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「失礼」の正体|なぜあの営業マンは名刺を渡さないのか

実に1年半以上、消化ができなかった話がある。
その間noteが一切書けなかった。

何を隠そう、私が初めて直接対峙した、
自分が男性パートナーの「おまけ」として扱われた話だ。

それはおいしいレストランで起こった

かなり前、私は尊敬する方を通じて、かねてより楽しみにしていたレストランに招待いただいた。個人的に利用したいので席を取っていただく形だった。(話の本筋ではない部分は色々と伏せる形で表記する。)

私の名前で誰かに予約いただくということにワクワクして、当日は少しでも仕事ができるように見えるように、かっちりした服装で向かった。白ジャケットにパンツスーツ、このまま客先に向かってもいい格好だ(実際仕事帰りに向かっていた)。

せっかくなので、私のパートナーともう1人姉妹と一緒に向かうことになっていた。合流した時の彼の服装はとてもラフな大学生風という感じで、同年代の私よりも年下に見えたと思う。(私はいつも年齢より5歳以上上に見られることが多い。)

お店に入って、受付の方に自分の名前を伝え、席に通していただいた。私は今回はホストなので1番奥に座り、他の2名は横と前に座った。
そこで、大変丁寧なことに店長が挨拶に来ていただいた。

「●●様から聞いています、いつもありがとうございます」と言いながら、名刺を取り出し、


パートナーに渡した。


ん?

いや、パートナーと間違えたのかな?

予約の名前は私だしこの格好だし上座に座ってるんだが????

まあ、そんなこともあるか。こういうの男性から渡すって、まだあるもんね。私も挨拶してお礼を伝えよう・・・

と自分も名刺を取り出そうと中腰になったのだが、店長、私の目を見ようともしない。パートナーも否定せずにそのまま「ありがとうございます」、と受け取ってしまい(当然彼は名刺なんて持ち歩いていない)、私だけ名刺入れから名刺を出しかけて静止している。店長は私の目を見ず、ずっとパートナーの目を見て店の説明を始めてしまった。そしてそのまま、ごゆっくりお楽しみください、と去って行ってしまったのである。


後に残された私は愕然として、パートナーの方を見た。彼もちょっと驚いたみたいで、とりあえずこの名刺は君が持ってた方がいいから渡すね・・・と受け取った名刺を渡してくれた。なんでだろうね、と言いながら食事をそのまま楽しんだ。楽しみにしていただけあって、すごく美味しかった。

よっぽど「お世話になってるのは私です。」と言おうかと思ったが、店長に恥をかかせるのも本意ではないし、名刺はもらったので、その場は美味しいご飯に丁重に感謝し「●●さんによろしくお願いします」とだけ伝えた。

さて、彼が「やばい、挨拶するのこっちだった」と思ってくれたか、
「連れてきてもらった女性が丁寧にお礼をしてきたな」と思ったか、
それはわからない。どうか気づいてほしかった。

男性の「おまけ」扱いされたのは私だけじゃなかった

ここまで自分が蔑ろにされたのは初めてで、正直本当にショックだった。
すごく関係性を作るのに苦労した方だったし、何度もお話しして、自分にできることがないか懸命に考えて、そして初めて「個人的に行きたいお店があるのですが・・・」「予約しておくよ!」という、私にとって憧れのやりとりが実現したのに。

私の気合いは空回り、連れてきた大学生然とした男性だけが代表して丁重に礼を尽くされ、私は多分「連れてきてもらった客」として目も合わせてもらえなかった。

なんでこんなことになったんだろう。

これをFacebookに書いたとき、思わぬ多くの反応があった。
普段全然お話できていなかった先輩から、「私も不動産を見に行ったとき、パートナーにだけ名刺を渡された」と共感するメッセージがいただけたり、転職してしまった会社の先輩からも「わかるよ!悔しいよね!」とコメントしてもらえたり、男性からも「僕ならそんな失礼な態度を取られたら出ていきます」と一緒に怒っていただけたり。
特に女性から、「同じことを経験したことがある」という打ち明け話が個別でたくさん飛んできた。私だけではなかったんだ…。

なぜあの営業マンは女性に名刺を渡さないのか

冷静になって思うに、店長はしっかりと教育を受けた上で、それでも「男性パートナーを女性に優先すること」を丁寧な接客としてやり遂げたのだ。不動産の営業も、車のディーラーも、結婚式のブライダルプランナーも、面接にきた学生も、「初対面の相手に失礼のないよう」考えて振る舞った。
それはそうだろう。相手の失礼になることをやらかしたら顧客や、面接の合格なんて得られないんだから、彼らの「最良の振る舞い」をしているはずだ。

つまり、彼らにとっては次のようなことが「失礼」を避ける振る舞いなのではないか。

1)目上の人間を蔑ろにするのは「失礼」であるから、尊重してみせる

2)意思決定者を蔑ろにすると「失礼」になるから、必ず意向を伺う

3)リピーターは大事なので、次回も来てくれる顧客(お金を出してくれる人)を「失礼」のないようもてなす

確かにこれらのことは重要だし、これができないと当然意思決定者に対して不快感をもたらすことがある。礼を欠いた営業マンが次回も契約を勝ち取れるハードルは高くなる。

ところがこの「失礼」は、当然「初対面の複数名グループ内の序列」の判断の結果、優先順位が決められてしまう。つまり、複数名いたときには、誰を一番優先させるかによっては、意思決定者を見誤り、「失礼」が発生するリスクが高まるので、もっとも「失礼」のリスクがない行動を取らざるを得ないのだ。

その結果、私は無視され、パートナーは礼を尽くされた。「失礼」のないよう先回りして気を遣われた結果だ。不動産営業も、面接にきた学生も、経験則的に意思決定者ないし決裁者であることが多い属性をより備えている人間を想像して、序列をつけたのだ。

もう一度何が起きたのか整理する。
そこに、私が感じた「絶望」が横たわっている。

スーツを着て先に店に入り、上座に座った30代男性と、大学生風の女性が来たら、店長はおそらく上座の30代男性に名刺を渡したかもしれない。
(真相はわからないが、大学生風の女性だけに名刺を渡しに行く店長だったら色んな意味で大丈夫かと思う。上座の社会人を無視する理由にはならんやろ。)

ところが、男性と女性をひっくり返しただけで、「スーツ」「自分の名前で予約」「上座」「年上」「社会人」という属性を凌駕して、「大学生風」「下座」が想定意思決定者または決裁者であると判断された。(しかも、「社会人の方は目を合わせる必要のない客だ」と判断している。)

店長にとっては、他のどんな判断材料より、男性か女性かという情報が「失礼でない優先順位」を決定する大事な材料だったのだろう。

「私が女に見える限り、どれだけ外見や内面を磨いても男の次でしかない」

そう思ってしまった1年半前の私は、不自然だろうか。

「外見×性」で判断してしまう「礼儀正しい人」にどう接するべきか

「失礼」とは、優先順位を誤った時に発生するもの。
私たちは日々非言語情報、主に視覚情報から初対面の人間の優先順位を無意識に判断してしまう。

そういう差別的な人間は人間として未熟だから気にするな!と言われるかもしれない。もちろん、私もそう思っている。人格者は目の前の人間全てに失礼がないよう振る舞えるものだ。そんな完璧人間、いるのか知らないけど。

しかし、それは気にしないでいられる側の幸せで残酷な言葉だと思う。
自分が自分であるだけで他人に劣る評価をされて気にしないでいられるのは、それを跳ね返す能力を備えた「優秀な人間」か、そもそもそんな扱いを受ける日常を生きていないからだ。私も、そんなに大したことだと思わず気にせずに生きてきた。私の力で掴み取ったチャンスのご褒美の場所で、女性であるだけで無視されるまでは、ずっと。

かと言って、店長のような男女で態度を変える人間にも理屈がある。彼らは「失礼をしないために」判断する必要があったのだ。真の接客のプロはゲストを誰一人蔑ろにしないとかいうレベルではなく、プロになりきれない彼らは精一杯見た目×性別情報で判断する必要があったのだ。「見た目×性別情報で判断するな!」というのも正論ではあるが、見た目で判断しないと何で判断するというのか。上座に座った5歳の子供を、下座に座った50代の親より優先できるだろうか?

ボロボロの姿をした老人は実は魔法使いだった。だから人を見た目で判断してはチャンスを逃す。子供の頃から繰り返し聞かされた童話に語られている教訓を、本当に自分の美徳として生かせている人は多くない。

文化や今までの通念や経験則を変えることは簡単ではない。
結局彼らに伝える術は、「経験として彼らの判断が誤った事象をインプットしてもらう」ことでしかないんじゃないかと思う。
言えるなら、「失礼です」と言うことで彼らは経験則として「失礼を避けるためにしたことが失礼になってしまった」と知ることができる。

当然、事を荒立てるには自分を削るようなエネルギーが必要だから、伝えてあげるのは完全にこちら側が身を切る厚意でしかない。受け取る側が拒絶されたら骨折り損になるかもしれない。だから、そのエネルギーがある人だけで十分だ。(本当は学校や会社がそうした教訓を与えてあげてほしいけど)


もしも。

もしARが発達してアバターで街を歩けるようになったら、無性別か、男性の姿で歩いてみたい。

その姿で件の店にまたパートナーと食べに行ったら、店長は上座に座った私の目(と思われる部位)を見て、名刺交換をしてくれるんだろうか。

それはそれでちょっと虚しい気もする。

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