス」とは「マケドニア征服者」の意で、その功績から彼に付けられた添え名。 マルクス・アウレリウス・ス

アンティークコインの世界 〜ローマコインの名品を鑑賞しよう〜

ローマコインは二つの時代にわけられる。共和政期と帝政期のものである。共和政期は皇帝がいなかった時代、帝政期は皇帝が君臨した時代である。共和政期と帝政期では、コインのデザインが異なる。帝政期のローマコインには君臨中の皇帝の肖像が表されるのが原則とされた。一方、共和政期にはまだ皇帝が存在しないため、偉業を成した過去の英雄、神々、動植物、建築物などが主なモティーフだった。共和政ローマは王の登場を執拗に拒む社会だった。それゆえ、コインに存命中の人間の肖像が表されることはなかった。一人