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メンバーが「自分ゴト」化した組織をつくる、コミュニティ・オーガナイジングという手法

どんな組織においても、メンバーが「自分ゴト」にできるかどうか ——は大きな関心ごとです。自律した組織をつくる上で、重要な要因のひとつに数えられます。言い換えると、「自分の力によって、周りに変化を起こせると信じられる力」とも言えそうです。

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国ごとによっても、その特性にもバラつきが。5年ごとの世界価値観調査(2021)によると、「人生は思い通りになるか」という質問に、日本は全体の38.6%が「人生は自由にならない」と回答。全77か国の中でも、6位を占めました。社会に対しての無力感を感じてしまい得る中。どうしたら「できる」風潮へと導き、メンバーを促して、組織に活発さを生み出せるのでしょうか。

アメリカ・ピッツバーグ大学の博士課程にて社会運動の研究を行い、「コミュニティオーガナイジング」の手法を実践されている、鎌田 華乃子さんにお話を伺います。

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鎌田 華乃子 (かまた・かのこ)
神奈川県横浜市生まれ。子どもの頃から社会・環境問題に関心があったが、11年間の会社員生活の中で人々の生活を良くするためには市民社会が重要であることを痛感しハーバード大学ケネディスクールに留学しMaster in Public Administration(行政学修士)のプログラムを修了。卒業後ニューヨークにあるコミュニティ・オーガナイジング(CO)を実践する地域組織にて市民参加の様々な形を現場で学んだ後、2013年9月に帰国。COJを2014年1月に仲間達と立ち上げ、ワークショップやコーチングを通じて、COの実践を広める活動を全国で行っている。ジェンダー・性暴力防止の運動にも携わる。現在ピッツバーグ大学社会学部博士課程にて社会運動の国際比較を行っている。
(Community Organizing Japan ホームページより)

子どものころ、大切にしていた木が斬られた

どのような経緯でアメリカの大学へ行かれて、社会運動の研究をされているのでしょうか。

もともと、11年間企業で働いていました。父も会社員だったため、ずっとこのままで行くものと思っていたのですが...。30歳になる頃、「本当にこのままでいいのかな」と考え込みました。落ち込むこともあり、自分が心からしたいことはなんだろうと思ったときに、「市民参加がキーになりました。日本では選挙以外の形で声を上げることが、あまりいいとはされず。自分たちで社会を作っていける実感が持てず、その感覚が薄いのはなぜだろうと。

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小さい頃の体験からも思いました。小学生の頃、自分が大事にしていた、近くの公園にある木が沢山切られてしまいました。「なんで毎日使っている人の声を聞いてくれないのか」と。当初は、子どもだからだったのかと思っていたのですが...大人になるにつれても、日本のシステム自体が人=生活者の声を聞いていない、と感じ続けるようになり、私にとっての大きなテーマとなりました。

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その木の経験もあって、環境コンサルタントとして働いていたのですが。ヨーロッパやアメリカを調査していると、市民団体やNGOが提案したものをベースに討論が進んでいたり、意見も尊重された上、実際に政策化されているケースを見てきました。そんな団体の背景には何万人という会員がいて、寄付をして、支えている。そうして、市民の声を代表する組織として成り立っていることを知ったとき、日本においても同じようなことができないかと。選挙以外の方法で、政治(だけではないですが)に届け、社会に反映させていくことが日常にできたらもっと楽しいだろうと思い始めました。

それから2011年に留学を始めて、コミュニティ・オーガナイジングに出会いました。

ストーリーを共有して、人を立ち上がらせる

コミュニティ・オーガナイジングとは、ずばりなんでしょうか。

市民の力で自分たちの社会を変えていくための方法であり考え方*1です。ハーバード大学のマーシャル・ガンツ博士*2が理論化し、実践的な社会変革の手法として知られています。オバマの大統領選キャンペーンでも駆使されました。

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問題意識を持った人がひとりだと何もできませんが。まずは数人の仲間を集めるところから始めて、チームにしていく。そこからより多くの人たちを動かして、活動を広げていく。やがて集った力をもとにして、新しいモノ・サービスを作り上げていったり。政治に働きかけて政策を通したり、当選させたい候補者を当選させたりと、小さいことから大きなことまで変えていける手法だと言えます。

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これをぜひ日本に持ち帰り、何か活動したいという人に届けたいと感じて。2013年に帰ってきて、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(以下COJ)というNPOを立ち上げ、4年間代表をしました。そこでより具体的に、実際の例を用いてお話しましょう。

岩手県花巻市の、ある助産師さんが抱える課題から始まりました。その方は被災地の母親たちを支援していたのですが、産後うつや児童虐待に苦しむ彼女らの姿を目の当たりにしました。そんなお母さん方が体を休められるための産後施設を作れないかと思い、助産師仲間とも話していたけれど、一向に話が進まず。「宝くじが当たったらいいね」、でいつも終わってしまっていたそうです。

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そこでその助産師さんは、COJのワークショップに来てくださり、伴走も受けたいと言ってくれました。まず、何をしたか?「問題を抱えているお母さんが立ち上がること」を前提にしました。社会問題は、社会的な立場が弱いからこそ起きます。社会的弱者に施しをし続けても、その人達は社会的に強くはなりません。本人たちが動いていくこと...この場合では「助産師さんが助ける」のではなくて、「当事者たる母親たち」を主役に置き、「彼女らと産後施設を作る」ことをひとつの指標としました。

*1 ... Community Organizing Japan 公式ホームページより。
*2 ... ハーバード大学ケネディスクール(公共政策大学院)の上級講師(公共政策)およびリベラルアーツ学部講師(社会学)。2008年の米国大統領選挙でバラク・オバマの選挙参謀として初の黒人大統領を誕生させたことでも有名。

スノーフレーク(雪の結晶)リーダーシップ

「当事者」が立ちあがることがベースにあるのですね。

「社会変革」という響きからしてよくイメージされるのが、ひとりの指導者にぶらさがっていることがありますね。この場合は、助産師さんのリーダーシップに期待を寄せることとか。ですが、それには限度があります。ひとりが頑張り続けるだけでは、どこかで破綻し得る。これをドットリーダーシップと呼んでいます。

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といって、誰かまとめる役もないような、バラバラリーダーシップも運動にはならない。そこでキーとなるのが、スノーフレーク(雪の結晶)リーダーシップです。ひとりでがんばるのでもなく、バラバラでもなく。他のリーダーを生む連鎖を繰り返し続けることこそが、本質的に組織を強くし、拡張していきます。

この場合「他のリーダー」たり得るのは、お母さんたち。公民館でサロンを開いたりしていたのですが、その度に参加してくれるお母さん達がいました。活動に参加してくれるということは、つまり何らかのモチベーションが確実にある。そこで、一対一で対話を行なっていきました。「自分も子育てが辛かった」「悩んでいて苦しかった」という奥底の声が聞こえてくる。そして「サロンの活動に助けられた、だから自分もなにかしたい」という思いも出てくる。その思いを表出する過程で、彼女らは助産師さんではなく、自分のためにやっているんだという感覚へシフトしていく。

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それまではそのお母さん方はただ来てもらうだけでしたが、徐々にスタッフやお手伝いという役割を与えていき、組織のコアチームにも入ってもらいました。やがて輪が広がっていったことで、助成金が取れて産後施設を作れました。最初は4人くらいから始めたのが、20人を超える規模に。2年くらいかかりましたね。ただ、母親たちの力を合わせたこの成功事例をもとに、花巻市からも逆に委託が来るようになり...。岩手県内に3カ所新たに作ってほしい、とまでなりました。

その組織は今でも「まんまるママいわて」という名前で活動を続けており、お母さんたちが運営しています。少しずつ、素晴らしい人材をたくさん生み出していますね。

ストーリーを共有して、関係を育んでいく

この成功例で鍵となったのは、何だったのでしょうか。

コミュニティ・オーガナイジングの手法において、5つ(+1)のリーダーシップが挙げられます。

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まず、1: パブリックナラティブですが、これはストーリーテリングとも。「語り」を通して、共に行動を起こすための素地を固める。サロンに集まったお母さんたちが、「辛い」「苦しかった」と話をする、主催している人も自分の体験からくる思いを話す。実は心底で感じていたことを、表に出すこと。そんな「語りあい」を通して、問題を自分ゴトとして捉えるようになり、自分が抱えていた思いを他の人も持っていることに気づき、何かしていきたいという意識を持つようになります。

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そうする中で、2: 関係構築がされていきます。お互いが大事にしている価値観(=語られたこと)を共有することで、「この人はこういう人なんだ」と関係を深め合っていく。表面的なバチバチはあるかもしれませんが、大事な根の部分でつながれるだけでも、課題を乗り越えていく上で大きな武器となります。今回の場合、お母さん同士のつらい境遇だけでなく、みんなで助け合う子育て環境を作りたいという想いを共有できたことで、スノーフレーク型のリーダーシップを生む下地となりました。

特に、お互いがどういう人間かを理解するのは大事ですね。COだと特に「社会変革」という目的を強く意識させがちな面もありますが、そこまでではないような、あらゆるコミュニティにおいても、こうしたリーダーシップは応用が可能だと思います。

(3以降のリーダーシップについては、著書にて詳細が描かれているため、ご参照ください!序章 & 第一章のみ下記noteにて公開中です。)

コミュニティ・オーガナイジングの広がりと確立

コミュニティ・オーガナイジングの動きは、各地で広まってきているのでしょうか。

全部が全部、COJが伴走していないので、私たちの成果とは言いづらいですが......笑 まちづくりでやってきた方もおられますし、法律や政策を変えるキャンペーン*3でも広がりを見せていると思います。

最近だと、コロナ関連ですね。保健師さんが不足していて、過労死寸前で働いておられます。特に大阪では保健師がカットされてきたため、それを増やすキャンペーンを行なっています。市内の保健所にひとりずつ増員するのを成功させました。

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コミュニティオーガナイジングは世界的にも様々な国、団体、教育機関で教えられています。そして、手法としては、確立してきていると思います。それぞれの団体において、教えている内容もほとんど一緒で。どうやって人との関係性を短期間で作り、目標を共有して、戦略的になりアクションしていくか。ただ、確立されているから終わりではなく、新しい運動の形も随時求められていると思います。これからも発展させていく必要があるなと、感じているところです。

*3 ... 直近の実例として、明治時代から110年間変わっていなかった刑法性犯罪条項改正(=性犯罪を厳罰化させる)を2017年に実現。ちゃぶ台返し女子アクションのリーダーとして、鎌田さんが実現に関わった。

「しかたがない」よりは「しかたがある」社会へ

こうした広がりを持つコミュニティ・オーガナイジングを通して、鎌田さんご自身が日本で変えたいと思うものはなんでしょうか。

アメリカで強く印象に残っていることがあります。2012年、オバマ大統領の再選でボランティアをしていた頃。家宅を一軒ずつ個別訪問するのですが、街で通りかかっているおばさんに「あなたのやっていることは素晴らしい」と声をかけられました笑 遠くからがんばれー!と叫んでくれる人も。そうした政治的な活動を日本でしていると、「お前何やってるんだ」と白い目で見られそうですが...笑 そうした空気感を変えていきたいですね。

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ひとつ思うのは、「しかたがない」がこれだけ日常になっている言語もすごいよなと笑 皆が皆、アクティブになる社会も怖いから違うと思いますが...笑 ただ諦めて状況を受け入れる現状肯定ではなくて、なんかできるといいよねと。「しかたがない」よりは「しかたがある」と、特に若い人が思える社会にしたい。日本ではまだ、新しい行動をする人が叩かれてしまうこともよくあります。そういうのを減らして、応援される社会にしていきたいな、と思っています。

鎌田さんの著書では、より具体的にコミュニティ・オーガナイジングについて描かれています。ご興味のある方は上記リンクより、お求めください。

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次回は、そんな「しかたがない」ムードがどこから生まれてくるのか。日本社会とアメリカ社会とを比較しつつ、深掘っていきます。

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【コミュニティラボとは】

リアルとオンラインの仮想のまち「シェア街」における、コミュニティ研究の会。
Zoom上で毎週月曜日の21時-22時に開催中。コミュニティの主催者・マネージャーを招いて、実践で得たノウハウを学んでいます。参加者はQ&Aで自由に質問したり、自身の抱えるコミュニティづくりの悩みをぶつけてみることも。

シェア街の住民さんは現在募集中です。ご興味のある方はお待ちしています!
(そもそもシェア街とは何か?は以下のリンクからどうぞ!)




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