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東京ユヴェントスフィルのプログラムが最高すぎる!カウントダウン解説を書いてみるよ!ブルックナー交響曲第3番①

こんにちは。クラオタくん(@classic_otk)です。
突然ですが、この度なんと!私が団員として参加している東京ユヴェントス・フィルハーモニーさん(@TokyoJuventus, 以下ユヴェントス)企画で、音楽監督 坂入健司郎さん(@siegfried512)へインタビューをしました!

このインタビューは、演奏会のプログラムを深堀りし、プログラムや曲の聞きどころ・魅力・おもしろさを紹介してユヴェントスの演奏会に興味を持っていただくことを目的としています。


演奏会の詳細はこちら👇

動画の中でも言ってるんですが。。。。

今回のプログラム、マジでめちゃくちゃ良くないですか!?

個人的には大興奮プログラムすぎる!!
ただ一方で、結構珍しい組み合わせのプログラムであることも間違いなくこのプログラムの魅力がなかなかお客さん(聴き手)側へ伝わっていないことも事実。。。

というわけで、今回から7/21の演奏会までカウントダウンも兼ねて各曲の魅力を解説していきます。
インタビューの動画では話しきれなかった部分も書いていこうと思うので、ぜひこの記事読んでユヴェントスの演奏会に来てください!

各曲2回くらいで公開していけば7/21の演奏会当日までに間に合うはず、という完全なるタイムアタック解説記事になります。
各曲をどういう順番で公開するかは完全にランダムでいきます!

それでは早速、タイムアタック解説スタートです👇


ブルックナーは苦手?お好き?

ブルックナーってなかなか苦手意識を持っている方が多いのではないでしょうか。その一方で熱狂的なブルックナーファンがいたりして。ブルックナーの演奏会に行くとなぜか中年男性の客層が激増し、休憩中は世にも珍しい「男子トイレに長蛇の列」ができるという。笑
もしこれを読んでいるアナタが「ブルックナー苦手かも。」「今回のユヴェントスの演奏会はいいかな。」と思ったのなら、ちょっと待って下さい!

安心してください。私も苦手(嫌い)でした!

でもこのブルックナーの交響曲第3番(以下、ブル3)を通してブルックナーの良いところも見えてきて、今はだいぶ理解できて好きになれました。

ブルックナー交響曲第3番
第2稿ノヴァーク版だからこそおもしろい

1877年第2稿?ノヴァーク版?なにそれ?無理!!

今回、ユヴェントスはブル3の第2稿ノヴァーク版を演奏します。「第2稿」「ノヴァーク版」を見ただけで拒絶反応が出てしまう方もいると思いますので解説します。
ブルックナーの交響曲には「稿・版問題」がついてまわります。慣れていない方は難しそうに感じるかもしれませんが、そこまで難しくないので大丈夫です。「稿」と「版」については、ざっくり次のように理解しておけばOKです。

  • 「稿」は、作曲家自身が作曲または改訂した楽譜のこと
    ブルックナーの場合は

    • 作曲者本人による異なる時期の自筆稿のこと

    • 同じ交響曲に複数の稿が存在することがある

  • 「版」は、校訂・編集・出版された楽譜のこと

    • 出版社や編集者などによって校訂・編集・出版された楽譜

    • 作曲者の死後に編集されたものも含む

「稿」はブルックナー本人が作曲・改訂したもの、「版」はブルックナー研究者などが遺された楽譜を研究し校訂・編集したもの、となります。ブルックナーの校訂者は主にハースさん(Robert Haas)とノヴァークさん(Leopold Nowak)の2人がいると思ってください。ハースが旧校訂版でノヴァークが新校訂版を作ったと覚えておきましょう。

ブルックナーの「稿・版問題」は複雑だ!なんてよく言われますが、まだブルックナーのことをよく知らない方はこのあたりを知っておくだけで全然問題ありません。割とシンプルですよね?
では、ブル3の「稿・版」はどうなのか見ていきましょう。

ブル3の稿

ブル3の稿は主に3つあります。
第1稿(1873年稿)・第2稿(1877年稿)・第3稿(1889年稿)です。
第1稿は1872年〜1873年にかけて作曲された最初の稿です。最初の稿なので、「初稿」と言ったりもします。ワーグナーの旋律が最も多く引用されている稿です。ブルックナーの意図が最も反映されつつも、引用などのアイデアを盛り込みすぎたため非常に長大で複雑になってしまっていて冗長な印象を受けます。引用は後の改訂の度にカットされていきます。
第2稿は1874年〜1877年にかけて改訂された稿です。曲を洗練する過程でワーグナーの引用は大幅に削除されましたが、多少残されています。第2稿には版としてノヴァーク版とエーザー版(ハース版の後継)の2つがあります。2つの版は、ほぼ同一の内容ですが、第3楽章について決定的な違いがあります(後ほど説明)。第2稿は第3稿ほど演奏機会は多くありませんが、近年見直されつつあり徐々に演奏会で取り上げられるようになってきました。
第3稿は1888年〜1889年に改訂された、最終稿です。ワーグナーの引用は一部を残すのみです。3つの稿の中では最も洗練されており完成度が高い。改訂が施された時期はブルックナーが後期交響曲(第8番, 第9番)の作曲に取り組んでいた時期と重なっており、その成熟した作曲スタイルが第3稿にも反映されています。現在最も演奏される機会が多いのは、この第3稿です。

ブル3の版

ブル3の版は基本的にノヴァーク版とエーザー版(ハース版の後継)の2つがあります。

  • ノヴァーク版: 第1稿(1873年稿)・第2稿(1877年稿)・第3稿(1889年稿)のそれぞれの稿に対してノヴァークが校訂した版が存在する

  • エーザー版:  第2稿(1877年稿)に対してだけエーザーが校訂した版が存在する

ブル3の稿のところで、第2稿(1877年稿)のノヴァーク版とエーザー版はほぼ同じ内容だが決定的な違いがあると書きました。それは、「第3楽章のコーダの有無」です。ノヴァーク版にはコーダがあり、エーザー版ではコーダは削除されています。このコーダの有無だけで、ノヴァーク版とエーザー版の印象は決定的に変わるので重要な違いです。
今回のユヴェントスは1877年第2稿のノヴァーク版を演奏します。つまり、あまり演奏されない第2稿の、しかも第3楽章にコーダがあるバージョン(ノヴァーク版)の演奏を聴ける超貴重な機会です。

気になってきませんか?

僕は演奏する側ですが、すでにワクワクが止まりません。

マーラーの2台のピアノ編曲版!?

ブル3の第2稿には、マーラーによる2台のピアノ編曲版が存在します。教師と生徒、作曲家同士という両方の点でブルックナーと交流のあったマーラーですが、17歳の時ウィーン訪問中にブル3第2稿の初演準備のためにブルックナーからこのピアノ版編曲の依頼を受けたようです。マーラーはなんと(?)、初稿推しだったようで編曲を依頼された時に、第2稿を初稿に戻すべきだと熱烈にブルックナーへ主張したようです。笑

いろんな稿が聴けることがブルックナーのおもしろさ

ブルックナーは他の作曲家と比べて、稿や版が多くあることは間違いありません。それが聴衆を混乱させてきたことも事実ですが、私はブルックナーのおもしろさはそこにあると考えています。多くの異稿があることは同じ曲の色々なバージョンが聴けるということで、聴衆にとって非常に贅沢なことだと思います。同じ曲にもこんな世界線があったのか…!と思わせてくれますし、作曲の軌跡をたどることで作曲家の試行錯誤を感じることもできます。
第3稿が素晴らしくまとまって洗練されていることは間違いありませんが、「交響曲第3番」という比較的初期の交響曲にしては洗練されすぎている感は否めません。初期の交響曲だからこそ、無駄があっても良いから作曲家がその曲を作ろうとした初期の衝動のようなものを私は感じたい。完成稿以前の初期稿を聴く楽しみやおもしろさはそこにあると思います。
今回の第2稿はちょうど第1稿から第3稿の間に位置するので、第1稿の冗長すぎる部分は改善しつつ第3稿の洗練さまで至っていない絶妙な部分を楽しめます。

まとめ

カウントダウン解説の1発目は、ブル3の稿・版について解説しました。ぜひこの観点でも今回の1877年第2稿ノヴァーク版を楽しんで頂ければと思います。次回ブル3②の回では、ワーグナーの引用・ブルックナーの曲からの転用・ベートーヴェンとの関連などを書いていこうかと思います。

演奏会まで、あと9日!

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