マハーバーラタ/2-9.ドゥルヨーダナのサバー建設

2-9.ドゥルヨーダナのサバー建設

ドゥルヨーダナはハスティナープラに戻り、インドラプラスタでの出来事を伯父シャクニに報告し、さらに話し続けた。
「パーンダヴァ兄弟を破滅させない限り、私は幸せになれない。あいつらをやっつけないと! 伯父さん、私を本当に愛しているなら、世界の統治者になる為の計画を考えて!」
「ドゥルヨーダナよ。彼らがどれほど強くなったか見てきたのだね。戦争では勝てなかったとしても、私は鋼より強い武器を持っている。一滴の血も流さずに、しかもなんら非難を受けることなしに、全ての富をあなたのものにしてあげよう。その憂鬱を捨てて私の話を聞きなさい」
ドゥルヨーダナは耳を疑った。

シャクニは薄い唇にずる賢い笑みを浮かべ、その手口を話し始めた。
「あの偉大はユディシュティラは賭け事に弱い。とても弱い」
ドゥルヨーダナは何を言おうとしているのか分からず、話の続きを待った。
「ユディシュティラの弱点は賭け事だ。賭け事が好きなのに、やり方を分かっていない。この弱点を突いて目的を果たすんだ。
私はサイコロを振るのが得意だ。この世界に私に勝てる者はいない。この技を使ってあなたを喜ばせてあげるよ。ユディシュティラをサイコロゲームに招待しなさい。彼の国全部を賭博で失わせてあげよう。
その為にまずはあなたの父親の許しをもらってきなさい。そうすればまるで子供の手から玩具を取り上げるように彼の富を奪ってみせます」
「この計画がいかに安全なのかを伯父さんの口から父に伝えてくれませんか? 父は安全をモットーとしています。いつもヴィドゥラを恐れています。あなたが父の所へ行って、安全な計画であることを確信させてあげてください」

シャクニはドゥリタラーシュトラ王の所へ行った。
「ドゥリタラーシュトラ王よ。あなたの息子ドゥルヨーダナはインドラプラスタから帰ってきてからずっと沈み込んでいます。彼を励ましてやってください」
ドゥリタラーシュトラはドゥルヨーダナを呼んだ。
「我が子ドゥルヨーダナよ。どういうことだ? どうしてそんなに落ち込んでいるのだ? 私の命より大事な我が息子よ、その憂鬱の原因を言いなさい。できることなら何でもしてあげよう」
「はい、あなたになら私の憂鬱の原因を教えます」
ドゥルヨーダナはインドラプラスタでの出来事を全て話し、心の中の嫉妬について話した。
「父上、パーンダヴァ兄弟の運勢があれほどまでの上昇しているのですから、私が落ち込むのは驚くことではないでしょう。私が『あの行儀の良い子達』が勢いに乗っているのを褒めるとでも? 彼らが嫌いです。彼らの富が欲しい。あいつらの栄光が消えてほしい、滅んでほしい。そうならない限り私はずっと落ち込んだままです」

シャクニが計画を伝えるタイミングがやってきた。
彼がサイコロゲームの話を切り出し、ドゥルヨーダナを熱望している全てを叶えることがどれほど簡単であるかを伝えた。
「王よ、彼らをハスティナープラへ招待して下さい。ユディシュティラは賭博で全ての財産を失うでしょう。私が保証します」
事前に計画を聞いていたドゥルヨーダナは同然賛成した。
「父上、この計画は良いと思います。ぜひとも許可してください」
「いや、大臣達が賛成してくれるかどうか・・・、彼らの意見も聞いてみなければ」
「父上! 必要ありません! 王であるあなたが決めればよいのです。ヴィドゥラ叔父さん率いる大臣達はどうせ認めてくれません。よく分かっているでしょう? もし彼らに相談して却下されたなら、私はこのままさらに落ち込んで・・・死ぬでしょう。
・・・そうですね。そうすればいいです。
そうすれば父上はダルマの象徴である、愛するユディシュティラと、もう一人のダルマの象徴である、愛するヴィドゥラと共に幸せになれるのですよね。ええ、それがよいですね。私のことなど考えなくていいです」
「分かった、息子よ。私は誰にも相談しない。シャクニよ、ハスティナープラ郊外のジャヤンタに美しいホールを建築し、完成したらそれを見てもらう為にパーンドゥの息子達を招待しなさい。そこで娯楽としてサイコロゲームをしなさい。全てあなたに任せます」
期待通りの結果になったシャクニとドゥルヨーダナは、心の中で歌いながら去っていった。

サバーの建築が始まったという知らせがヴィドゥラの耳に届くと、すぐに兄ドゥリタラーシュトラの所へ行った。
「兄よ、ジャヤンタで建てられているサバーは一体何ですか? パーンダヴァ兄弟を招待してサイコロゲームをするいうのは本当ですか? 彼らはすでに遠くへ離れて幸せに暮らしているし、あなたもドゥルヨーダナも彼らと顔を合わせることもないのだから問題無いではないですか。彼らを追放しただけでは満足できないのですか? なぜあなたはそれほどまで自分の弟の息子達に無情になれるですか。なんと冷酷な!
この計画はあなたにとって良い結果にはなりません。サイコロゲームは彼ら従兄弟同士の新たな衝突の原因になります。どうか止めてください」

「大丈夫でしょう。そんなことにはならない。そもそもサイコロは王子達のゲームなんだから。楽しく過ごす為の単なる娯楽だよ。
私やビーシュマの面前で少々のことが起こったとしても、そんなに悪いことにはならないはずだ。
とにかく、あなたがいまさら何を言ったところで、起きることは起きるのです。そもそも、既に王である私が同意し、許可したんですから」

ヴィドゥラは王の愚痴っぽい反論に腹を立てたが、それ以上は何も言っても無駄であった。既に王は決心してしまっていた。

サバーの建築が終わった。
ドゥルヨーダナよりも父ドゥリタラーシュトラの方がむしろ興奮している様子であった。彼はヴィドゥラを呼んだ。
「ヴィドゥラよ。あなたにはカーンダヴァプラスタへ向かってほしい。『我が子』ユディシュティラに伝言を持って行ってほしい。新築したサバーを見に来て数日間私と過ごし、ユディシュティラの大好きなサイコロをして過ごしましょう、と伝えるのです。きっと彼は拒否せずにやってくるでしょう。なるべく早く連れてくるのですよ」

ヴィドゥラは災難を避けることに失敗した。年老いた兄王は断固としていた。沈んだ心のままインドラプラスタへ出発した。

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