見出し画像

「パーマン」第二話完全解説!~ブービー登場と強敵・平手酒造~/考察パーマン②

今回のテキスト:「パーマンに水難の相」
(週刊少年サンデー1967年3+4号/藤子・F・不二雄大全集1巻収録)

「パーマン」第一話完全解説に引き続き、第二話についても完全解説していく。この話も、パーマンを深く語るうえで外せないエピソードなのである。

本作では、第一話で登場が予告されていたパーマン2号が登場する。今でこそパーマン2号が、猿のブービーであることは知られているが、初登場の時はどんな反響があったのだろうか? まさかの猿!と驚かれたのではないかと察する。

画像1

第一話では、パーマンとなった須羽みつ夫は、超能力を得た喜びと恩恵を得ながら、同時に報われない辛さも感じることになった。ヒーローには、光と影の両面があることを知ったのが前回のお話だった。

そして第二話も、そういったヒーローの二面性をテーマに据えたお話となっている。もちろん、それを悲惨に描くのではなく、あくまでギャグとして進行させていくのが、F先生の巧みなところ。

話の冒頭、まずはパーマンとなった恩恵を受けるパートから描いていく。

パーマンセットを使って学校に飛んでいくのだ。もう絶対に遅刻しないんだと喜ぶみつ夫。読者はここでまず心を掴まされる。

学校に着くと、みつ夫に戻る前にみんなに気付かれてしまう。すると、第一話での活躍が評判となっていて、みんなにチヤホヤされる。憧れのみっちゃんからも「とってもかっこいいんだから」と褒められて「いやあそれほどでも…」と鼻高々。その様子を見たカバ夫とサブには「いい気になってやがる」と妬まれる。

①空を飛んで学校に行ける
②みんなにチヤホヤされる
③妬まれる

とパーマンになって嬉しい「光」の部分がまずは矢継ぎ早に描かれるのである。

そうなると、今度は「影」の部分が出てくる。得意となって力を見せようとするが、調子に乗りすぎてプールに落ちてしまい、結局遅刻して教室に入ることになる。すると、コピーロボットにお願いしていたはずの宿題が、ノートにいたずら書きが書かれているだけ。「あいつめ」となるが、「君がやったんだろ」と言われて「僕と言えば僕なんですけど…」と真実は話せない。

パーマンとしてはチヤホヤされても、みつ夫に戻ってしまうと出来の悪い生徒となってしまうこの乖離。

授業が始まると、窓の外にパーマンセットを付けた猿が飛んできてみつ夫の注意を引く。みつ夫はパーマン2号だとすぐに理解するが、「サルをパーマンにするとはなあ」と不信の表情を浮かべる。そしてトイレに行くと言って教室を出て2号と合流。「授業中に呼び出すなんてまずいよ」と困るみつ夫。

画像2

学校生活とヒーロー活動の両立が、いきなり困難であることを直面させる始まり方となっており、コピーロボットが宿題もできないなど非常に頼りないことも発覚する。前途多難を予感させる立ち上がりである。

さて、2号が呼び出したのは、ヤクザに因縁を付けられている道端の易者を助けるためであった。第一話では、飛行機事故を救うという事故救助タイプの活躍だったが、第二話では敵が出てきての戦いとなるのがポイント

「パーマン」では、悪者との対決、というテーマが良く出てくるのだが、悪者をどのように設定しているのかを見ていくと大変興味深いものが見えてくる。本作では、ヤクザとその用心棒という、日常にも現れそうな悪を敵として出している。

易者を脅す2人のヤクザに対し、「やめろっ」と声をかけるパーマン。「おめえはなんだ?」とヤクザたち。まだまだパーマンの存在は知られている訳ではない。

「一応聞くけど、君は殴られるのと蹴飛ばされるのとどっちが好き?」
「そうだなあ、どっちかと言えば俺は蹴飛ばされ・・・」
とギャグを挟みながら、二人をあっさりと撃退してしまう。この当たり、非常にスカッとする。

仕事を終え教室に戻ると、「長かったね」と先生に皮肉を言われる。

その頃、やられたヤクザたちは、事務所に戻り、組長に報告。許しちゃおけねえ、ということになり、用心棒に始末を頼むことにする。用心棒の名は平手先生。一刀流の免許皆伝の腕前だと言う。

この平手という名前は、江戸時代末期の剣豪・平手造酒から取られている。平手の活躍する「天保水滸伝」などは、死ぬほど映画やらドラマで描かれているお話だが、そういえば最近はあまりその名を聞かなくなった。平手造酒はその名の通り酒癖の悪い男だとされていて、このパーマンでもそのような設定を拝借している。

平手は酔っぱらいながらも、壁を自分の形に斬って建物から出る。いきなりの強敵登場である。

再び易者が襲われ、それを見たパーマン2号は、みつ夫を呼びに戻る。仕方なく二回目のトイレを申し出るみつ夫に対し、「またかね」と先生。困るよと2号に言うと、首尾よくコピーロボットを持ってきてくれていた。パーマン2号のよく気が回るというキャラ設定は、今後活かされていく。

易者が捕まってしまったことを知ったパーマンは、ヤクザの事務所に向かう。途中警察に、なんで暴力団を放っておくのかと聞くと、被害者が仕返しを恐れて届けてくれないのだと答える。暴対法で徹底的に締め付けられている現代のヤクザとは隔世の感がある。

ちなみに、現代ヤクザの悲哀については、ドキュメンタリー映画「ヤクザと憲法」を見ていただくと良くわかります。

さて、颯爽と事務所内に乗り込むパーマンとパーマン2号(マントを2号に踏まれて転んで颯爽とはいかなかったが)。入った途端に不意打ちを食らいつつ、反撃して大勢を一網打尽にしていく。その様子を見ている平手。
「面白い。相手にとって不足はない」と不敵に立ち上がる。

2階で捕まっている易者を助けるパーマンだったが、そこに平手が現れ、刀をパーマンの方に乗せて言う。「動けるかね、フフフ」

画像3

さてここでいきなりの大ピンチ。飛び上がれず、左右にも転がれない。身動きできないパーマンに、ヤクザの親分はマスクを取れと命じるのだが、ここでパーマンの機転が利く!

しゃがんでいたパーマンは、こぶしを床に押し付け力を込める。すると、ミシミシと床がめり込み、次の瞬間、2階の床をぶち抜いて平手たちを落下させ、絶体絶命のピンチを一気に脱出してしまう。

「パーマン」では、このようにピンチに襲われつつ大逆転するパターンが頻出する。このザ・ヒーローの活躍譚は、少年少女諸君の気持ちを晴れやかにするのである。

一方コピーロボットのいる教室では、コピーが居眠りをして鼻のボタンを鉛筆で押してロボットの姿に戻ってしまう。須羽君はどこいった?と騒ぎ出す先生。そしてまたしても頼りないコピーロボット…。

無事パーマンに助けてもらった易者は、お礼に人相を見てくれるという。マスクを取れないパーマンは、代わりに友だちを見てやって欲しいと言って一度去り、すぐにみつ夫の姿で戻ってくる。このシーンは最初読んだとき、子供ながらにパーマンの正体バレバレだろう、と感じていたところではある。

すると易者さん、気の毒に水難の相が出ていると嫌なことを言い出す。「助けたのにろくなころ言わない」と、みつ夫。

教室に戻ると、先生はカンカン。どこへ行っていたと言われて、またもやトイレと言い訳するみつ夫。そして授業に戻ると、そこで本当におしっこがしたくなるみつ夫。また行かせてくれとはいけない状況に追い込まれることになる。

水難の相とは尿意に苦しめられることなのだった。

少年サンデー版の第二話は、敵との対峙という構成を取りつつ、ヒーローと学生という二面性を行き来する。日常におけるヒーローものというジャンルをギャグを交えてきちっと描き出す。まさしくFワールド全開のお話であるし、先生も本作を書き上げて、パーマン成功の手応えを掴んだのではないかと考えている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?