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療養期間中に観たアニメの感想メモ(カイバ/serial experiments lain/彼方のアストラ/トップをねらえ2!)


カイバ

『犬王』『夜は短し歩けよ乙女』の湯浅政明監督が2008年に発表したテレビアニメ。『四畳半神話大系』以降は原作つきばかりなので、貴重なオリジナル作品。記憶のデータ化ができるようになり、肉体の死がもはや死と呼べなくなった世界を舞台に記憶を失った主人公カイバが記憶を宇宙の星々をめぐって自分が何者かを知っていく物語だ。序盤は、カイバが出会う人々との記憶や思い出を巡る単発のエピソード集でこの時点でも非常に示唆に富むSF。

終盤は焦点が絞られ、カイバ自身のルーツをたどる回想なども入っていくのだがここでも『犬王』にまでつながる、強靭な魂レベルの絆を描いてあってとても一貫している作家性なのだと思った。しかもそれをサイケデリックで可愛らしいのにグロテスクなアニメーションで思いっきり酔わせてくれる。先鋭的だけど中身は真っ直ぐ。この歪なバランスこそが湯浅政明だな、と。また連続シリーズで思いっきりオリジナリティを炸裂させる作品も観たい。




serial experiments lain


「邪眼霊」や「ウルトラマンティガ」で知られる小中千昭が脚本を務めた名作アニメ。14歳の少女・玲音(lain)をめぐるインターネット黎明期ならではのホラー作品。これはなお語られ続けている理由がよく分かる。SNSやメタバースなどを1998年時点で予見している点はもちろん、それらがもたらす"いつでも繋がっている"ことの苦しさまでも既に描いている。エヴァよりもスッと入ってきやすい孤独感と自我同一性についての物語だと思った。

抱える思いは普遍的でありながら設定上はとてもトリッキーな存在であるlainは、アニメ文化と精神分析が密接だった時代の産物なようでなかなか興味深かった。途中、冥府みたいなワードが出てきて既視感を覚えて調べたらこの作品って黒沢清の「回路」と同じプロットを基に作られていたのね!どおりで理解しやすい概念だったわけだ。インターネットが得体の知れないものとされる時代だからこそできた知らなさすぎるが故の勝利のような逸品。



彼方のアストラ

「SKET DANCE」で知られる篠原健太による同名マンガのアニメ化。惑星キャンプに出掛けた9人の子供たちが銀河の遥か彼方で遭難し、懸命に故郷の星へと戻ろうとするというサバイバルものであり、9人の中に1人裏切り者がいるというミステリーも同時進行していく。間延びせず、素晴らしいテンポ感で次の展開がきて1クールで一切隙なく完結する圧巻の1作。解釈の余地や抽象的な表現が尊ばれがちだけど、少年漫画のタイム感と明朗さって上質だ。

ギャグやSF要素に気を取られがちだが、登場人物たちの境遇を考えると彼らの勇敢さや特異な能力たちさえも、全ては過酷な生育環境が育てたものだと思い呻いてしまう。”そういう風に育てられ””がこんな風に闇の部分をも含んだうえでキャラクター属性にポップに反映されている点はかなり皮肉だし、これをジャンプ漫画でやろうとしたのは非常にユニークだと思った、個人的にはジョーダン・ピールの作品たちを思い出すようなところがあった。



トップをねらえ2!

1988年発表のガイナックスの初期の人気作「トップをねらえ!」の続編。前作は庵野秀明の初監督作品として知られるが、今作は鶴巻和哉監督ということで「フリクリ」的なフレーバーが満載だった。戦い方とか、フラタニティとか、ガイナックスユニバースが全開。前頭葉の発達云々みたいな、流用されたであろう要素もある。こうやって無邪気にキッズの魂を戦闘力へと動員させる作風の作家って減ったけど、一定数は必要なものだと思うんだよな。

前作「トップをねらえ!」が庵野監督らしいパロディ要素やでたらめなまでのフェチ趣味を踏まえたうえで、最後に大技を決めて宇宙の彼方まで物語の結末をぶっ飛ばすやり方だったのでどういうアプローチの続編かと思ったら極めて真っ当な、いいどんでん返しが中腹に用意されていた。悠久の時間を超え、伝説が誰かに影響を与え、その誰かもまた誰かを突き動かしている、、そうやって命は巡っていくのだという。ストレートな人間賛歌だ。


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