マハーバーラタ/1-18.ニシャーダのエーカラッヴャ

1-18.ニシャーダのエーカラッヴャ

ある日ドローナの元に色の黒い少年がやってきた。彼は他の王子達が近くにいない時を見計らってやってきた。
「ドローナ先生、あなたから弓を習いたくてここへ来ました。どうか私を弟子にして下さい」
「あなたは?」
「私はニシャーダ(森の住人)の王ヒランニャダヌスの息子、エーカラッヴャです」
ドローナはニシャーダと聞き、彼がクシャットリヤではないことが分かったのでその願いは聞き入れようとしなかった。
「おお、エーカラッヴャよ。すまないが、私はここにいるクシャットリヤの王子達の教育をしています。あなたのその態度は素晴らしいが、あの弟子達の中にあなたを入れることはできない」
弟子を拒否されたエーカラッヴャは仕方なく森へ帰っていった。

エーカラッヴャはドローナの姿をした泥人形を作ってそれをグル(先生)と呼び、毎日それを礼拝して弓の練習を始めた。
残念ながら本物のドローナ先生から弓を習うことはできなかったが、弟子を拒否せざるを得なかった先生への愛、そして弓への愛、その二つが彼の集中力を研ぎ澄まし、とてつもない速さで技術を磨いていった。

ある日、ドゥリタラーシュトラの息子達とパーンドゥの息子達が犬を連れて森へピクニックに出かけた。
犬が突然森の奥の方へ駆け出し、見知らぬ人物を発見して吠え始めた。
その男は豹の皮を身にまとい、まさに豹のように歩いていた。
ニシャーダのエーカラッヴャであった。
彼は突然自分の周りでしつこく吠え始めたその犬を黙らせたいという衝動を抑えられなかった。

その犬はパーンダヴァ達の元へ帰ってきたが、その姿に驚かされた。犬の口が開いたまま7本の矢が編み上げられ、その奇妙な拘束具によって全く閉じることができなくなっていた。
パーンダヴァ達は、矢で作られたその詩情豊かな拘束具の創造者の弓の技術を称賛した。
彼らはその人物を探し出し、何者なのか尋ねた。
「私はニシャーダの王ヒランニャダヌスの息子、エーカラッヴャです」
アルジュナは尋ねた。
「あれほどまでの素晴らしい弓の技術をどうやって習得したのですか? 私にはあんな真似はできない」
エーカラッヴャは誇らしげに答えた。
「私はあの偉大なドローナ先生の弟子ですから」

自分こそがドローナ先生の一番の弟子であると信じていたアルジュナは落胆し、キャンプに戻ってドローナ先生に尋ねた。
「先生は私を世界一の弓使いにしてくれると約束しました。私以外にも同じ約束をしていたのですね。あなたの弟子のエーカラッヴャが既に世界一の弓使いではないですか」
「それはどういうことだい? そんな弟子なんて知らないが」
ドローナはアルジュナに案内されてエーカラッヴャに会いに行った。

彼は豹の皮を着て、弓矢を手に持っていた。
ドローナは彼のことを全く覚えていなかった。
しかし、エーカラッヴャはドローナを見つけると駆け寄り、足元にひれ伏し、彼の涙が愛する先生の足を洗った。
「いったいあなたはいつ私の弟子になったんだい?」
エーカラッヴャはこれまでの物語を伝えようと思ったが、あまりに喜びすぎて話がまとまらない状態であった。そして自分がどれほどの弓使いになってしまっているか自覚していないようであった。

彼があまりに純粋で、あまりの熱量で感動しすぎているので、ドローナは彼を愛せなかった。しばらく考え、話し始めた。
「エーカラッヴャ、あなたは私の弟子なのですね。ではあなたにダクシナー(先生へのお礼)を求めます」
「もちろん! 光栄なことです!!」
ドローナはその時アルジュナの顔に浮かんでいた険しい表情を見た。
「ではあなたの親指、右手の親指がいいですね」
エーカラッヴャの唇には全くためらいはなく、微笑んでいた。
「あなたから学んだ弓の技術のお返しにこのダクシナーを捧げます」
彼は矢筒から三日月形に尖った矢を取り出し、自らの右手の親指を切り落とした。(親指は弓使いにとって大事な指であるので、この瞬間彼は弓をまともに扱うことができなくなった)
「さあ、どうぞお受け取りください」
愛する先生の足元に血まみれの指を置き、ドローナはそれを受け取った。
それで会話は終わった。それで全てが終わった。

エーカラッヴャは再びドローナの足元にひれ伏し、別れの挨拶をした。
ドローナとアルジュナは何も話さずにキャンプに帰っていった。

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