マハーバーラタ/1-25.ヴァーラナーヴァタにて

1-25.ヴァーラナーヴァタにて

パーンダヴァ達はヴァーラナーヴァタに到着した。
そこはかつて太陽族のハリシュチャンドラが苦行の日々を過ごしたという名声を持つ町。
町はパーンダヴァ達を迎える為に飾られ、人々は大きな喜びと熱意を持って歓迎した。

町にやってきて十日目、プローチャナがユディシュティラの元へやってきて、大変謙虚に敬意を表し、彼らが快適に過ごす為にドゥリタラーシュトラが建てさせたという宮廷へ案内した。パーンダヴァ達がそこに住むことを伝えるとプローチャナは安心した。

プローチャナはその宮廷を『シヴァ』と呼んでいた。建物の周りは堀に囲まれていた。プローチャナは侵入者への備えと説明したが、それは火をつけた時にパーンダヴァ達を逃がさない為であった。

ユディシュティラがビーマを連れて建物を見て回った。
「ビーマ、気付いているか? この建物全体に充満している奇妙な臭いに。プローチャナはこの宮廷をシヴァと名付けていた。この壁はおそらくラックか何か、燃えやすい材料だな。カウラヴァ達は私達を火で焼こうと決めたようだ。
ヴィドゥラ伯父さんは私に感覚を鋭く保てと、そして剣よりも致命的な武器に気をつけろと言ってくれた。間違いない、火だ」
ビーマは怒りをみなぎらせた。
「兄さん、火をかけられるのが分かっているならここからすぐに出よう! あの堀、きっと私達を逃がさない為だ! ここは危険だ。ネズミが罠にかかっているようなものだ。すぐに逃げよう!」
「いや、急ぐ必要はない。きっとすぐに火事は起こらない。もし今日火事が起きたら、カウラヴァ達が私達を殺したのが誰の目にも明らかになる。そんな露骨なことはしないはずだ。
今からお互いに演技を続ける持久戦になる。ヴィドゥラ伯父さんは私達を助ける策を進めているはず。しばらくここに住んで何が起きるか待つんだ」
「兄さん、彼らはすでに常習犯だ。公衆の意見なんか気にしちゃいない。思い出してよ。私にカーラクータの毒を盛って毒蛇の川に投げ込んだことを。大丈夫、神様は守ってくれる。今すぐ逃げて彼らの悪行を世間に知らせてやろう。このまま待つなんて嫌だ。アルジュナ一人いれば彼ら全員を倒せる。私なら武器も持たずに素手で奴らを殺せるよ」
「ビーマよ。よく考えてみなさい。今すぐ脱出したらどういう結果になるか、きっと良い結果にはならない。誰も私達の話を聞かないだろう。お金持ちと戦う、貧しい人のようなものだ。レスラーと戦う、力のない人のようなものだ。成長した鷲と戦う、ひな鳥のようなものだ。私達には味方がいないのだ。
それよりも火事が起きるまで待てばどうなるか考えてみよう。
ヴィドゥラ伯父さんは嘘の涙を流してこう言うだろうね。『おお! パーンダヴァの少年達が死んでしまった! 私の希望が無くなってしまった! なんということか! 運命とはなんと残酷なのだ! 彼らを殺した犯人を捕まえなさい!」と叫んで沈黙を保つだろう。なぜなら『火事が起きた』ということがシナリオ通りに進んで、彼の与えた脱出方法で私達が逃げ出したと確信できるはずだから。あとは心の中の喜びを隠すだけが彼の仕事になる。
祖父ビーシュマは正義の人だが、ヒマラヤのような氷の冷たさを持っています。それでも今から起きる火事の件を聞けば、我々に対するカウラヴァ達の敵意にはっきりと気づいてくれるだろう。ドローナ先生やクリパ先生も残念に思うかもしれないが、ドゥリタラーシュトラとドゥルヨーダナを非難するまでには至らないだろうね。
最善の手は、待つことだ。ヴィドゥラ伯父さんの手助けで私達は脱出できるはずだ。そしてその後しばらく変装して過ごすことにする。
そうしてしばらくすればドゥルヨーダナは私達が死んだと安心するだろう。
時が来たら変装を解いて、彼を平和の夢から起こしに行く。パーンダヴァ達に対して何か企てることは無駄だと気付かせてやるんだ。そして私達の味方を増やす。これが最善の手だ」

ビーマはその賢明で実用的な兄の考えに納得した。
パーンダヴァ兄弟は外見上は疑っていないふりをしながらも、今から起きる厳しい試練を恐れながら、宮廷『シヴァ』で過ごした。それは彼らの人生において記憶に残る恐ろしい日々であった。

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