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フワッとしているところを数値化する

マーケティングをしていると、しばしば聞こえてくるのが、「数字が全てではない」という声である。

これについては、当然僕も否定しないが、でも数値化できるところをフワッとさせてませんか、ということは逆に指摘しておきたい。


例えばタレントの好感度。タレントの人気は移り変わるものだが、それでもそれなりの規模のアンケートを実施したり、定点観測をしていけば、きちんと数値化できてしまう。

広告代理店が実施しているタレントパワー調査は、かなりの精度があるのだ。


他には事業予測。エンタメコンテンツ業界は、当たり外れの激しい世界なので、いわゆる予実差(予算と実績の乖離)がトンデモないことになったりする。

予測が難しいとされているので、目標数字を、感覚だったり、単なる似たような商品の事例を当てはめるだけで設定したりする。

最悪、「これだけの経費がかかったので、これだけ行かなくてはならない」といった、悪しき逆算から目標が「割り出されたり」する。

「何となく」とか、「過去がこうだったから」だけでなく、きちんと市場調査をしていけば、かなり精緻な数字を求めることができるのだが、これをやらない風潮があるのだ。


業界内の通例として何となくフワッとさせている部分があるが、これをきちんと数値化することで、科学的な判断が可能になるのではないか。僕はそれを確信しているし、マーケティングの醍醐味なのではないかと思う。


その一方で、フワッとさせておかなくてはならない部分を数値化しようとする動きにも警戒が必要だ。

先ほどとは逆だが、数値化を避けて、曖昧なままにしておかなくてはならないことも世の中には存在する。

例えば、ある企画が持ち上がったとして、これを実行に移す際に、組織のメンバーの意見を点数化させたりするケースがそれにあたる。


良く言われることの一つに、多数決ではヒット作は生まれないというものがある。これは都市伝説でも何でもなくて、全くの真実である。

企画には必ずコア・メイン・サブ等のターゲットが設定されるが、それはつまりターゲットに対して企画を尖らせていくことを意味する。

なので、みんなの意見を聞いて回って、尖った部分を削ってしまっては、どこにも誰にも届かない企画となってしまう。

知識量・情熱量にムラがある組織内のメンバーの意見を点数化するなどは愚の骨頂なのだ。


ここまで「フワッとしているもの」と「数値化できるもの」を間違えて考えてはいけないという話をしてきたが、これをマーケティング風に言い換えると、「定数」と「変数」を混同してはいけないというテーマになる。

分かりやすくまとめると下記のようになる。

数値化できるもの=定数
フワッとしているもの=変数


つまり、「フワッとしているところを数値化する」とは、「定数となるところを見極めよう」ということを意味し、

「フワッとしているところを数値化させない」とは、「変数を固定化させないようにしよう」という意味となる。


市場調査などで結論が出ている点(=定数)は、もう動かせない事実なので、ここを疑ったり議論しても始まらない。

逆に社内の空気などという曖昧なもの(=変数)を数値化したところで、それはその時のクローズな空気を反映しているに過ぎない。

ビジネスには、変えてはいけない部分と固定化させてはいけない部分がある。得てして私たちは、これを逆に実行したりして事態を複雑化させる。

極端に言えば、お客さんの声は定数で、社内の声は変数だ。社内の声の大きい人間、行動力だけの人間に引っ張られてはいけない。聞くべきはマーケットの声である。


個人的な話をさせていただくと、この4月からエンタメコンテンツ業界に従事して24年目を迎えることになった。

この数年で、営業からマーケティング業務に軸足を移して色んなことをしてきたが、この「定数と変数の問題」解決こそが、僕の目下の最大の課題である。

フワッとしているものを数値化する。合わせて、数値化してはいけない部分をフワッとさせたままにする。僕は、この両輪の達成を次なる一年の目標と考えている。



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