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藤子・F・不二雄21世紀予言の書? /考察「21エモン」

「少年サンデー」1968年1号~

この春、突然のコロナ禍で、真っ先に学校や幼稚園が休校・休園となった。科学的根拠の薄い施策ではあったが、国民に一定のコロナへの危機感を煽ったのは事実だろう。そして休校が長引き、PCによるリモート授業の話題が出てきたときに、僕は真っ先に「21エモン」の授業風景が頭に浮かんだ。そして気が付いた。既に21世紀が始まって20年経っている今、「21エモン」の世界を再評価しなくてはならない時が来ていると。

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「21エモン」は藤子・F・不二雄先生の代表作の一つで、主に週刊少年サンデーに連載されていた近未来SF。連載は1968年の1号から開始し、翌69年の6号で最終回を迎えている。わずか一年の連載であり、他の学年誌などにも移されなかったことから、それほど人気は上がらなかったのかもしれない。F先生もそのような文章を残している。

惑星間移動(ワープ)航法が発見されてからの世界ということで、お話としては宇宙人たちが旅行で地球にやってきては、全く生活文化が異なるために毎回大騒動を起こしていくという筋立てとなっている。要所で近未来の日常描写が出てきて、これが特に印象に残る。後ほど、リモート授業などの21世紀の日常を細かく見ていきたい。

「21エモン」は、大きく前半と後半で展開が変わっているのが特徴的。前半は先ほどから書いているように、宇宙人との異文化のギャップを笑うギャグテイストの、基本一本完結の物語。後半は、兼ねてからホテルの跡継ぎではなく宇宙パイロットに憧れている21エモンが、ついに宇宙へと大冒険に向かう連載型のストーリーとなっている。ここでは前半を「近未来日常編」後半を「宇宙旅行編」としておきたい。

後半の「宇宙旅行編」は、出てくる宇宙の描写が、何かと怖いのが大きな特色だろう。木星での強制労働、銀河一の科学力を誇ったボタンチラリ星の原始時代化した世界、いわくつきのハッピー星など…、ちょっとしたホラー映画並みの恐怖描写である。この部分はどこか別稿を立てて検証したい。

ちなみに宇宙旅行編については、F先生としてはもっと書けるネタがあったようで、21エモンの連載終了からほぼ繋がる形で、同じテーマ・キャラクター構成の「モジャ公」という作品の連載が始まっている。連載媒体は小学館の対抗出版社である講談社の「週刊ぼくらマガジン」であった。

では、「21エモン」の前半「近未来日常編」の中から、F先生の”予言”を見ていきたい。

主人公21エモンは、ホテルつづれ屋を経営する一家の長男で、父親は20エモン。江戸時代開府から続く老舗旅館の末裔で、4エモン・5エモンというキャラクターが登場する特別回もある。代々〇エモンという形で跡取りの名前が繋がっている家系なのである。

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ちなみに20世紀にも子孫はいて、「ドラえもん」でつづれ屋の跡継ぎが嫌で家出した19エモンが帰ってくるというエピソードが存在する。また「エスパー魔美」でもつづれ屋が出てくるシーンがある。これらは、21エモンがリバイバルし、映画化が決まったタイミングで描かれていて、そういうところからも、F先生の「21エモン」への愛情が伺われる。このクロスオーバーについては、近く改めて考察する。

まず第一話で、映像の中に入り込む形で見ることのできるTVが登場する。VRテレビの進化版といったところか。宇宙人を泊めるにあたって、空気や食べ物が都度異なるので電子頭脳センターから資料を取り寄せなくてはならない。これはインターネットのようなものだろう。

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第二話では、乾電池で飛ぶ人も乗れる飛行機のプラモデルが登場。学校の授業シーンが出てくるが、立体テレビを利用したリモート授業となっている。21エモンはプラモデルを作りたいばかりに、授業をビデオテープに録ってしまう暴挙に出るが、これはいつものことらしい。お母さんに叱られて、ため込んだテープをまとめてかけたりしている。

第3話では、雨降りタイムという設定が出てくる。どうやら近未来では天候がコントロールされているようだ。合わせてかさ持ちロボットも登場。

第4話では日本で一番賑やかな通りということでギンザが出てくるが、ここは歩道が自動に動く。動く歩道もF先生の実現した予言の一つ。また、食料は水と空気とバクテリアを合成して作っているらいく、これは不味いらしい。近未来に食料問題は欠かせないが、そこには本作では踏み込まない。昭和時代までの古いものは、昭和村にまとめて展示している。実際に名古屋に昭和村があるが、これもF先生が予言している通りとなっている。

第5話では「プレイタイム」という憲法に定められた子供たちが遊ばなくてはならない、という設定が出てくる。遊びが重要という考え方はF先生の時代を先取りした感覚だ。

第9話では遠足で火星に向かう。これは実現するのはいつの時代のことになるのやら…。

ところで、宇宙人たちが集まってくるトウキョウは、インバウンドで沸くコロナ前の日本を思い起こさせる。宇宙人ではないが、外国人(エイリアン)が次々とやってきて、戸惑いながらも異文化交流をしている様子は、まさしく21エモンの中で起こっていることと同じではないかと思う。また、特別回では、2018年に東京で宇宙オリンピックを開催するエピソードがある。

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21世紀は今のところ宇宙まで世界は広がっていないが、グローバルに広がった近年を思い起こすと、F先生が「21エモン」で予言していた未来が、実際に目の前にあるのだと、改めて認識できよう。

長文となったので、ひとまず21エモンの第一回目の紹介はここまでとします。


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