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江戸っ子らしくサバサバと

悲しみきる
感情に浸りきる
抑えないのが大切

そんなことを服部みれいさんが声のメルマガで言っていました。
大声で泣いたっていいんだよと。

浸りきるために、祖母が亡くなった日の事をちゃんと書いておきたいと思いました。

祖母に最後に会ったのはわたしで、息を引き取った直後の祖母に最初に会ったのもわたしでした。

その日の朝、電車遅延の影響で駅に停まっていた電車は人でいっぱいでした。
わたしはその電車にはなんだか乗りたくないなと思い、次の電車を待つことにしました。

そして次の電車に乗り、のろのろと進む電車が2駅を過ぎた時、母から着信がありました。
「おばあちゃんの呼吸が止まったって」
一緒にいたパートナーにその事を告げると、わたしは次の駅ですぐに電車を降りました。
なんとその駅は、祖母の入院している病院の最寄り駅でした。

実家の母より確実にわたしの方が近い場所にいました。
そのまま病院へ行くバスに乗ろうとしましたがバスも遅延で来ず、タクシーもなく、わたしは早歩きで病院へ向かいました。

慌てて到着した病室では心電図のアラームがずっと鳴り続け、なぜか看護師さんもおらず、わたしとついさっき息を引き取った祖母の二人きりでした。体はまだ温かくて、ただ眠っているようにすら見えました。

でも明らかに昨晩と違うのは、その顔に苦しみの表情がないことでした。

その前日、会社からそのままお見舞いに向かったわたしは、ミトンに包まれた手で苦しそうに宙をつかもうとする祖母をさすりながら
「怖くないよ、大丈夫だよ」とずっと話しかけていました。
薄々ともうお迎えが近いようなそんな気がして、でも、祖母がそれを怖がっているように見えて。わたしの信じている神様の世界は怖くないから、大丈夫だよと伝えていました。

苦しみの表情のない祖母は、やっと痛みや恐怖から解放されたようでした。

わたしは大声で泣くこともせず、その場所でずっと祖母を撫でていました。
「ママ来ないね、どうしたんだろうね」と話しかけながら。

祖母はわたしが最寄駅にいるときに、まるで一番に来ることを狙ったかのように息を引き取りました。二人で居たかったのかもしれません。

そのあと10分くらい遅れて母が到着しました。

「もう少し大丈夫だと思ったんだけどな」と言うと母は涙をこぼしました。

祖母と母は母が生まれてから63年間、一度も離れる事なく、ずっと一緒でした。母が祖母を失った痛みはわたしとはまた比較するものではないように思えます。

祖母は母に迷惑をかけたくない、とずっと言っていました。
ボケたくない、寝たきりにもなりたくないと。
有言実行で、ボケることもなく(最後の数週間は薬のせん妄はありましたが)、この1ヶ月以外、寝たきりになることもなく、逝きました。

数年前に精神の病気を発症した父が家族をめちゃくちゃにした時、絶対に父より先には死ねないと、そう言い張っていました。

最近、父の病状は落ち着いてきていて、大きなトラブルもなくなっていました。
それを見届けてから祖母は亡くなったのでしょうか。
もう大丈夫と神様が判断したのでしょうか。

祖母の通夜と葬儀をした週末、その週末だけわたしにも母にも予定が入っていませんでした。

翌週であれば父の通院と重なるし、わたしの古本市とも重なる。

そんなところまで祖母はタイミングを見ていたのでしょうか。
迷惑かけたくない、と言う強い思いがそうさせたのでしょうか。

葬式で親戚のおじさんが言っていました

「また江戸っ子が一人いなくなっちまったな」

本当、江戸っ子らしい、サバサバした性格の祖母でした。
迷惑かけないように、絶妙なタイミングで、江戸っ子らしくサバサバと。

葬儀の日程も、住職の予定が偶然空いており、すぐに通夜と葬儀を行うことができました。
最近は火葬場と住職の予定を合わせるのが大変で葬儀が伸びることも多いようですが、ちゃっちゃと済ませたい祖母の気持ちがここでも通じたのでしょうか。亡くなった翌々日には通夜を行うことができました。

そして、ちゃっちゃと済ませたい江戸っ子気質をしっかり受け継いでいる母にとっても、精神的に良かったようでした。

今日で祖母が亡くなって1週間。まだ1週間、もう1週間。
おばあちゃん子には辛い毎日です。

だんだん脈絡なくなってきましたけれど、
祖母の死という悲しみにちゃんと向き合っていこうと決心してこれを書きました。自分のために。

若松英輔さんの言葉を大切に反芻しています。

悲しみからは、逃げない方がよい。本当に愛した何かが失われたときにだけ本当に悲しむからだ。悲しみは過ぎ去るものであるのを待つものでも、避けるものでもなく、深めていくものではないだろうか。悲しみが「愛(かな)しみ」となり「美(かな)しみ」に至るまで。書くことは、その最も確かな道だと私は思う。



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