見出し画像

働けるのに働かなくて良い日(休日・休暇・休業)シリーズ①

こんにちは。

IPO支援・労使トラブル防止やハラスメント防止などのコンサルティング・就業規則や人事評価制度などの作成や改定・HRテクノロジー導入支援・各種セミナー講師などを行っている社会保険労務士法人シグナル代表の特定社会保険労務士有馬美帆(@sharoushisignal)です。


就業規則コンサルティングの際に「休日と休暇って分けて考えないといけないんですか?」という質問を数多く受けたり、産休中の人を「今、休職しています」と休業と休職を混同して表現する方がいらっしゃったので、今回のnoteは、「働けるのに働かなくて良い日」というタイトルでお伝えします。


不思議な感じがするタイトルだと思いますが、「働き方」を考える際には、

(1)そもそもその日に「働ける」のか?
(2)その日は「働く義務」があるのか?

という2つの要素を、最低限考慮に入れる必要があります。


まず、(1)ですが、これは心身の健康面などの事情によって「働けない」場合を考える必要があります。

たとえば、病気で入院してしまったような日は「働けない」ですよね。
また、企業(使用者)側の事情によって「働けない」場合もあります。たとえば、半導体不足が理由で自動車工場が休業してしまうような場合です。
このような「働けない」理由が存在しなければ、当たり前ですが「働ける」ことになります。


次に、(2)です。健康面などや企業側の事情に問題がなく、「働ける」としても、「働く義務」がない日なら働く必要はありません(働く義務がないのに働くとボランティアになってしまいます)。

「働く義務」のない日というのは、具体的には「休日」のことです。
他にも「働く義務」はあるのですが、法律や企業(使用者)がそれを免除している日というのがあります。
法律によるものの代表例が「年次有給休暇」です。企業が免除しているものとしては、夏季休暇や年末年始休暇などがありますね。


ということで、今回は(1)で「働ける」人が、(2)でその日は「働かなくても良い」という日について、主なものをご紹介します。

(1)で「働けない」場合、たとえば労働災害、通勤災害、そして私傷病などによる場合については、またの機会にお伝えしますね。


note.本文用 休暇の種類


○休日

息子「今日は日曜日なのにママはどうしてお仕事なの?」
父親「ママの会社は日曜日にお客さんがたくさん来るから、月曜日がお休みなんだよ」
息子「へえ~、日曜日をお休みにしなくても良いの?」
父親「うん、法律ではお休みを休日というんだけど、日曜日以外を休日にしても良いんだよ」

休日とは「労働義務がない日(非労働日)」のことです。
労働義務とは、労働契約に基づいて労務を提供する義務のことですが、簡単にいえば、「働く義務」のことです。


労働基準法では、「1週間に1度」または「4週間で4日」の休日を企業(使用者)は与えないといけないと定めています(労働基準法第32条)。この、労基法で定められた休日を「法定休日」といいます。


ということは、「週休2日制」や「完全週休2日制」は法律上の義務ではないということですね。
ですが、労基法は同時に「1日8時間・週40時間労働」を原則として定めていますので、所定労働時間が8時間の会社ですと、週2日は休日を設けることになります。このうち、法定休日でない休日を「法定外休日」といいます。


○休暇

課長:「Aくんはどこに行ったんだ?今日は姿を見ていないぞ…」
社員:「Aさんなら有給を取ってキャンプに行ってますよ」
課長:「ああ、そうだった。今流行の「ゆるキャン」とかいう漫画だかアニメに影響されて出かけるとか言ってたな。キャンプってそんなに面白いのか?」

休暇とは「労働義務はあるが、それを免除されている日」のことです。

たとえば、年次有給休暇(有給、有休、年休)は、本来ならば「働く義務」がある日に、法律に基づいて「年休権」(有給休暇を取得する権利)を行使することで、その義務が免除されるというものです(労働基準法第39条)。

休暇は、法律の定めに基づくもの以外に、企業(使用主)が独自に設けているものもあり、多種多様です。今回の表では法律の定めに基づくものを載せてありますが、たとえば「慶弔休暇」や「アニバーサリー休暇」など、企業が従業員の福利のために設けている休暇がいろいろとあります。今日も、どこかの企業の「創立記念日休暇」かもしれませんね。


○休業

課長:「ええと、これはBさんに頼もうかな」
社員:「課長、Bさんは今日から産前休業ですよ」
課長:「ああ、そうだった。昨日Bさんからご挨拶されたのに忘れるとは情けない……」

実は、「休暇」と「休業」は法律上明確に区別され定義されているわけではないのです。そのため、なかなか説明が難しい面があるのですが、表に載っている項目についてご説明します。


産前休業は、出産する予定の女性から「請求」があった場合に、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から認められる休業です(労働基準法第65条1項)。
本来ならば労働義務があるのですが、法律の定めによって、請求を条件としてその義務が免除されるのです。
産前休業は母体保護の見地から認められているのですが、その期間の多くは、実際には全く「働けない」というわけではありませんので、「働けるのに働かなくて良い日」の表に入れました。法律が「請求」を条件としているのも、その点を考慮してのことです。


産後休業は、出産日の翌日から8週間、労働義務が免除されます(労働基準法第65条2項本文)。企業(使用者)は出産日の翌日から8週間は産婦を働かせてはいけないのです。
これも母体保護が理由で、「働けない」かどうかは個人差があるのですが、出産は女性にとって身体的精神的に非常に大きな負担がかかるものですので、一律に休業させることとしています。
ただし、産後6週間経過後は本人の請求のうえで、医師が支障ないと認めた場合には、働くことが可能となります(労働基準法第65条2項ただし書き)。このような事情があるため、こちらも「働けるのに働かなくて良い日」に産後休業も入れておきました。


育児休業(育児・介護休業法第5条など)・介護休業(育児・介護休業法第11条など)は、どちらも「働ける」状態ではあるのですが、育児や介護という事情を抱えた方への配慮として、法律が「働かなくて良い」(労働義務を免除する)ことを企業(使用者)に義務づけた制度です。


育児・介護休業法は「休暇」と「休業」を使い分けていて、原則として1日単位のような短期間ですと「休暇」、一定程度の長期間にわたるものですと「休業」しています。
表の「休暇」と「休業」の欄を見比べてほしいのですが、「育児休業」はあっても「育児休暇」がありません。育児休業は1歳まで(法定の要件を満たせば2歳まで)を対象とした休業で、その年齢の子の養育には一定期間の継続した休業が必要ということで、休暇の制度を設けていないのです。「育児休暇」という制度がある場合、それは法定のものではなく、企業独自の制度ということになります。


○「働く」ことを考えるためには「休む」ことも考える必要も!

課長:「あれ?Aくんがいないぞ。また有給休暇でゆるキャンか?」
社員:「課長、Aさんがキャンプ場にいるのは正解ですが、今日はテレワークで働いていますよ」
課長:「はあ?」
社員:「新しく始まった「ワーケーション制度」ですよ。Aさんから申請書が出ていましたよ」
課長「ああ、あれか、Aくんから聞いていたのに忘れるとは情けない…」


最近、「ワーケーション」が注目されつつあります。
これは「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせて作られた造語です。関西大学の松下慶太教授は、このワーケーションを「足す」と「重ねる」タイプに分けていらっしゃいます (WORKWILL「日本独自の進化を遂げつつある「ワーケーション」 ー関西大学・松下慶太教授」)。
「足す」というのは、出張の前日や翌日に休暇を取って、出張先での観光などを楽しんだりすることです。それに対して「重ねる」というのは、「休暇的環境で仕事をすること」です。

先ほどの会話のAさんは、会社の許可を得て、キャンプ場でテレワークをしていました。自然に囲まれつつ、所定労働時間はしっかりとノートPCでリモート作業をし、業務を終えたらキャンプを楽しむ、そんな働き方を導入する企業が2017年頃から少しずつ増えています。


ワーケーションは「足す」タイプも「重ねる」タイプも「働けるのに働かなくて良い日」ではありませんね。
「足す」タイプはオン(労働日)とオフ(休暇)がはっきり分かれていますし、「重ねる」タイプは環境が休暇的でも、しっかり働いています。
ワーケーションはあくまで一例として紹介しただけで、他にも様々な「働き方」や「休み方」が広がりつつあります。


今回は、休日・休暇・休業についてお伝えしましたが、経営者や人事労務担当者の皆様には「働く」ために「休む」という観点から、自社の制度を改めて見直されてみてはいかがでしょうか。


それでは、次のnoteでお会いしましょう。
Twitter(@sharoushisignal)もフォローしてくださいね。



お仕事のご依頼はこちらまで info@sharoushisignal.com
※現在お問い合わせを多数頂いているため、ご要望に添えない場合がございますことを予めご了承ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?