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「パーマン」第一話完全解説!~みつ夫の決意表明~/考察パーマン①後半

「パーマン誕生」
「週刊少年サンデー」1967年2号/藤子・F・不二雄大全集第1巻

本日は、サンデー版第一話「パーマン誕生」の大全集収録版の8ページ目から、詳細に見ていく。

正月早々嫌なことだらけのみつ夫は、土管の上で腐っていると、スーパーマン(バードマン)が現れて、パーマンになれと急に言われて戸惑う、というところから。

まずここで積年の疑問を一つ。
スーパーマンは宇宙からやってきた超人だが、その力は被っているマスクやマントのおかげなのだろうか、ということである。パーマンのようにマスクを取るとただの人になってしまうのだろうか。

本作の中でスーパーマンは、「僕らは優れた頭脳と体力で宇宙の平和をもあり続けてきた」と語っていることから、おそらく超人的能力の備わった宇宙人だとは思われるが、描かれているスーパーマンの星ではマントを付けて円盤に乗っている。能力は、科学力のおかげであるようにも思える。

科学力が優れてるのか、生身の肉体が強いのかは、今一つわからない、というのが自分の考えである。

スーパーマンの話をミツ夫はそれを全く信じられない。「ぼくをからかっているんだね」と去ってしまおうとする。ここでのセリフは、初掲出では少々差別的な物言いとなっていて、これは後に改変されたものである。

スーパーマンは、埒が明かないと、強引にミツ夫にマスクとマントを付けさせて、空を飛びたいと思うだけで飛べると言う。仕方なく空を飛びたいと思うと、フワーリと浮かびだす。続けて、スーパーマンが壊れた自動車をミツ夫に投げつけるが、これをパンチ一つでバラバラにしてしまう。

マントは時速91キロ、マスクの力は普段の6600倍と教えられる。この91キロというスピードは、今の東京の私鉄各線の最高速度から少し遅い程度と考えておこう。

6600倍というのは、単純に持ち上げる力でいえば、小学生4・5年生だと25キロを持ち上げられるとして、165トンまでは持つことができる計算。165トンと言えば、ジャンボジェットの機体の重さや、エアバスだと最大離陸重量がそれにあたるそう。この後ジェット機を持ち上げる描写があるが、かなりギリギリであることがわかる。

マスクとマント、そして最後にコピーロボットが渡される。コピーロボットは、鼻のボタンを押すと、顔かたち、性質や能力まで押した人とそっくりになると説明される。おでこをくっつけると、コピーロボットの経験したことが直接脳に伝わるという優れものだ。

このコピーロボットの存在は、少年少女がヒーローとして活躍するにあたって必要不可欠なアイテムである。大人のヒーローと違って、子供は学校に行かなくてはいけないし、夜もきちんと寝ないといけない。ヒーローと小学生の二重生活を長く続けるには、普段の生活を身代わりにしてくれる存在がなければ、成立しないのである。

その意味で、このコピーロボットのアイディアこそが、実は「パーマン」が成立するために最も重要だったのではないかと思っている。

次に、スーパーマンは念を押すように言う。「パーマンの秘密は家族にもらしてはならぬ。もし他人に秘密が知られたときには、可哀そうだが・・・」「細胞変換銃で動物に変身させてやる」と。

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秘密をバラすと動物に、という設定・セリフも後に改変されたものであることは有名だ。初期の設定では「クルクルパー」にする、というものであった。残念ながら、このセリフについては、大全集では改変後のものを収録となっているが、まあこのご時世では仕方がないことかもしれない。

ただこの設定の改変によって、例えば「パーマン全員集合!!」で話の流れがギクシャクするところが出てきたり、元々動物の猿であるブービーはどうなるのか?などの疑問点が沸くことになる。(後者の疑問は後に一応解釈を整える作品も作られるが…)

さて、超能力とコピーロボットを手に入れたミツ夫。まずは私利私欲のためにパーマンの力を使う。これは、もし自分がパーマンになったらどうする?という部分で、子どものリアリティを感じさせて、とても好感が持てる。

まず、服を汚して怒られる役として、身代わりにコピーロボットを送り込む。次に、先ほど取り上げられた年賀状を返してもらうべく、カバ夫とサブに力で仕返しを果たす。そして、みっちゃんにチヤホヤされるべく、その力を自慢するのである。

そして、私利私欲で力を発揮させたあとは、正義のヒーローとしての見せ場である。

先日、「パーマン」と「スパイダーマン」の類似性を語ったが、両作とも力を手に入れた後に、まずは個人的欲求を満たし、その後社会貢献に向かう、という流れが全く同じである。

「スパイダーマン」が誕生したのが1962年で、パーマンの初回は1966年だから、スパイダーマンの話はF先生も知っていた可能性も無くはない。ただ、現代と違いアメコミが入ってくるのは時間がかかったはずで、どこまで正確な筋立てをF先生が把握していたかは謎である。

みっちゃんと楽しく談義していると、空から火を噴いたジェット機が町に墜落しようとしているのを発見する。町中が大騒ぎとなる中で、「パーマンが働くのはこんな時です」と飛び出していく。

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墜落していく飛行機を支えて、海へと運ぶパーマン。当時のエアバスだとして、先ほどの考察からしても持ち上げられるギリギリの重さであったと想像される。火の手がパーマンに迫ってくる中、何とか着水に成功。屋根に穴をあけて乗客たちを助け出す。初めての大仕事にして、冷静沈着な活躍ぶりであり、やはり「ドラえもん」ののび太とは一味違うのだと強く思う。

ところで、大全集1巻巻末の解説で、ミツ夫の声優をやられた三輪勝恵さんの談話が載せされているが、そこで興味深い部分があった。以下に抜粋する。

よく藤子先生は「のび太は僕なんです」とお話されていましたが、「みつ夫も僕自身なんですよ」とおっしゃっていただいたことがありました。もしかしたら先生、お気遣いしてくださったのかもしれませんね。
(黒字強調は筆者)

みつ夫を演じる三輪さんへの気遣いの部分があったとしても、F先生は自分自身をのび太にもみつ夫にも投影していたということである。今となってはのび太が有名となってしまったが、最初に描かれたのはみつ夫であるので、F先生の分身として、パーマンを描いていたのだろうと思う。

ひと仕事を終えたパーマンは木の上で独りごちる。「パーマンか・・・。ぼくはパーマンになったんだ」「なったからには頑張らなくちゃな」「僕にできる範囲で」「やるぞ!明日から」

この謙虚さも含まれた決意表明が、僕はとても好きであるし、F先生からのメッセージであるように思う。気張らず、でも得た力をしっかりと社会で役立てていく。謙虚さと力強さと前向きさが大事であると。この決意表明の部分は、僕自身が何かを始めようとするとき、強く背中を押してくれるとても大切なものとなっている。

決意表明後、パーマンセットをまるめてポケットに入れ、みつ夫は日常に戻る。そうなるとみつ夫は、年賀状は取り戻していなく、飛行機事故も救わず、ただ汚れた服を着た少年に過ぎない存在なのである。認めて欲しくて自分が成し遂げたことを自慢したいが、パーマンであることを打ち明けるのも止められていて叶わない。

結局ママにお説教を受けながら、みつ夫は思う。「パーマンのつとめもつらいなあ」と。早くも日常と活躍の板挟みとなるヒーローものの本質が明らかにする秀逸な第一話のラストである。

「パーマン」は、特に少年サンデー版は、藤子作品の中でも突出した出来栄えの作品群となっている。自分としても大いなる影響を受けた作品ばかりであるし、語れることはまだまだ尽きないある。なので、今後も定期的に【完全解説】として各話を紹介していきたい。

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