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防除されずに放置されるクサガメに対して思うこと

日本各地に生息するクサガメは外来種であるとの考えが定着しつつあるが、これまでに在来生態系の保全を目的とした防除対策はほとんど進められていない。これは、単に生態系への影響が軽微だからということではない。クサガメが大好きな人たちにとって、昔は保全対象としていたカメを外来種だからという理由で駆除対象にはしたくない。こういった感情に由来するようだ。

クサガメ擁護派(防除慎重派)の主張として、現在クサガメが優占する環境の多くではニホンイシガメがほとんど残っていない(置き換わったとの考えがある)、クサガメもニホンイシガメが担ってきた餌生物、高次捕食者、腐肉食動物や種子散布者としての機能を(一部)継承しているのだから、ニホンイシガメからクサガメへと置き換わった場所からクサガメを取り除くとカメ自体がいなくなって、より悪影響が起きる、と言うことがある(もともとは私自体が主張していた)。

俺もそう思う。だからこそ、クサガメ防除を行う際には、防除と並行してもともと優占していたであろうニホンイシガメのみの環境に戻し(もともと生息している個体や近場の個体を繁殖させて加入させるなど)、生態系機能も同時に回復させることが必要になるでしょう。

そもそも、陸生生物を好むために水生の餌生物への捕食圧が緩和(分散)されていたニホンイシガメから、個体群サイズがバカでかく(イシガメは1罠に5匹程度、クサガメは50匹入ることが多々ある)、淡水貝類や水生昆虫を食いまくるために水生生物への捕食圧が高くなるクサガメに置き換わることは、淡水生物群集への悪影響が増大することを想像させる。つまり、クサガメの防除には、駆逐され得るニホンイシガメの保全だけでなく、餌となる多種多様な在来の淡水生物群集の保全といった別の動機も存在する。

クサガメ擁護派の方には、是非ともニホンイシガメへの影響だけではなく、餌となる在来種への影響にも着目してほしい。そして、クサガメの防除は餌生物の保全には役に立たないこと(俺はかなりの悪影響があると考える立場)を定量的に示してほしい。クサガメの防除が特に必要ではないことを主張するためにも、野外のクサガメがどんな餌生物をどのくらい食っているのかの情報は、今後放置(積極的に防除しない)する理由付けにもなりますからね。

これは早めにやってもらった方がいい。とはいえ、このテーマは俺も進めていこうと考えているところですが。クサガメ防除(ニホンイシガメ優占域へと再度変えるため)の根拠を示すためにね。


だいぶ前に書いたちょっとした愚痴


参考文献

Suzuki, D., Ota, H., Oh, H. S., and Hikida, T. 2011. Origin of Japanese populations of Reeves' pond turtle, Mauremys reevesii (Reptilia: Geoemydidae), as inferred by a molecular approach. Chelonian Conservation and Biology 10 : 237-249.


上野真太郎・笹井隆秀・石原孝・谷口真理・三根佳奈子・亀崎直樹. 2014. 日本に産するカメ類の食性 (総説)(特集 日本の両生類・爬虫類の食性). 爬虫両棲類学会報 2014 : 146-158.

谷口真理・上野真太郎・三根佳奈子・亀崎直樹. 2015. 西日本のため池における淡水性カメ類の分布と密度 (特集 日本における淡水カメ類の保全と管理). 爬虫両棲類学会報 2015 : 144-157.

Kagayama, S., Ogano, D., Taniguchi, M., Mine, K., Ueno, S., Takahashi, H., Kamezaki, N. and Hasegawa, M. 2020. Species distribution modeling provides new insights into different spatial distribution patterns among native and alien freshwater turtles in Japan. Current herpetology 39: 147-159.

カメは売らずにカメでお金を稼ぎたい。そんなお年頃です。