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あるべき反省会とは?

本稿は「反省会するかしないか問題」と題した記事の続編である。まずは前回記事のおさらいから始めてみたい。


エンタメコンテンツ業界では、「反省会」「振り返り」などは意味がないという根強い考え方がある。

嫌がられるには、それなりの理由があって、心情的にはとても良く理解できる。代表的な否定論は下記。

①エンタメコンテンツは再現性がない。
②ヒットする確率は良くて3割程度。
③ヒットの要因は、運や偶然である。
④ただの犯人探しになってしまう。


ただ、否定したい気持ちは重々わかるものの、それでも良き反省会は、エンタメコンテンツを作り続け上で、必要なことだと考えている。

ざっとここまでの論旨を、前回の記事では展開した。詳細は是非下記を確認してもらえればと思います。


さて本稿ではあるべき「反省会」について論じていきたい。

ただ前もって書いておくと、反省会を適切に実施し、学びを次のプロジェクトに活かしていくことは、凄まじく難しい。これから書いていくことは、ある種の理想論を含んでいることをご承知いただきたい。


まず、反省会について考える時に、いつも僕の頭をよぎる言葉がある。それが下記だ。

因果の連鎖を断ち切るために、因果の連鎖について研究する」
「銃・病原菌・鉄」(ジャレッド・ダイアモンド著)

「因果」を「失敗」と置き換えてもらうと分かりやすい。

失敗の連載を断ち切るために、失敗の連鎖について研究する

となる。失敗に至る経緯を研究しなくては、負の連鎖は断ち切れないのだ。


エンタメコンテンツは、誰が言い出したか分からないが、3割当たれば御の字のいう考え方がある。おそらく3割打者は一流という野球のバッターをイメージしたものと思われる。

本当に3割が御の字ラインかどうかはさておき、ヒットする確率が低いのは確かだ。しかし、だからと言って最初から失敗するつもりでコンテンツを作ったりはしない。作るからにはヒットさせたいし、少しでもヒットの確率を高めたいと考えるのが普通である。

しかし言うが易し、いかにヒットの確率を高めていくかは、古今東西のエンタメ開発者が頭を悩ます一大テーマなのである。


僕は、確率を高めるためには、「反省会」を軸としたPDCAが必要だと考えている。

P=プランを立て、D=実際に行動し、C=結果を考察し、A=次に生かす。そういうサイクルを愚直に繰り返していくことで、成功率が数%高まるのではないかと考えている。


もう少し具体的に、エンタメコンテンツを制作してユーザーに届くまでの過程を分解して考えてみよう。

①制作の前に様々な角度からリサーチを行い、どのようなコンテンツを作るのか計画を練る。
②プランに従って制作し、狙い通りのコンテンツを作り上げる
③消費者・ユーザーに届けて、結果を見る。
④結果から学びを得て、次のコンテンツ制作に役立てる

仮に一つのコンテンツが失敗に終わったとしたら、どこに原因があるのか考えていく必要がある。「反省会」のスタートである。


まず反省会において最も重視するべきは、プラン通りだったのかを検証することである。

計画通りのスケジュールだったのか
計画通りの成果物が仕上がったのか
計画通りにユーザーに届いたのか
計画通りの反応だったのか

大事なのは、どこかで計画とズレがなかったのか、客観的なデータを集めることだ。特に狙ったいたターゲットを捉えていたのかどうかは、明確にしておかなくてはならない。

計画上のターゲットがきちんと反応してくれたのか。反応していないとしたら、どの点なのか。そもそも関心を持ってもらえなかったのか。手に取ってもらったのに満足度が低かったのか。


真摯に結果と計画を突き合わせていく。もしプラン通りに進行したのに、ターゲットに見向きもされなかったのだとしたら、そもそものプランが間違っていたことになる。

ターゲットに届いていたが、そのパイが小さかったとしたら、届け方に問題があったのかもしれない。

こうした計画とのズレを明らかにすることが「反省会」の主題である。


ここで重要な点は、失敗の原因を属人的な問題に矮小化させないことだ。あくまで機械的にズレを検証することに徹するべきである。

計画との乖離を明らかにして、その原因を考えてみる。作る過程、売る過程に致命的なズレがなかったとしたら、今度は計画自体を疑ってみる。

ターゲットの特定が間違いだったのか、そもそもマーケットが無かったのか、など。

あくまで論理的に考え、原因を乱暴に特定しない。なるべく本質的な誤算を見つけて、その解消法を考える。これはかなりの胆力がいることである。


こうして考えていくと、良き反省会を成立させるには、色々と条件があることがわかる。

まず最初のプランをきちんと練っておく必要がある。結果が出た後にプランとのズレを見出すためには、そもそもの計画がテキトーでは話にならない。

検証のためのデータを集める仕組みも必要である。信頼のおけるデータがないと、計画とのズレを計測することはできまい。

反省会の参加メンバーの論理力も絶対必須である。1人でも声の大きい感情的な発言者がいるだけで、論理の道筋が壊されてしまう。


良き反省会に必要なもの。
1、考えられた計画
2、信頼のおけるデータ
3、論理的思考力

この3点は必要十分条件だが、全てを揃えるのは至難の業だ。本稿の最初の方で、理想論だと言ったのは、このためである。


僕は長年エンタメコンテンツ業界で働いているが、まともな反省会に参加した経験がほとんどない。

いつも間違った総括が出されたり、全く振り返りをしないまま、同じミスを繰り返すザマを何度となく見てきた。

でも、まだ僕は諦めていない。正しいPDCAを回して、数%の成功確率アップを追い求めたいと考えている。

最後にもう一つのジャレッド・ダイヤモンドの言葉を引用しておく。

「理解によってもたらされる知識は、異なる結果を得るために利用される」

こんな毎日が来ることを願いつつ。

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