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杉山勝彦の語る「早稲田」

 2007年に嵐「冬を抱きしめて」で作曲家デビューしてから破竹の勢いで活躍を続けてきた杉山勝彦氏。楽曲提供アーティストは乃木坂46、嵐、miwa、私立恵比寿中学など多岐に渡り、2017年には家入レオ「ずっと、ふたりで」でレコード大賞作曲賞を受賞するなど、今や日本を代表するミュージシャンの1人である。
そんな杉山氏は2000年に早稲田大学理工学部建築家に入学した。在学中は早稲田内でも実力、知名度ともに定評のある音楽サークル「Street Corner Symphony(以下SCS)」と「Fusion Mania」に在籍するなど経歴からみると歴然とした早稲田生活を送っているようにも捉えられる。
独房とも揶揄されている西早稲田キャンパスから生まれた“天才”はどのようなキャンパスライフを送っていたのだろうか。

今回は杉山氏に”早稲田”をテーマに特別インタビューをさせていただけた内容をもとに、杉山勝彦と早稲田について探っていく。

早稲田と杉山勝彦

「早大生ってこんな感じだよね、というステレオタイプからはかけ離れている。」

 みなさんは早稲田での学生生活といえばどういったものを想起するだろうか。
友人と空きコマに行く「油そば」、サークル活動後の他愛もない話をしながらの「馬場歩き」、大隈講堂前でスト缶を片手に歌う「紺碧の空」…それぞれ思い描く早稲田での学生生活があると思う。
しかし、杉山氏は、ワセメシ巡りをしたことも、飲み会に足を運んだこともほとんどない。我々早大生にとって馴染み深い高田馬場駅前のロータリーとはほぼ無縁な学生生活だったという。

「学生会館にはいつもいて、音楽で生きられるようになるための生活をしていた。」

音楽の道で生きていくためには、他の学生と同じような生活をしてはいられない。その一心で二つのサークルで活動する傍ら、NHK教育番組のテーマ音楽など多くの曲を作り、在学中から当時はハードルが高かったJASRACと個人で信託契約を結ぶに至り、仕事としての音楽をしていたと語る。

「友人の存在には本当に助けられた」

音楽活動に打ち込む反面、授業はとにかく周囲の友人に助けられたという。
しかし、友人の存在に助けられたのは授業面だけではもちろんない。周囲には杉山氏と同じく音楽の道でプロを目指す友人が多くおり、切磋琢磨を繰り返す中で今に通ずる音楽スキルを高めていった。プロを目指していた仲間は現在、音楽の第一線で活躍しており互いに刺激を受け合う関係性は今もなお続いているそうだ。
また、ライブの際は多数の友人が応援に駆け付けたことも杉山氏にとって音楽活動を続ける原動力になった。

早稲田進学の理由

 では、音楽で生きることを決めていた杉山氏はなぜ早稲田大学に進学したのだろうか。
率直な疑問を投げかけてみたところ、意外な答えが返ってきた。

「高校時代に好きだった女の子がゴスペラーズ好きだったんだよね(笑)」

ここまでそのカリスマ性に圧倒されていたが、初めて杉山氏から人間味を感じた瞬間だった。
ゴスペラーズは早稲田大学のアカペラサークル「SCS」から生まれた、言わずと知れた大御所アーティスト。
早稲田大学に入りゴスペラーズを輩出したSCSに入ることができれば、その子と付き合うことができるんじゃないか、その思いから4ヶ月の猛勉強で偏差値40台からの早稲田大学現役合格を果たし、結果として意中の相手を射止めるに至った。

杉山氏にとっての早稲田とは、音楽でも恋愛でも結果を求め続ける場所だった。

杉山勝彦が表現する早稲田らしさ

 これまで述べてきたように、杉山氏は早大生の我々がイメージする『早大生らしい早大生』からは逸脱した存在なのかもしれない。
だが別の側面から見ると、それは『早稲田らしさ』を体現しているとも言えるのではないだろうか。
早稲田では多くの学生が自分の生き方を見つけ、誇りを持ち行動し続けている。周囲は自分を表現する人間を決して卑下したりせず、応援することで一体となり熱気が生まれる。
その現象こそ、早稲田が早稲田たる所以であり、長い歴史の中で受け継がれてきた賜物であるように思う。

一見我々のイメージから矛盾しているようだが、学生時代の杉山氏こそが早稲田の最大の特徴である「多様性」を生み出している『早稲田らしい』人物なのではないだろうか。

早大生へのエール

 最後に現在コロナ禍に身を置く早大生へのエールを求めると、こんな言葉が返ってきた。

「早大生に一般的なエールらしいエールは必要ないでしょう。むしろ今はチャンスだと思う。」

そしてこう続けた。

「自分だけの武器を手に入れるためにやれることがあるのに、こういう状況だとそれに気づかないまま止まっている人が多い。停滞している人が多い時は、まとめてごぼう抜きできるし、自分を見つめなおして本当にやりたいことに気づくチャンス。」

周りが止まっている今だからこそギアを上げてさらに先へ進めば、普段の生活に戻った頃には埋めがたい差が生まれている。
自分の生き方を全うしている早稲田生にとって、むしろこの状況はとんでもない成功を生むことができる期間であると語る。

「後輩だから厳しくなってしまうけど、早稲田生は能力が高い人が多いんだからこれを機にそれぞれの成功へと進んで欲しい」

日本トップに登り詰めた作曲家の愛情のこもった叱咤激励は、私たち早大生にこの状況を切り拓く大きなヒントを与えてくれるのだろう。

(ライター 森迫雄介)