マハーバーラタ/1-24.ヴァーラナーヴァタへ送られたパーンダヴァ兄弟

1-24.ヴァーラナーヴァタへ送られたパーンダヴァ兄弟

数日が過ぎ、ドゥリタラーシュトラ王はユディシュティラを呼び出した。
「ユディシュティラ、ヴァーラナーヴァタという美しい街があります。そこで一年ほど楽しく過ごしてみてはいかがかな? それからまたこのハスティナープラに戻ってくるといい」
王はユディシュティラがこの提案の背後の意図に気付くことはないだろうと思っていた。しかしユディシュティラは全てを見通していた。これは王自らの提案ではないと理解していたが、王からの提案を断る力もなかった。
「はい、王の命とあらば、そうしましょう」
ユディシュティラはその場にいたビーシュマ、ドローナ、ヴィドゥラ、その他の年長者達に向かって話した。
「私はヴァーラナーヴァタで一年過ごすよう伯父から頼まれ・・・いえ、命じられました。皆様、私達に祝福を、私達が無事であることを願ってください。
私達はまだ小さな少年の頃に父を亡くし、ここに連れてこられました。あなた達は私達にとっての父、母、幸福を祈る人でした。どうかその愛情をもって私達を扱ってください。私達はあなた達に絶対的に身を委ねている無力な子供です」
ビーシュマの方に向いて話を続けた。
「我が祖父ビーシュマ、あなたは伯父が私達をどれくらい愛しているかをご存じですね? 罪深いトリプラを滅ぼした偉大なシャンカラの聖地であるヴァーラナーヴァタでしばらく過ごすことを伯父は望んでいます。私達の幸福のみを考えてくれる伯父のお考えなので、私達はまさに幸運に恵まれるはずです」
この皮肉に満ちたスピーチは、皮肉を言われることに慣れていたビーシュマの心を動かしたはずであった。
しかしドゥルヨーダナの見立て通り、彼は冷淡であった。口を挟んで意見を言うことができるはずだったが、彼はドゥリタラーシュトラの罪深さを推測することもなく、この命令の裏にある陰謀を想像することはなかった。
ドゥルヨーダナは次第に横柄な態度になっていき、年長者達を公然と無視するようになったが、それが表面化するのはこれよりも後のことであった。またドゥリタラーシュトラも伯父ビーシュマに対してそのような態度を見せていなかったので、ビーシュマは彼らの邪悪な意図を察することができなかった。

ユディシュティラのスピーチに込められた助けの声はビーシュマに届かず、自らの無力を悟った。
彼はヴァーラナーヴァタへ出発する準備を始めたが、伯父によって計画されていることがどんなに危険なものであるかを正確に推測することはできなかった。

パーンダヴァ達がドゥリタラーシュトラの提案に同意したことを聞くとすぐにドゥルヨーダナと伯父シャクニは陰謀の仕上げを始めた。ドゥルヨーダナは大臣のプローチャナを呼び出した。周りに誰もいないことを確認し、彼の右手を取って話しかけた。
「この世界の全てとその富はもう私のものです。私にとって父と同じくらい愛しく親しいあなた、プローチャナ。あなたは私と共にこの王国を手にするのです。あなたなら私の考えを共有できます。私の計画に必要な時間を与えてくれるのがあなたです。
あなたも知っている通り、パーンダヴァ達は父の願いによってヴァーラナーヴァタへ行くことになりました。あなたは一番早い馬に乗って今すぐヴァーラナーヴァタへ行ってほしいのです。考えるよりも早く行動してください。
まずはパーンダヴァ達の為の宮廷を建ててください。そして王子達の宮廷に相応しい高価なもので飾り付けるのです。
ここからが重要です。その建物はラック(樹脂)やワックスのような非常に燃えやすい素材で作ってください。そしていくつかの部屋には油やギーの壺を置いておき、さらに建物の素材を怪しまれないように香を焚いておくのです。そこまでをパーンダヴァ達が到着するまでに準備するのです。
パーンダヴァ達がやってきたら、大きく謙遜して彼らをもてなし、その家に住むよう頼むのです。彼らが快適に過ごせるようにドゥリタラーシュトラが特別に建てさせたものであると伝えるのです。あなたは彼らの信頼を得てください。
彼らがしばらくそこで過ごし、怪しんでいないことを確認した時に、偶然の火事を装って火をつけるのです。周囲の人々にも不審がらせてはなりません。
これは憎き従兄弟達をうまく排除する唯一のチャンスです。あなたにこの重要な役目を任せます」
プローチャナはその通りにすることを返事し、ヴァーラナーヴァタへ馬を走らせた。恐ろしいラックの宮廷の建設が始まり、それは精巧に作られた。

ドゥリタラーシュトラの願いでパーンダヴァ兄弟がヴァーラナーヴァタへ行くことになったというニュースは激しい炎のようにハスティナープラの町中に伝わった。人々は皆悲しんだ。その中でも勇気ある者達がユディシュティラに直談判した。
「あの盲目の王の意図は悪いものだ。きっとあなたに害を加えようとしているに違いない。それなのになぜあなたは彼の言うことに従うのだ? どうかヴァーラナーヴァタへ行かないでください。あなたは不幸になります。不幸どころか何かもっと恐ろしいことが起きるかもしれません。ビーシュマが止めてくれなかったことは残念です。お願いです。どうかヴァーラナーヴァタへ行かないでください!」
ユディシュティラは彼らをなだめた。
「年長者の頼みは断ってはならないというのが私のルール、ダルマなのです。父を亡くした私達にとって、ドゥリタラーシュトラは父なのです。彼に従うことが私の義務なのです。どうか私達を祝福し、ヴァーラナーヴァタへ送り出してください」
市民達は目に涙を浮かべながらパーンダヴァ達に同行し、別れの言葉を言った。

ほとんどの市民達が引き返した後、ヴィドゥラはまだ同行していた。彼は少数の人のみが話す方言、ミエッチャ・バーシャでユディシュティラに話しかけた。
「ユディシュティラ、あなたは正義の人であり、賢い人だ。危険から身を守る技術を学ばなければならない。
剣や矢よりも致命的で危険な武器がある。
ネズミは過酷な冬の期間、自らを守る為に穴を掘る。
賢者は自らを守る技術を持つ。
剣よりも致命的な武器に対して、ネズミのように身を守りなさい。
その後の方法は明らかです。たくさんの星があなたに道を示します。
感覚を敏感にしておけば、何もあなたを傷つけることはできない」
ユディシュティラはその言葉を受け取り、深々と頭を下げ、ヴァーラナーヴァタへ向かった。ヴィドゥラは心の荷を降ろしたように感じ、別れの言葉を告げて帰っていった。

クンティーはユディシュティラに尋ねた。
「ヴィドゥラは何を話したの? きっと他の人に知られたくないから変わった方言を使ったのよね? 私に対して秘密でないなら教えて」
「彼は火と毒に対する警告を伝えてきました。きっと火の方を意味していたのだと思います。そして星の助けで私の道が明らかになるということも言っていました。おそらくその暗示通りの危険がヴァーラナーヴァタで待っているのでしょう。
あの気高い従兄弟と気高い伯父は、公に私と戦おうとはしないはず。きっとなんらかの陰謀でしょう。大丈夫です。私達を守ってくれる叔父ヴィドゥラがついています。何が起きるのか待ってみましょう」

彼らは八日間旅を続け、誰のものでもないシャンカラ神の街、ヴァーラナーヴァタへ到着した。

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