マハーバーラタ/2-10.インドラプラスタへの別れ

2-10.インドラプラスタへの別れ

ドゥリタラーシュトラの伝言を託されたヴィドゥラがインドラプラスタへ到着した。
ユディシュティラは大きな愛情をもって迎えた。
「ヴィドゥラ叔父さん、どうかしましたか? いつもとは違って悲しそうに見えます。体調が悪いのですか? それともハスティナープラの誰かに何かあったのですか? ドゥリタラーシュトラ伯父さんは元気にしていますか? どうか話してください」
「いえ、ドゥリタラーシュトラ王も、彼の息子達もみな元気です。私は王に頼まれて伝言を持ってきました。
『我が子、ユディシュティラよ。新築したサバーを見に来て数日間私と過ごし、ユディシュティラの大好きなサイコロをして過ごしましょう』
これが王からの伝言です」
ユディシュティラは今では伯父の伝言に隠された悪意に気付くことができるようになっていた。しかし、その言葉自体には悪意は感じられるのものではなかった。しばらく考え込んだ。

「ヴィドゥラ叔父さん、これは表面的な言葉以上の何かがありますね。私達がハスティナープラへ行って、彼の息子達とサイコロゲームを楽しんで欲しいと言っているのですよね?
それは何か大きな出来事の発端となるような気がします。それが王の目的なのでしょう。ドゥリタラーシュトラの息子達とパーンドゥの息子達の争いの原因になるのではないかと思います。叔父さん、あなたの意見を聞きたいです。私と同じことを考えているのではないですか?」
「そうです。私に元気がないのはその為です。このサイコロゲームで正しくないことが起きるということを知っています。兄を説得しようしましたが、聞いてくれませんでした。そして私を使者としてここに送ったのです」

ユディシュティラは何が起きるかある程度は推測することができた。
「このゲームに参加するのは誰ですか?」
「邪悪な考えを持つドゥルヨーダナの伯父シャクニ、ドゥルヨーダナの三人の弟ヴィヴィンシャティ、プルミットラ、チットラセーナがあなたの対戦相手です」
「最も腕のある者達が選ばれていますね。しかし、私は賭け事に弱い。逆にシャクニはサイコロを振る名人です。
この世界で起きることは全て創造主によって決められていると言います。運命が決められているのであれば、私に何ができるでしょうか。
私は無力です。そして決して年長者の命令には反しないという私の主義を伯父は知っています。
私のこの王国はドゥリタラーシュトラのものではないのだから、彼に従う義務はありません。
父が息子に対して父親らしく振舞うならば息子は従うべきです。しかしこの義父は私に対して父親らしく振舞っていないと思います。私の幸福を望んでいないと思うのです。
彼は私に嫉妬しています。私があちらのホールを見学することに、きっと何の興味も持っていないでしょう。彼の望みはサイコロゲームの方です。残念ながらそれが明らかです。
悪い結果に導かれることを知りながらサイコロの賭け事をするのは嫌です。しかし年長者には従わなければならないのです。
そして賭け事に招待されたなら受けるのがクシャットリヤのルールでもあります。断るのは良くありません。
伯父はそういったこと全てを知っていてあなたを使者に送ったのでしょう。私がどうするか選べるように見えて、実は従うしかないことを彼は知っています。
運命に委ねます。あの嫌われた町ハスティナープラへあなたと共に行きます」

ユディシュティラは弟達とドラウパディー、クンティーと共に暴虐な王の命令に従って、残酷な運命の待つハスティナープラへ向かった。

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