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パーマンとブービーの大活躍・雪山編/考察パーマン③前編

本日のテキスト:
『雪山救助』

「小学四年生」1967年1月号/藤子・F・不二雄大全集4巻
本日のポイント:
・パーマン仲間が二人だけだった時の活躍譚
・パーマンの正体がバレバレなのをどのように回避しているかを解説
・作中に突如現れる「ジェームス・ホント」とは?

パーマン仲間は全部で5人だが、いきなり全員が登場したわけではなくて、少しずつ仲間が増えていく設定を取っている。

時系列でみていくと、まず連載が始まった1966年12月号「小学三年生」と「小学四年生」では、初回からブービーも登場し、パーマンの二人目が猿か!と驚かせるオチとなっている。

続けて、1967年2号から「週刊少年サンデー」の連載が始まり、初回はパーマン誕生をたっぷり描いて、2話目からブービーが登場している。

そして、次に登場するのがパーマン3号、パー子である。
彼女の初登場は「週刊少年サンデー」1967年7号の『はじめましてパー子です』で、このパー子が登場するまでの期間は、1号と2号だけで活動していたことになる。

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では、パーマン1号と2号だけでどんな活躍をしたかというと、ご丁寧にも、「週刊少年サンデー」1967年8号の『にせ者パーマン』で、簡単な振り返りがされている。

作中、三重晴三が勝手に作った偽のマスクを被り、パーマンに扮してチヤホヤされるというシーンがあるのだが、ここでパーマンとブービーがこれまで解決した事件について言及されているのである。

それが、以下の4つだった。

①暴力団の笹ヤブ一家をやっつけた
②吹雪岳で遭難者を救った
③動物園の猛獣が逃げ出した事件
④ピストル密輸団を捕らえた

これはそれぞれ、

『パーマンに水難の相』(「少年サンデー」3+4号)
②『雪山救助』(「小学四年生」1月号)
③『猛獣がいっぱい』(「小学四年生」2月号)
④『バナナと拳銃』
(「小学三年生」2月号)

の回のことを指すのだが、ここまで「少年サンデー」しか読んでいなかった読者には、今一つ理解しきれないセリフとなっている。

そこで本稿では、初期の「パーマン」を深く理解するため、パーマンが二人だけだった時期の活躍回を見てきたいと思う。なお、①については考察済みなので、②から始めていきたい


②『雪山救助』
本作は、冒頭みつ夫が、ジェームズ・ホントから仕事の依頼がくる、という夢想シーンから始まる。ジェームズ・ホントは、もちろん「007」のジェームズ・ボンドのパロディだが、本作が描かれた1967年までには、007シリーズは既に4作製作され、世界的に大ブームとなっていた。

シリーズ一作目「007は殺しの番号」に続けて発表された「007 危機一発」は、アバンタイトルのボートアクションから始まって、物語のスリルとボンド演じるショーン・コネリーのカッコよさが抜群の、映画ファンを唸らせるスパイ・ムービーだった。007のオールドファンは、いまだにこれを一番としている人も結構多いと聞く。

映画大好きのF先生が見逃すはずもなく、パーマンにも007のスパイ活劇の要素を取り入れたかったのではないかと推察される。実際、パーマン史上一番の大作『”鉄の棺桶”突破せよ』は、スパイ映画そのものであった。


みつ夫がそうした妄想をしている時に、電話が鳴る。思わず「はいっ!!こちらパーマン」とカッコよく受話器を取るのだが、タヌキうどん3つという間違い出前電話であった。

そんな冴えないみつ夫を、外から監視している二人がいる。カバ夫とサブである。彼らは、みつ夫がパーマンの正体ではないかと疑っているのである。

疑いの理由は、背格好と声、着ている服がみつ夫とパーマンが同じであるという極めて正しい観察眼によるものであった。


コンテンツ制作者側の観点からすると、この回のカバ夫とサブの役割は非常に重要である。なぜなら、彼らが怪しいと思った理由は、当然読者も感じていることだからだ。読者は「正体バレるよ、普通」とか思っているのである。

そこで、そのような読者の突っ込みを、あらかじめ作中の登場人物に代弁させることで、読者のモヤモヤを解消する狙いが秘められているのだ。

本作の構造は、雪山遭難者を救うパーマンの活躍を縦軸、カバ夫とサブが、みつ夫の正体を見破ろうとして失敗する(それを読者に納得させる)話を横軸として、二つのストーリーを絡み合わせているのである。

このように、設定上突っ込みが入りそうな部分を、先んじて劇中のキャラクターに言わせて緩和させるやり方は、娯楽作品の定番手法である。ハリウッド映画などでは、頻出する手口なので、ぜひ見つけてニヤリとして欲しい。

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カバ夫をサブに見張られていることも知らず、こたつに潜り込んでゴロゴロしているみつ夫。そこにブービーがやってくる。「2号が来るととパーマンも現れるはずだ」と、色めき立つカバ夫とサブ。ブービーは、雪山で3人が遭難したと告げにきたのであった。

ブービーは、身振り手振りで強引に日本語を伝えるのだが、これはパーマン初期によく見られるギャグのパターン。また、ブービーは事件をよく見つけてくる、探し物の天才という設定の始まりにもなっている。


カバ夫とサブの目を盗んで、遭難者救助に向かうパーマンたち。雪山の山小屋では、遭難者の家族が集まり騒然としている。そこに、「パーマンが来たから安心して下さい」、と登場していくのだが、

「なんだ君は。こっちは気が気じゃないんだ」
「スーパーマンごっこの付き合いなんかしていられるか!!」
「ふざけるにも程がある」
「子供の出る幕じゃない、帰れ!!」

と追い出されてしまう。「待遇が悪いな」とパーマン。この時は、まだまだパーマンの認知度は低いのであった。


その後、パーマンは二手に分かれて雪山で遭難者を探すが、1号は雪崩に巻き込まれてしまい、何とか這い出たもののマントをはぎ取られてしまう。

くじけそうになるが、「僕にはまだ6600倍の力が残っているじゃないか」と奮起し、大木をこすり合わせて火をおこし、寒さから難を逃れることに成功。その火を見て遭難者も集まってくる。たき火の熱で雪も解けてマントも無事発見し、これで一件落着。

新聞に取り上げられたりして、パーマンの知名度はこれで少しアップ。そして雪山救助を経て、みつ夫は風邪を引いてしまう。病院で鉢合わせたのは、やはり寒空でみつ夫を見張り続けて風邪を引いたカバ夫とサブ。

「あんな冴えないパーマンはいないな」、ということで、みつ夫がパーマンの正体では?という二人の疑問は、読者の納得と共に解消されたのだった。


★パーマンとブービーの活躍は、次回に続く!

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