新型コロナウイルス対策と人事労務管理 (2)従業員が「発熱」した場合の賃金は?

こんにちは。社会保険労務士法人シグナル 代表 有馬美帆(@sharoushisignal)です。


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題は、ついに安倍首相が全国すべての小中学校や高校などに春休みに入るまでの臨時休校を要請する段階にまで至っています。

要請を受けて多くの学校がすでに休校を発表するなどしていますが、人事労務関連の視点からすると、「子育て中の労働者が休校に伴って仕事を休まざるを得ない場合」に企業はどう対応するかについて真剣に対応策を講じる必要があります。

この問題については、子どもを持つ保護者が休業(休職)した場合に企業が出す手当を補助する助成金を政府が創設するそうです。詳細が判明しましたら、またお伝えしようと思います。


さて、ここからは前回の続きとなります。前回は従業員が新型コロナウイルスに「感染した」場合の休業手当に関する考え方をお伝えしました


それ以前の段階でも様々な問題があります。
特に、従業員が「発熱した」などの、新型コロナウイルス感染症対策の面からすると危険を知らせるシグナルとして受け止めなければならない事態が生じた場合について考えておかなければなりません。予防面を除けば、これこそが最重要な初動対応といえるからです。


もちろん「発熱」という事実だけでは、新型コロナウイルスに感染したかどうかはわかりません。ですが、今回のような状況では無理を押して従業員が出勤してくる、あるいは職場で勤務し続けることは避けなければなりません。その結果、従業員が休んだ場合には賃金の支払がどうなるかという問題も生じます。

ここでは2つの場合に分けて考えていくこととします。
(ア)従業員から「休みたい」という申出がある場合と、
(イ)従業員からは「休みたい」という申出がない場合
です。

(ア)については、厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(以下、「Q&A」とします。)に労働者が自主的に休んでいるケースについて、以下の記載があります。

「新型コロナウイルスかどうか分からない時点で、発熱などの症状があるため労働者が自主的に休まれる場合は、通常の病欠と同様に取り扱っていただき、病気休暇制度を活用することなどが考えられます」

「通常の病欠と同様に」とある通り、基本的には普通の風邪の場合に各企業が取られる対応をするということになります。

ではその対応とは何なのかというと、例として「病気休暇制度を活用すること」が挙げられています。そう言われても病気休暇制度のない企業のほうが圧倒的に多い現実が存在します(平成31年就労条件総合調査の概況)。 

Q&Aは厚労省というお役所が出しているため、誰でも思いつく「年次有給休暇(有給休暇)」という言葉が出せず苦しい面があると感じています。

有給休暇についてはこのnoteでも詳しくお伝えしているように「労働者の権利」であるため、企業側が従業員に対して「じゃあ、有給休暇として扱いますね」と勝手に事を運ぶわけにはいかないのです。


とはいうものの、ほとんどの企業においては従業員の方から有給休暇の取得の申請(事後申請になることも多いでしょう)が出されると思われますので、実際上は有給休暇として扱うことで問題は生じないでしょう。


ちなみに、有給休暇というのは「従業員がリフレッシュするための権利」なのですが、病気療養を理由とした申請の場合にも、企業は取得させなければなりません(昭和24.12.28 基発第1456号)。


問題があるとしたら、入社間もないためまだ年休権(年次有給休暇を取得する権利)が発生していない従業員や、有給休暇の残日数が「ゼロ」である(あるいは数日休むと「ゼロ」になってしまう)従業員に関してです。

この場合は、欠勤扱いとするか、それとも特別に有給休暇扱いするかなどの対応を決めなければなりません。注意点としては、平等原則の関係上、扱いを決めたら従業員に等しく適用する必要があるということです。

3日間までが普通の風邪の持続期間だそうですので、そこで従業員の発熱が治まれば、まずは一安心というところですね。


(イ)については当たり前の話ですが、まずは企業としては発熱がある従業員に休んでもらう(勤務時間中ならば早退してもらう)のが新型コロナウイルス感染症対策からしたら必須ですよね。ここで問題となるのが、Q&Aに

「発熱などの症状があることのみをもって一律に労働者に休んでいただく措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります」

とあるように、発熱したという事実が確認できただけの段階で従業員を「休ませる」となると、休業手当の支払いの問題が生じるということです。


熱があるにも関わらず頑強に休むことを拒否する従業員がいたら、それはかなりの「問題社員」なわけですが、もしもそのような事態が生じたら自宅待機命令を発することになります。

業務命令としての自宅待機命令は、就業規則の根拠がなくても発令可能とされています。ただし、前述の通り休業手当は支払う必要があります

実際上はそのような従業員が出る可能性は低いと思いますが、発熱しても休もうとしない社員が出た場合についてもこの機会に考えておくのがリスク対応の見地から求められます。


弊所としては、「発熱があった場合」についての対応について、各企業が事前に基準を決めることとその周知徹底を至急行われることをおすすめします。

病気休暇制度のない企業は、これを機会に新設されることを考えられても良いでしょうし、「そこまでは…」と考えられる企業は、あくまで法の趣旨に背かない範囲で発熱時に有給休暇を取得してもらえるよう、それとなく促しておく必要があります。


個人的には、結果的に新型コロナウイルスに感染していたことが判明した場合には、「遡って特別有給休暇扱いとする」ことを決定して、それをアナウンスされるのが良いと思っています。特別有給休暇扱いといっても、傷病手当金の支給対象となる日までのことですので、実際上は3日の付与にとどまることになります。

人事労務管理は「静的」なものではなく、社会経済情勢を受けて「動的」に見直していかなければなりません。多くの従業員は「うちの会社はどういうふうに対応するのだろう」と内心は不安に思っていると思います。

今回の問題に関して、企業が積極的に方針と基準を明示することは、従業員エンゲージメントを高めることにもつながるはずです。


それでは、次のnoteでお会いしましょう。
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