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人を「導く」人

だいぶ前の上司に、ビジネスは一流・人間性は…? という方がいました。仮にSさんとします。

Sさんはハラスメント体質の圧の強い方で、たまたま自分には被害はありませんでしたが、メンタルが不調になる人、関わりたくなくて辞めていく人、逆に腰巾着と化して人間性を損なった人など、多くの周囲の人間を不幸にしていました。

Sさんに飲みに誘われると、夜も深くまで付き合わねばならず、憂鬱になる者が続出します。僕も何回かは付き合わされました。

ある時、深夜二時くらい、三次会あたりで、Sさんを象徴する印象的な発言がありました。それは「上司は部下を導かなくてはならないんだ」ということでした。「仕事のことですか?」と問うと、「人間性も含めてだ」という答えがありました。

上司となる者は選ばれし者。部下を人間性も含めて引っ張って行かなくてはならない、ということのようでした。

僕はこの時管理職になりたてで、年上の部下ができたりして、どのようにチームをまとめていくか思案している頃でした。ですので、全面的には肯定できませんでしたが、そういうものか、と思ったのも事実です。

ちなみに僕と一緒に付き合わされていた同僚は、酔ったふりをして「僕を導いて下さい!」などとゴマを擦ってSさんを喜ばせていましたが…。なかなかなヤツです。


メンタリストDの舌禍事件を見て、Sさんのことを思い出しました。Dの発言については申し開きのできない程に差別的で、決して許されるものではありません。けれど、発言内容もさることながら、その発言態度が僕には気になりました。

Dだけではなく、いわゆるインフルエンサー、メンター、コンサルタントと呼ばれる人たちの一部が、自分に集ってくる人や、自分と価値観の合わない人間を「下」に見た発言をしたり、態度を取ったりするのをしばしば見かけます。Sさんもそこに含まれます。

SさんやD一派は、最初は「共に学ぶ」「アウトプットを共有する」仲間・同僚だったはずなのに、いつの間にか「教える」「助言する」立場となり、「指導する」「導く」という教祖的な領域に進んでいきます。(もちろんそうならない人が大多数ですが)

教祖的な立場にのし上がった人間に見受けられるのは、人間関係を全て「上下関係」に当てはめてしまう考え方です。上の立場となった人間(教祖様)は下の人間(信者)に対して、自分のやり方を真似ろ、真似て成功しろと「指導」してきます。


今回のDの問題発言が、質問コーナーでの回答だったということが、僕には象徴的に思われました。今回の動画以外の彼の配信は見たこと無いので憶測も含まれますが、質問をする人・答える人に「上下関係」が成立していたのではないでしょうか。質問に答えるのではなく「指導する」ような応答だったのではないでしょうか。

下の者から教えを乞われて、上の者として指導する。そういう上下関係が当たり前となっていた中で、ホームレスの方や生活保護を受ける方に対して、「下」の人間だと認定していたのではないかと想像します。


僕は管理職としてだいぶ長く仕事をしていますが、Sさんという反面教師がいてくれたおかげもあり、仕事上の上下関係は人間性のそれとは全く別物だということを強く意識しています。

仕事上のリーダーは、狭い組織やチーム内の業務における一時的な役割に過ぎないのです。

ですので、Sさんが人間性まで踏み込んで部下を指導するべきという発想は、間違いだと今ならきっぱり言い切れます。


「人を導く」という概念を持ち出す人間とは、関わりあいたくないなあと思う今日この頃です。

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