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働く義務があるのに働かない日(遅刻・早退・欠勤・休業・配転拒否・出向拒否・争議行為)シリーズ②

こんにちは。


IPO支援(労務監査・労務DD・労務デューデリジェンス)、労使トラブル防止やハラスメント防止などのコンサルティング、就業規則や人事評価制度などの作成や改定、各種セミナー講師などを行っている社会保険労務士法人シグナル代表の特定社会保険労務士有馬美帆(@sharoushisignal)です。
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今回は「働く義務があるのに働かない日」について、表にまとめてみました。

以前、「働けるのに働かなくて良い日(休日・休暇・休業)」についてお伝えしましたが、その際に「働き方」を考える際には、

(1)そもそもその日に「働ける」のか?
(2)その日は「働く義務」があるのか?

の2つの要素を最低限考慮に入れる必要があるとお伝えしました。


今回は(2)の「働く義務」の観点から「働かない日」を見ていくことにしましょう。

note.本文用 休暇の種類2


○遅刻

実は労働基準法には「遅刻」や「早退」そのものについてストレートに規定した条文はありません


遅刻は、始業時刻という働く義務のスタートで労務を提供していないことで、遅れてしまったということ自体は届出がある遅刻であろうと無断遅刻であろうと変わりはありません(事前あるいは事後に届出をしっかりした方が良いのはまた別の話ですね)。

そして、遅刻によって労務を提供しなかった時間については、ノーワーク・ノーペイの原則(民法第624条)によって、企業は従業員に賃金を支払う必要はありません。
さらに、遅刻はその程度(特に回数)等によって人事評価に影響するだけでなく、懲戒処分の対象ともなり得ます
遅刻はメンタルヘルス不調や働くモチベーション低下のサインである場合も多々あります。「たかが遅刻」と軽く見ないように気をつけてください。


○早退

早退は、終業時刻という、その日の働く義務のゴールよりも前に労務の提供を中止してしまうことで、これも届出がある早退であろうと無断早退であろうと中止してしまったこと自体には変わりはありませんし、早退によって労務を提供しなかった時間についてノーワーク・ノーペイの原則が通常適用されることも同じです。

人事評価や懲戒処分への影響があり得ることも同様です。
半日単位の有給休暇(年休)や時間単位年休を取得した場合は、そもそも早退とはなりません。

無断遅刻よりも無断早退の方が、従業員がさっきまで働いていたのに何も言わずに仕事を放りだして職場からいなくなってしまうのですから、ある意味大事件かもしれません。


○欠勤

欠勤は、働く義務がある日(所定労働日)の労働時間全てについて、従業員の自己都合で労務を提供しないことをいいます。
これも届出のある欠勤と無断欠勤の場合があります。

よくあるケースとしては、年次有給休暇を使い果たしてしまった従業員が風邪などで休んでしまった場合、多くの企業では病気休暇制度がありませんので、欠勤扱いとすることになります。
欠勤もノーワーク・ノーペイ原則によって通常は処理されます。

病気による欠勤のように理由がはっきりしている欠勤ならばともかく、無断欠勤の場合は、放置せずに従業員の現況の把握に努めるなどの対応が必要です。


○休業(労働基準法第26条)

休業は、労働義務のある時間に何らかの理由で労働を行えなくなることです。
この「何らかの理由」には従業員側の理由も含まれるのですが、ここでは労働基準法第26条に定められている「休業」についてお伝えします。

労働基準法第26条
(休業手当)
第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100の60以上の手当を支払わなければならない。

先ほどの「何らかの理由」が企業(使用者)の「責めに帰すべき事由(帰責事由)」による場合について、労働基準法第26条は定めています。

従業員には「働く義務」がある日なのですが、企業の都合によって「働かない」状態になってしまう場合で、具体例としては、自動車工場が半導体不足で操業停止になってしまったようなケースです。
この場合、企業は従業員に対して平均賃金の60%以上を休業手当として支払わなければなりません(さらに、民法第536条2項にまつわる問題もありますが、ここでは省略します)。

自動車工場は半導体を別の企業から仕入れているだけで、自らの責任で操業停止になったわけではないと言い訳したいところだと思いますが、労働基準法第26条は従業員保護の観点から使用者の帰責事由を広く認めているのが特徴で、半導体不足のような経営上の障害についても帰責事由が認められるのが特徴です。
帰責事由がないとされるのは不可抗力による場合で、地震などの天災による休業がその例です。
この休業手当に関する問題は、コロナ禍で大きく注目されました。


労働基準法第26条は「何らかの理由」による休業のうち、企業の帰責事由による休業の場合と、不可抗力による休業について定めているもの、ということになります。


○配転拒否

配転とは、同一企業内において、職種及び職務内容や勤務場所を長期にわたり変更することを言います。
定義に「勤務場所」が含まれていますので、転勤も「配転」の1つということになります。


企業の配転命令権の根拠は労働契約に求められます。配転について定めた就業規則が周知されている場合には、その就業規則が配転命令権の根拠となります(労働契約法第7条)。
ただし、職種や勤務地を限定する合意がある場合には、配転命令権はその合意の範囲に制限されますし、配転命令が権利の濫用とされるような場合には無効となります。

ここでは配転命令が有効な場合を前提にしてお伝えすることとしますが、この場合、従業員は配転を拒否すると、配転先で「働く義務」があるのに「働かない」状態にあります。そうなると、業務命令違反となり、債務(労務提供義務)の不履行となりますので、ノーワーク・ノーペイの問題や懲戒処分などの可能性が生じることになります。


○出向拒否

出向とは、企業(出向元)の従業員としての地位を維持しつつ、別の企業(出向先)で長期間労務を提供することです。出向元に従業員としての籍を置いたままですので、「在籍出向」とも呼ばれます。

企業に出向命令権が認められるためには、就業規則などに根拠規定があることが必要です(加えて、出向労働者の利益に配慮することも求められます)。

その上で、出向命令が権利の濫用とされるような場合は無効となるのは配転と同じなのですが、配転と違って出向については労働契約法第14条が明文で定めています。

労働契約法第14条
(出向)
第14条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

出向命令権の根拠規定があり、出向命令が権利濫用でない場合に、従業員が出向拒否をすると、出向先で「働く義務」があるのに「働かない」状態となります。
この場合には、やはりそうなると、業務命令違反となり、債務(労務提供義務)の不履行となりますし、ノーワーク・ノーペイの問題や懲戒処分などの可能性が生じることにもなります。


○争議行為

争議行為とは、労働組合が団体交渉(団交)で企業(使用者)に要求を受け入れさせるために行う圧力行動です。
その代表例がストライキ(同盟罷業)で、労働組合員が団結して労務の提供をしないことを言います。

簡単に言えば、ストライキとは労働組合員が「働く義務」があるのに団結して「働かない」状態となることで、
企業の経営面にプレッシャーをかける行為ということです。
本来ならば労務の不提供は債務不履行などの責任を問われるわけですが、ストライキが「正当」なものである限り、刑事免責・民事免責を受け、責任を問われません(憲法第28条、労働組合法第1条第2項、第8条)。


以上、「働く義務があるのに働かない日」についてお伝えしました。


冒頭で、

(1)そもそもその日に「働ける」のか?
(2)その日は「働く義務」があるのか?

という2つの要素を挙げましたが、次回は(1)に関して、「そもそも働けない日」があるという点についてお伝えする予定です。


それでは、次のnoteでお会いしましょう。
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