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【思い出】『UTOPIA 最後の世界大戦』と藤子不二雄ランド

1995年くらいの頃だったと思う。神田の古書店を回っている時に、藤子不二雄ランドの301巻「UTOPIA 最後の世界大戦」が、さり気なく陳列されていたことに気がついた。

藤子不二雄ランドは、初めての藤子不二雄全集で、80年代に鳴り物入りで刊行が始まり、既にFマニアだった僕は、創刊からコツコツと買い揃えていった。ところが、中学生くらいになると、藤子ブームは雲散霧消し、ジャンプとかスピリッツとか、少し大人のマンガ雑誌に興味が移っていった。

それによって、途中まで買い続けていた藤子不二雄ランドは、買うのを止めてしまったのだった。

時は流れ、大学生となって上京すると、最初はコンパだサークルだと遊びまわっていたが、その内に映画とか、小説とか、政治とか、自分の趣味嗜好に、強く関心が向いていくことになった。もともとインドアな人間だったのである。

そうした中での、古書店巡りであり、藤子不二雄ランドとの再会であったのだ。

藤子不二雄ランドの301巻「UTOPIA 最後の世界大戦」は、全集最後のラインナップで、これを手に入れたことでシリーズがきちんと完結していたことを知った。今のようにまだインターネットが全く普及していない時期である。情報は人づてか、自分の足でかき集めなくてはならなかったのだ。

F熱が再燃したのは、この本を見つけたことがきっかけだったかも知れない。まだF先生は存命で、藤子不二雄ランドも普通の古本扱いで、定価より安いくらいで売られていた。

僕は暇さえあれば町の古本屋を回り、藤子不二雄ランドを買い集めていった。この過程で、いまnoteで書いているような藤子作品の知識を蓄えていった。繰り返すが、ネットが無い時代である。全て独学だった。

「UTOPIA 最後の世界大戦」は、藤子不二雄先生の、最初で最後の書き下ろし単行本で、足塚不二雄名義で、鶴書房から刊行された。まだ無名の作家の、しかも100ページという大著が出版された巡り合わせは、奇跡としか言いようがない。

おそらく相当発行部数は絞っていたと思われる。ほとんど世の中に出回っておらず、藤子不二雄ランド刊行前では、数百万の値が付いたとも言われている。一説には日本のマンガ史上の最高値という話もある。

古本屋を舞台としたミステリ、「ビブリア古書堂の事件手帖」でも本作をテーマとした話があった。また、松本零士氏が「なんでも鑑定団」に出品したこともあった。希少本として、その筋には知られていたのだ。

藤子不二雄両名が、まだ二十歳前で書き上げた本作は、歴史に対する深い見識が込められた、とんでもない傑作である。その後のF先生の作家人生を大きく左右する作品でもある。

次回、本作の中身について、徹底考察を行ってみたいと思う。

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