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娘に贈る回顧録 19/7300   独り歩き

遅い春がやってきた。

この街に越してきて、
12回目の桜。

始めて並木を歩いたのは、
地元の桜まつり。

屋台がたくさん出て、
人混みに流されるように
歩いたっけ。

はぐれないように、
手をつないで。

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買い物の帰り道、
遠回りして並木を歩いた。

学校の話をしながら、
献立の話をしながら、
習い事の話をしながら。

なぞなぞ。
しりとり。

スキップ。
影踏み。
かけっこ。

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思春期。
家では話さないことも、
並木を歩くときは、
素直に話した。

悩みごと。
嬉しいこと。
悲しいこと。
嫌なこと。
辛いこと。

自信がないと泣きながら
歩いた時もあった。

答えを出せずに、
ただ聞いているだけの、
隣を歩くだけの、
何もしてあげられない母親だった。

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旅立の春。
1人で桜の花を見上げて歩く。

私の子育てはどうだったのか。
一緒に過ごした日々は、
間違っていなかったのか。

もう、戻れない時間。


来年も桜の花は咲くのだろう。