マハーバーラタ/1-17.ドローナとドゥルパダ

1-17.ドローナとドゥルパダ

バラドヴァージャの息子ドローナがまだ学生の頃、パーンチャーラ王国の王子ドゥルパダとは親友関係であった。

ある時、ドゥルパダは言った。
「ドローナ、僕は君のことを本当の親友だと思っているよ。このアーシュラマを卒業しても友達でいたいんだ。僕はパーンチャーラの跡継ぎだから、いつか王様になったら君を呼んで、そうしたら一生の友達でいようね」

それから数年後、ドローナはシャラドヴァーンの娘クリピーと結婚し、その後、息子アシュヴァッターマーが生まれた。
ドローナの夢はこの時代での最高の弓使いになることであった。彼は世界を21周してクシャットリヤを滅ぼしたと言われている偉大なバールガヴァの元へ行った。クシャットリヤを嫌うバールガヴァは愛情を持ってブラーフマナである彼を歓迎した。
「私に何を望むのだ?」
「私はバラドヴァージャの息子ドローナです。富を求めてあなたの元へ来ました」
「私は何も持っていない。財産はすべてブラーフマナに与えた。征服した土地はすべてカッシャパに与えた。持っているのはこの肉体とアストラ(飛び道具の武器)だけだ。何を与えられるというのだ?」
「はい、私はあなたの富を求めます。あなたは弓の達人ですから、弟子になってそれを習いたいのです」
「いいだろう。お前を弟子にしてアストラを授けよう」
ドローナは彼の元で修行し、全てのアストラをマスターした。

ドローナは貧しかった。息子アシュヴァッターマーに飲ませるミルクすら手に入れられなかった。アシュヴァッターマーは母クリピーにお願いした。
「お母さん、みんなはミルクっていうのを知っているんだ。神様の薬と同じくらい美味しいんだって。なんで僕だけ飲めないの? 僕も飲んでみたいよ」

アシュヴァッターマーの友達は小麦粉と水を混ぜたものをミルクだと言って彼に飲ませてからかっていた。それを聞いたクリピーはどうしてよいか分からず途方に暮れた。自らの貧しさに悲しくなったドローナはかつての親友ドゥルパダのことを思い出した。
「クリピー、聞きなさい。パーンチャーラの王ドゥルパダは、同じアーシュラマで学んだ親友です。彼は王になったら私を迎え入れて富を分け与えてくれると約束してくれた。パーンチャーラへ行こう。貧乏はもう終わりにしよう」

三人はパーンチャーラへ出発し、ドゥルパダの王宮に到着して王に謁見した。
「おお、ドゥルパダ王よ。私はドローナです。覚えていますか? あなたが王になったと聞いてここに来ました。共にアーシュラマで学んでいる時に私に話してくれたことを覚えていますか? 私達の友情を永遠に続けたいとあなたは言い、王国でさえも分け与えてくれるとまで言ってくれました。
私は土地も富も求めていません。友としてここに来ました。あなたの傍に私を置いておくかどうかはあなた次第です。さあ、これからはいつでも一緒にいましょう」
ドゥルパダはかつての彼ではなかった。昔のようにブラーフマナに優しく語り掛けるような人物ではなくなっていた。王となり、富を得たことで権力に酔いしれ、高慢になってしまっていた。
「はははっ!! 学生時代に友人だったブラーフマナが私に友情を要求するとは、なんておかしな話だ。友情というのは対等な関係にのみ成立するというのを知らないのかい? 二人の貧しい者達のみが友達になり、二人の裕福な者達のみが友達になるんだよ。あなたの言っているおかしな友情は夢だ。現実には無いんだ。もう帰ってくれ。昔の妄想話で私にせがむのはやめてくれ」
侮辱されたブラーフマナはしばらく黙って立ち尽くした。そして何も言わずに高慢な王の元から去っていった。
王宮で彼が静かに立ち上がった時、それは彼の復讐が決定した瞬間であった。高慢になったことで盲目になり、約束を忘れてしまったドゥルパダ。かつての友を乞食のように侮辱したこの男を苦しめてやらなければならない。
若いクシャットリヤを教育し、その者を通じて彼の夢を実現させようと決心した。
彼はハスティナープラへ行くことにした。そこには妻の兄クリパがいて、クル一族の若き王子達を指導していることも聞いていた。そこに行けば復讐が果たせる、そう考えていた。

彼がハスティナープラの郊外に着いた時、クル一族の王子達を見かけた。彼らのボールを井戸から取り出したのがその時であった。
彼はビーシュマによって歓迎され、パーンチャーラの王ドゥルパダによって受けた侮辱のこと、そして復讐の願望について話した。
「ドローナ、あなたはそれを果たす為の相応しい場所に来ました。弓を習いたがっている100人以上の孫達がいます。あなたが彼らを指導して真のクシャットリヤに育ててくれるなら大変光栄です」
「いいでしょう。その役目を引き受けましょう」

ビーシュマは子供達を集めた。
「ドローナ先生、今日から彼らはあなたのものです。あなたの役割は彼らを真の男に育て上げることです」

若き王子達の教育が始まって数年が経った。彼ら全員が素晴らしい武器の使い手となっていた。中でもアルジュナはドローナのお気に入りの生徒であった。弓に対する愛情、絶え間ない鍛錬、並外れた忍耐力、学びやグルに対する献身、そして彼の愛すべき性格が彼の心をつかんだ。自らの息子アシュヴァッターマーよりも彼の方を気に入るほどになっていた。それほどアルジュナは完璧な生徒であった。
アルジュナの集中力はすさまじかった。その日に習ったことを完全にマスターする為にしばしば一晩中することもあった。ドローナはその姿にとても喜んだ。
「アルジュナ、あなたのような弓使いは他にはいない。あなたが世界一の弓使いになることを約束しよう」
アルジュナは先生の言葉に喜んだ。

ある日、ドローナがガンジス河で沐浴している時にワニに襲われた。ワニはドローナの足を捕えていた。
「誰か! 誰か私を助けなさい! 私をワニから救いなさい!!」
それはドローナの演技であった。自分でワニから脱出することは簡単な仕事だったが、生徒達の武勇を試す為に敢えて助けを求めることにした。
アルジュナはその素早い動きと矢をもって、ドローナの言葉が終わる前にワニを殺し水中に沈めてしまった。
それに喜んだドローナは感極まり、彼にブラフマシールシャと呼ばれるアストラを教えた。その発射方法、引き戻す方法、そして警告も付け加えた。
「このアストラは普通の人間相手に使ってはならない。あまりにも強すぎて世界を滅ぼすほどの威力がある。人々に混乱をもたらすラークシャサ(妖怪)や堕落したデーヴァ(神々)に対してのみ使いなさい」
アルジュナは謙虚に、そして感謝の気持ちを持ってブラフマシールシャ・アストラを受け取った。

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