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バルトークの作曲技法”中心軸システム”を解説!!

今回はバルトークの作曲技法とされる

中心軸システム

について解説していきます


※注1 この作曲技法はハンガリーのバルトーク研究家 エルネー・レンドヴァイ氏がバルトークの曲を分析・研究した結果、バルトークがこの技法に基づいて作曲していたと主張しているものです。バルトーク本人がこの作曲技法を使ったと言っているものではないあくまで一説なので、そこだけ頭に置いておいてください。
※注2 今回の解説では音名・和音(コード)名・音階名は基本的に英語圏の表記法で書きます。念の為音階名ではドイツ語圏の表記法も併記します。

では、早速解説に入ります。

今回の目次はこちら↓↓(目次をタップorクリックで飛べます)

1. 中心軸システムとは?

中心軸システムはバルトークが使ったとされる和声機能の考え方です。これはクラシック音楽でいう古典派(全音階)・ロマン派(半音階)の和声理論を更に拡大解釈したものと捉えることができます。結果だけ見ると突飛な考え方に見えますが、実は従来の和声理論の延長線上にある考え方です。

まず、中心軸システムについてざっくりこんなイメージを持って頂ければと思います。

中心軸システム
オクターブ内にある12個の音をそれぞれトニック・サブドミナント・ドミナントの3つに振り分けることができるとする考え方。12音の各音をルート音(根音)にする和音もトニックコード・サブドミナントコード・ドミナントコードの3つの機能に割り当てることができると考える。

例えばトニック(主音)をCと置いた場合、オクターブ内にある12個の音をルートとして作られる和音(コード)はそれぞれ機能ごとに

トニックコード・・・C, E♭(D#), G♭(F#), Aをルート音にする和音
サブドミナントコード・・・D, F, A♭(G#), Bをルート音にする和音
ドミナントコード・・・E, G, B♭(A#), D♭(C#)をルート音にする和音

に振り分けられると考えます。

この考え方に至るプロセスをたどって行きましょう!
Cが主音(トニック)である場合で考えて行きます。

2. 中心軸システムの考え方に至るプロセス

2-1. 5度圏

まず、12個の音を5度間隔で円環状に並べたいわゆる"5度圏"を考えます。

5度圏

ここでは5度圏で各調の主音(トニック)を並べていると思ってください。
(長調・短調どっちでもOK)

2-2. 調同士の近親関係を考える

主音(トニック)をCと置いて、C調の近親調について考えます。

Cmajor(Cdur)との近親調: Aminor(Amoll)
CmojorとAminorは音階の構成音が全く同じなので、平行調(Relative Key, レラティブキー)という近親関係にあります。これによって、和音としても等価値と考えます。例えば、トニックコード同士ではCコード・Amコードはお互いに等価値で、同じように使用することが可能と考えますこれは代理和音の考え方でも同じように考えることができます。

・Cmajor(Cdur, ハ長調)

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・Aminor(Amoll, イ短調)

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Cminor(Cmoll)との近親調: E♭major(Esdur)
CminorとE♭majorも音階の構成音が全く同じなので、平行調(Relative Key)の関係にあります。なので、例えばCmコード・E♭コードはお互いに等価値と考えます。これも代理和音の考え方で同じように考えられます。

・Cminor(Cmoll, ハ短調)

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・E♭major(Esdur, 変ホ長調)

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Cmajor(Cdur)との同主調: Cminor(Cmoll)
CmajorとCminorは見ての通り主音(トニック)が同じなので、同主調(Parallel Key, パラレルキー)という近親関係にあります。なので、Cコード・Cmコードをお互いに等価値と考えます。これは借用和音(モーダル・インターチェンンジコード)の考え方でも同じように考えることができます。

・Cmajor(Cdur, ハ長調)

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・Cminor(Cmoll, ハ短調)

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ここまででC調と近親調同士の関係と等価値な和音同士の関係が見えてきました。この関係を先程の5度圏で整理するとこんな感じになります。

C調と近親調

E♭(D#)⇔C⇔Aはそれぞれ短3度(長6度)の関係にありますね。

ここで

5度圏でCと対極上の位置にあるG♭(F#)も近親関係にあると
捉えていいんじゃないか?

という考えが生まれます。これが中心軸システムのコンセプトです。

2-3. 中心軸システムの完成

主音をE♭(D#)・Aを主音(トニック)に置いて先程のC調と同じように近親調・等価値な和音同士の関係を考えると、5度圏でこんな感じで表現できます。
E♭(D#)⇔G♭(F#)⇔Aもそれぞれ短3度(長6度)の関係にあります。

C調と近親調の拡張版

これで遂に

C・E♭(D#)・G♭(F#)・Aは調として近親関係にあって、
この4つの音をルートに置く和音同士は等価値な関係にある

つまり

トニック=C, E♭(D#), G♭(F#), Aをルート音にする和音

というところまで来ました!
あとは対極同士にある音を軸で結べば中心軸システムの完成です!
このようにトニックの価値を持つ音同士を軸で結び、その軸をトニック軸
置くことで4つの音がトニックとしてグループ化できました。

トニック軸

"中心軸システム"のネーミングはこのように5度圏で対極同士にある音同士をで結ぶことからきたものなんですね。もともと英語で、アクシス・システム(Axis System)なので、直訳で軸システムとなりますね。"中心軸システム"という言い方は若干意訳になります。

サブドミナント・ドミナントについてもトニックの場合と同じように考えると、トニック軸・サブドミナント軸・ドミナント軸はこんな感じになります。

トニック軸・サブドミナント軸・ドミナント軸

これで、12音と各音をルートとする和音がそれぞれトニック・サブドミナント・ドミナントの3つ機能に振り分けられました!

中心軸システムの完成です!

3. 中心軸システムの特徴

この中心軸システムの特徴は

オクターブ内にある12個の音を4つずつトニック・サブドミナント・ドミナントの3つの機能に振り分けている

ところです。つまり、トニック・サブドミナント・ドミナントのそれぞれの機能に分けられた各4つの音・和音はそれぞれ等価値と考えます。

3-1. 12音技法との比較

シェーンベルクの12音技法はオクターブ内の12個の音をすべて等価値に扱うというコンセプトで調・和声機能というものを廃止しています。

一方で、

中心軸システムはオクターブ内の12個の音を3つの機能(カテゴリ)に分類し、各機能内の4つの音同士は等価値に扱うというコンセプトです。

両者ともオクターブ内の音を平等に扱うという共通したコンセプトがありますが、中心軸システムの場合はあくまで古典派・ロマン派の和声理論を拡大解釈して導き出されたものです。

調性やトニック・サブドミナント・ドミナントの和声機能が考え方の根底にあるので、無調を目指した12音技法とは違うものと考えられます。

3-2. 従来の和声機能との共通点と相違点

中心軸システムは古典派・ロマン派の和声理論を拡大解釈したものだと説明してきました。この考え方は5度圏で対極上にある4つの音をそれぞれ等価に考えられないか?というところが発想の源なので、若干私達が普段から慣れ親しんでいる全音階的な和声理論より半音階的な和声理論の影響が強い考え方だと思います特に、全音階的な代理和音を知っている人だと若干混乱する考え方かもしれません。

全音階的な代理和音
全音階では代理和音の考え方で各和音をトニック・サブドミナント・ドミナントの3つに分けます。

Cmajorの場合、
トニックコード・・・C, Em, Am
サブドミナントコード・・・F, Dm, 
ドミナントコード・・・G, Bm7-5(Bφ, Bハーフディミニッシュ)
(※ジャズ・ポピュラー音楽ではBm7-5はドミナント機能を持たないと考えられる場合が多い)

この代理和音を知っていると、中心軸システムで例えばトニックとして「CとE♭が等価」と言われるとCとEmが等のハズでは?と混乱するんですね。ここは従来の和声機能とは違いがある部分です。

半音階的な借用和音
ロマン派ではモード(旋法)という概念が導入されることで、和声の可能性を広げようとする試みが行われました。その試みの一貫として、主音が同じ別のモード(旋法)から和音(コード)を”借りてくる”というやり方が生まれます。
例えば、C調の場合CmajorとCminorを主音(トニック)が同じ別のモード(旋法)と捉えると、Cminorの和音CmをCmajorの中で使えるとという考え方です。この和音を別のモードから借りてくることをモーダルインターチェンジ (モード交換)と言い、借りてきた和音のことを借用和音(モーダルインターチェンジコード)と言います。

モーダルインターチェンジ

こうしてみると、中心軸システムは代理和音と借用和音のつまみ食いのような考え方にも見えますね。従来の和声理論の延長線上にある考え方とはいえ、違う部分もあるということは頭に入れて混乱しないようにしましょう。

(※今回はモードについての詳しい説明は割愛します。)

3-3. 【ジャズ】コルトレーン・チェンジズ

モダン・ジャズのサックスプレーヤー ジョン・コルトレーンが使ったコルトレーン・チェンジズというコードチェンジの考え方はほぼこの中心軸システムと同じ発想です。

中心軸システムが5度圏を3つのグループに分けたのに対して、
コルトレーン・チェンジズでは5度圏を4つのグループに分けます。

つまり

・中心軸システムでは同じグループに属する音を短3度ずつで分けている。
・コルトレーン・チェンジズでは同じグループに属する音を長3度ずつで分けている

分け方が違うだけで発想は非常によく似ています。

中心軸システムとコルトレーン・チェンジズ


まとめ

今回はエルネー・レンドヴァイ氏が主張するバルトークの作曲技法 中心軸システムを導き出す考え方を中心に解説しました。中心軸システムについてまとめます。

中心軸システム
・オクターブ内の12音をトニック・サブドミナント・ドミナントの3つの機能に振り分ける考え方
・主音(トニック)・サブドミナント(下属音)・ドミナント(属音)に対し、12音の中からそれぞれ短3度ずつ4つの音をピックアップすることで、3つにグループ分けできる
・各機能内の4つの音・和音同士は等価値に扱う

繰り返しですが、この中心軸システムはあくまでバルトークがこの考え方を使って和声を使ったんではないか?という一つの説です。この中心軸システムが実際どのように使われているかについては、クラオタ的曲解説 バルトーク《管弦楽のための協奏曲》本編の中で検証していきたいと思いますので、ぜひそちらも御覧ください。

それではまた!

今回の参考図書

バルトークの作曲技法
バルトークの作曲技法に関して調べると真っ先に出てくる書籍です。2000円程度で比較的リーズナブルなので、バルトークの作曲技法にご興味ある方は持っておいてもよいかもしれません。

音のシンメトリー
バルトークの作曲技法についてより詳しい内容が書いてあります。。内容的には『バルトークの作曲技法』よりこちらがおすすめですが、現在Amazonで中古で13230円の価格でちょっと手を出しにくいお値段です。ただし!無料で読む方法はあります。次の機会に参考図書を無料で読む方法もご紹介したいと思います。











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