マハーバーラタ/4-16.サミの木

4-16.サミの木

アルジュナは兄弟達の武器が隠してあるサミの木までやってきた。
ウッタラクマーラ王子に言った。
「王子、この木に登ってくれますか? ガーンディーヴァという名の弓があるはずです。私が手に持っている弓も、あなたの弓も、あのカウラヴァ達と戦うには弱すぎるのです。
この木の上にはパーンダヴァ兄弟が残していった武器があります。どうか急いで取ってきてください」

ウッタラクマーラが木に登った。
「ブリハンナラー(アルジュナ)、木の上には死体の包みしか見当たらないよ。私はクシャットリヤだから死体に触れるわけにはいかないんだ」

アルジュナは微笑んだ。
「ええ、あなたが高貴な家柄のクシャットリヤであることは存じ上げています。侮辱しようというのではありません。それは死体ではありません。死体に見せかけた包みで、その中に武器が入っているのです。どうかその包みを木から下ろしてください」

ウッタラクマーラは包みの紐を切って地面に下ろした。
包みを解くと彼の表情には驚きが広がった。
無数の虹が輝き、その栄光は素晴らしいものであった。

彼がアルジュナを見ると、涙を流していた。
なぜアルジュナが息を詰まらせるほどの感情を抱いているのか理解できなかった。
彼自身もその素晴らしい武器の輝きに圧倒されていたが、勇気を振り絞ってアルジュナに話しかけた。
「ブリハンナラー、これはいったい何ですか? 弓なのか? それとも生きた蛇? こちらの矢はまるで太陽か火のごとく輝いている。
こんな武器は見たことがない。なんて美しいんだ。
これらの武器の持ち主が誰なのか教えてくれないか?」

アルジュナは最愛の武器との再会の気持ちを落ち着かせて答え始めた。
「あなたが最初に触れた武器はアルジュナのものでガーンディーヴァと呼ばれる有名な弓です。その比類なき弓を持つ者に絶えることのない名声をもたらすと言われています。
ブラフマージが千年、インドラが五千年、それからチャンドラ、ヴァルナ、アグニへ受け継がれ、カーンダヴァの森でアルジュナに与えられました。
金や青い石で飾られている弓はビーマの弓で、偉大なラージャスーヤで全ての敵を倒しました。
たくさんのルビーが散りばめられている弓はマードリーの息子ナクラの物です。
金とエメラルドが散りばめられている弓はサハデーヴァの物です。
金の鈴が付いてる優雅な弓なパーンダヴァ兄弟の長男ユディシュティラの物です。
そして彼らの矢には全て組み合わせ文字が彫られています。
こちらがアルジュナの矢筒で、ガーンディーヴァと共に彼に与えられた決して空にならない矢筒です。
これがパーンダヴァ兄弟の武器です。彼らは追放の13年目、身を隠して暮らす一年間はここに隠すことにしたのです」

ウッタラクマーラは目を丸くしてしばらく黙り込んだ。
「・・・こんな大切な武器を置いて、パーンダヴァ兄弟はどこへ行ったんだ? カーミャカやドヴァイタヴァナの森で12年間は過ごしたと聞いたが、その後はどこに行ったのか知らないんだ。
どこに行ったのか、何の噂も聞いていない。あなたは知っているのか?」

アルジュナは優しく微笑んだ。
「ウッタラクマーラ王子、よく聞いてください。パーンダヴァ達は全員ヴィラータにいました」
「え!?」
「私がアルジュナです。この一年間はブリハンナラーと名乗っていました。
あなたの父の傍で付き添っているカンカがユディシュティラです。
厨房の責任者ヴァララがビーマです。
馬のお世話をしているダマグランティがナクラです。
牛のお世話をしているタントリパーラがサハデーヴァです。
キーチャカの死の原因となったサイランドリーがドラウパディーです」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんということだ。本当なのか?
確認させてくれ。あなたがアルジュナであるなら、10の名とその名の由来を言ってみてくれ」

「私の10の名は、アルジュナ、パールグナ、ジシュヌ、キーリティ、シュヴェータヴァーハナ、ビーバッツ、ヴィジャヤ、パールタ、サッヴャサーチー、そしてダナンジャヤです。
ラージャスーヤの時に王達を征服して富を集めたのでダナンジャヤと呼ばれます。
敵を打ち負かすまで戦い、必ず勝利して帰ってくるのでヴィジャヤと呼ばれます。
アグニによって白い馬達が与えられたのでシュヴェータヴァーハナと呼ばれます。
我が父インドラによって美しい冠を与えられたのでキーリティと呼ばれます。
決して不公平な手段で戦わないことからビーバッツと呼ばれます。
左右どちらの手でも弓矢を扱えることからサッヴャサーチーと呼ばれます。
肌の色がアルジュナの木に似ていて、汚れを持たないことからアルジュナと呼ばれます。
ウッタラパールグナの星が昇った日に生まれたことでパールグナと呼ばれます。
怒ると恐ろしいのでジシュヌと呼ばれます。
プリターの息子なのでパールタと呼ばれます。
さあ、アルジュナがあなたの牛を守る為にここにいます。私が戦うのを見ていなさい。カウラヴァ達を恐れる必要はありません」

ウッタラクマーラは真実を知り、心の中に恐れが起こり、気を失いかけた。この一年間自分の国でパーンダヴァ達を侮辱してしまっていたことを申し訳なく思った。アルジュナの足元にひれ伏した。
「私はヴィラータ王の息子ウッタラクマーラ。パーンダヴァ達のアジニャータヴァーサ(正体を隠して暮らす)が終わった時に、最初にアルジュナに出会った私は幸運です。
英雄であるあなた達が私の町で召使いのように仕事をさせられていたことを申し訳なく思います。きっと私達は千もの方法であなた達を怒らせたに違いありません。
父や、宮廷の皆に代わってお詫びします。どうかお許しください。どうか私達を守ってください」
涙がとめどなく流れた。

アルジュナはそんな彼を地面から起こして抱擁した。
目の前の少年の涙を拭った。
「私達はヴィラータの国でとても幸せでした。悪く思う必要はありません。私達兄弟は誰も怒っていません。
ですが、今はそのことを話している時間はありません。
さあ、敵軍に向かいましょう。
ウッタラクマーラよ、私の御者を務めてください。
私の手がガーンディーヴァを持って戦いたくてうずうずしています。
今から面白いものを見せてあげます。何も恐れる必要はありませんからね」

「今日から私は決して何にも恐れません。私の恐れはまるで太陽にさらされた雪のように消え去りました」

ウッタラクマーラはアルジュナを戦闘馬車の中に導き、自らは前に座った。
アルジュナはガーンディーヴァに挨拶し、その力強い手で握った。

戦闘馬車は再び敵軍の方へ向きを変えた。

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