定跡(定石)と力戦
僕は将棋が趣味なので(しかもだいぶハマっている)、常に物事を将棋の世界に当てはめてしまう癖があります。
例えば、人との接し方についても、つい将棋の対局と重ね合わせてしまったり。
将棋を指す時に、まず覚えるのが「定跡」と言われるものです。序盤においての戦い方の「型」みたいなものです。囲碁では「定石」と呼びますが、意味合いはほぼ一緒です。
まずはいくつかの型を機械的に覚えて、使ってみる。定跡と言っても、戦型によっては80手くらいまで固まっているものもあるので、全ての定跡を頭に入れるのは至難の業です。
それでも、序盤の20手前後までの定跡をいくつか覚えておくだけで、ちゃんとした対局をすることが可能です。
人と接する時、特に初対面の場合などは、相手との関係性において、いくつかのパターンがあるものと思います。「差し障りのない会話から始める」だったり、「業界の話題を振ってみる」や、「共通の趣味を探す」など、いわゆるビジネス本などにも書かれているようなものです。
僕はそれらを「定跡」と捉えています。最初のとっかかりについて、こうならばこう、みたいな流れをいくつも覚えてしまって、それを活用するイメージです。
ところが、将棋の世界では、定跡には必ずどこかで終わりがくることになっています。序盤は定跡に沿って差し進めていくわけですが、ある地点から、過去例から離れて、その場で次の一手を見つけ出していかなくてはならなくなります。
AIを使ってどんなに深く研究していたとしても、研究範囲から外れた局面が必ず現れるのです。
定跡を並べている範囲では、暗記力がものをいう訳ですが、一度定跡を外れると、その先の構想力だったり、局面の優劣の判断を正確に捉える能力や、相手の手に対応する能力など、別種の将棋力が問われることになるのです。
人との対話においても、とっかかりは定跡化されていたとして、対話が進んでいくと、その場での適応力が問われてくることになります。マニュアルには載っていない、アドリブ的なやりとりをする場面がやってきます。
将棋の世界では、定跡を外れた後の中盤からは、一手一手の重みが増します。これと同じように、最初の挨拶(アイスブレイク)が終わったところからが、その相手との距離感を縮められるかどうかの鍵を握るものと思います。
人との対話に関するマニュアル本を読んだことをありませんが、「中盤」での会話が重要なんだということは、将棋脳の僕にはよくわかるのです。
将棋には「力戦」と言われるタイプの戦い方があります。これは定跡を早々に無視して、いち早く力比べに持ち込むやり方です。この場合、定跡研究(事前研究)の深さが問われない戦い方になるので、いきなり乱戦になることもあります。
僕の場合、人とのコミュニケーションにおいても、いきなり変化球を投げ込んで、「力戦」に持ち込むやり方を取ったりすることがあります。いきなり本題に切り込んだり、もしくは延々と別の話をするなど、その場の思いつきで仕掛けてしまうケースです。
同席している仲間には混乱を与えることになりますが、僕の中では今のやりとりは「力戦」中なのだ、と捉えることが可能です。なので、混乱しているようで、実は頭の中は整理できているわけです。
ここまで、主に「初対面の人との会話」と「将棋の対局」を並立させたお話をしてきました。ここで挙げた例え話が正しいかはわかりませんが、趣味の世界と現実の世界を重ね合わせてみるのも面白いということはお伝えできたのではないかと思います。
ご拝読ありがとうございました。
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