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労働契約関係の終了に関するまとめ

こんにちは。
社会保険労務士法人シグナル 代表 有馬美帆(@sharoushisignal)です。

今回は、労働契約関係の終了に関して、簡単にご説明しようと思います。


新型コロナウイルス感染症を原因とする社会情勢、経済情勢の激変から、多くの企業が深刻な売上低下に直面し、今後に向けて経営体制の再構築に迫られています。
人事労務管理分野において、厳しい状況下での再構築手段といえば、人件費の削減という問題を避けては通れないのが、悲しい現実です。経営の持続可能性を確保するために、新規採用の抑制や、人員整理などがリーマン・ショック時にも行われました。


現在、政府は雇用調整助成金の要件緩和、給付水準の引き上げなど、雇用確保のための支援策を次々と打ち出してはいます。
ですが、それらを前提にしてもなお、「人件費全体で〇%カットしなければならない」「〇〇部署を解体しなければならない」「人事評価で〇〇以下の人に別の道を歩んでもらわなければいけない」等、企業ごとに厳しい現実に対処するための人件費の削減策が検討されています。
今回のコロナ禍は、それほどまでに過酷な試練を企業に与えているのです。


人件費削減のための究極の手段は、人員整理、つまり「社員に会社を辞めてもらう」ことです。
それにより、社員に給料や賞与として支払っていた人件費が1人あたり年間数百万円も削減することができます。
ですが、人員整理は企業にとっては大きな戦力ダウンになることでもあるため容易に決断できることではありません。仮に決断できたとしても、わが国は「社員に会社を辞めてもらうこと」が非常に難しい法制度となっているため、そこにかかる労力と時間は多大なものになってしまいます。


今回は、今後このような厳しい決断をする企業の経営者や人事労務管理の担当者の方のために、「労働契約関係の終了」についてお伝えしようと思います。「社員に会社を辞めてもらう」ということは、企業と社員の間で結ばれた労働契約関係を終了させるということです。
この終了については、大きく分けて3つの場合があります。

A 解雇
B 退職
Cその他

Aの「解雇」は、企業(使用者)から一方的に労働関係を終了させることです。
それに対し、Bの「退職」は社員(労働者)から一方的に労働関係を終了させることです。
残るCの「その他」は、例えば定年に達した場合や有期労働契約期間の満了、企業と社員が話し合いをして労働契約関係を終了させる合意退職、希望退職者の募集に社員が応じる場合など、様々なものがあります。あらかじめ定められていたルールに該当した場合に社員が自動的に退職となったり、話し合いなどによって社員が退職する場合ということですね。


これら3つのカテゴリには、さらに様々なケースが含まれているのですが、弊所でも、何通りになるのか改めて書きだしてみました。
その結果は、「〇通りでした!」などと軽々しく言えないほど、多くの労働契約関係終了の種類がありました。
今回は、その一部を特別に公開します 。弊所の顧問先様には、ぼかしのない全公開版をご説明とともにお渡ししています。

労働契約1 (3)

労働契約2

労働契約3

企業と社員との関わりは、採用内定(あるいは内々定)という「入口」から、退職や解雇などの「出口」まで続きます(最近は退職後に元の企業に戻る「アルムナイ」というスタイルも注目されていますね)。


先ほどの表を、出口である「労働契約関係の終了」のみでまとめることもできますが、「社員に辞めてもらう」ことを考える際には、入口である「労働契約関係の成立」からの一連の過程を見ていくのが原則となります。

どんな入口から入社し、在籍中にどんないきさつがあり、どんな事情の上で労働契約関係の終了に至ってしまったのかということまで考えることなしに、適法に労働契約関係を終了させることはできないからです。


人事労務担当者の中には、「出口」にばかり囚われて、「入口」や「在籍中のいきさつ」にまで考えを及ぼす余裕がない方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に入口部分は抜けやすいので意識してくださいね。解雇事案や雇止めの場合は、採用時に社員にどのような説明をしていたか、どのような契約をしていたかがその有効性を大きく左右する場合があるからです。



今回のコロナ禍を原因とした人員整理を考える場合、この問題がなければ企業として雇用し続けていたであろう社員の方に、労働契約関係終了をお願いすることにならざるを得ません。
先日、緊急事態宣言を受けて「休業」という選択をせざるを得ない事態をした場合、「使用者(企業や個人事業主)の経営面」と「労働者(社員)の生活面」という2つの側面から考えていく必要があるというお話をしましたが、労働契約関係の終了においても、この2つの側面から考えていくことは重要となります。


この2つの側面を別の言葉で言い換えるなら、(1)正しい手続の中で説明を尽くすこと、(2)労働者の生活面にできる限りの配慮をすること、となります。
(1)は、社員が望まない形での労働契約関係終了に際しての基本中の基本です。(2)は、企業体力によって違いはあるにせよ、その社員の当面の生活費にまで思いを馳せるべきですし、可能な限りの配慮をしてください。


さらに、人事労務担当者が確認しておかなければいけないことは、自社の就業規則、労働契約法などの法律、そして各種判例です。就業規則の内容によっては、絶対に選択できない出口もありますし、解雇という出口を考えるならば、就業規則の定めだけでなく、法律や判例法理までチェックしないといけません。例えば、整理解雇が代表的ですね。


整理解雇について簡単に説明すると、経営悪化等の理由により、人員削減をする場合の解雇のことを指します。以下、厚労省のサイトでこのように書かれていますが、4つのステップを踏むべきだと言われています。


整理解雇
使用者が、不況や経営不振などの理由により、解雇せざるを得ない場合に人員削減のために行う解雇を整理解雇といいます。これは使用者側の事情による解雇ですから、次の事項に照らして整理解雇が有効かどうか厳しく判断されます。
①人員削減の必要性
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
②解雇回避の努力
配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
③人選の合理性
整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
④解雇手続の妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと

上記の①から④を「整理解雇の4要件(4要素)」といいます。

仮に、①の人員削減の必要性があり、②の解雇回避努力をしたとしても、③の人選の合理性という問題でつまづくことが多くあります。

整理解雇の対象となった社員の方からすれば、「なぜ私が?」という驚きや不満が心の中に渦巻くことでしょう。そのとき、企業としては、「入口」からの一連の過程を元に、人選の合理性を根拠付ける必要がるのです。
これまで研修参加に熱心さを欠いていたという事実があれば、配置転換して企業に残しても、新たな業務に熱心に取り組む可能性が低いと判断し、解雇の対象者にしたというような根拠付けです(これだけでは根拠に乏しいので、他にも根拠は必要ですが)。
そして、このような根拠付けをし、本人に対し説明し納得を得るプロセスは、④の手続の妥当性にもつながります。


労働契約関係を終了する上で大事なことをまとめると、以下の4つになります。


① [労働契約関係の確認] 
労働契約関係の成立→在籍中の各種事情→労働契約関係の終了
② [就業規則の確認]
③ [法令・判例(裁判例)の確認]
④[対象労働者の個別事情の確認]
労働者の年齢、家族構成、有するスキル、生活費等の事情


もし会社から労働契約関係の終了をするのであれば、人事労務担当者は、4つのことを総合的に考えてから行ってください。


最近、毎日のようにニュースで話題になる東京都のタクシー会社も、労働契約関係の終了を行う前に、4つのことを総合的に考えてから行っていれば、今のような結果にはならなかったのではないかと勝手ながら思っています。



それでは、次のnoteでお会いしましょう。
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