マハーバーラタ/4-17.ラーデーヤとアシュヴァッターマーの口論
4-17.ラーデーヤとアシュヴァッターマーの口論
アルジュナは戦闘馬車に掲げられているマツヤ国のライオンの旗を、ハヌマーンの旗に付け替えた。
アルジュナのほら貝デーヴァダッタを吹き鳴らして前線へ急いだ。
ガーンディーヴァの弦を鳴らすと、その音色がカウラヴァ軍の心に恐怖を起こした。
しかし、敵軍の中でドローナはデーヴァダッタとガーンディーヴァの音を聞いてワクワクしていた。むしろアルジュナとの再会を喜んでいるようだった。
「おお! アルジュナだ。
牛を返そうではないか。彼が本気で戦ったなら我々の軍は勝てないだろう。戦っても無駄だ。ハスティナープラへ帰ろう」
ドゥルヨーダナがドローナ先生の目の前に来た。
「先生、そんなことを言わないでください。兵士たちの士気が落ちます。
この遠征の真の目的を知っているでしょう?
牛を奪うことはただの口実で、パーンダヴァ兄弟をおびき出すことが目的です。
今、アルジュナが現れたのです。彼は13年目が終わったと思っているかもしれませんが、おそらくまだ早いはずです。
我が祖父にはっきりさせてもらいましょう。
私達の計画はうまくいっています。
予定通りであれば昨日スシャルマーがヴィラータの南側から攻撃したはずです。もしスシャルマーがヴィラータに負けたのであれば、それはそれで彼を助けるという目的になります。ヴィラータがここに来れば彼も相手にしなければならない。
スシャルマーが勝ったのであれば、ヴィラータに残された人々を守るためにアルジュナが出陣したのですから戦わなければなりません。
いずれにしても戦うしかないのです。
それなのにドローナ先生も祖父ビーシュマも、クリパ先生もアルジュナを見て、ただ戦闘馬車に座っています。
アルジュナがあなたの心に恐怖を与えたのですか?
我が軍の士気を高めて指令を出すべき時です。アルジュナのことを褒めるのはやめてください。どうか私達のことを考えてください」
ラーデーヤが現れた。
「ドローナのおかげでまるで全軍隊が神経質になり、戦う意欲がなくなってしまったようだ。
しかしまあ、問題はない。大したことではない。私がいるのだから。
バールガヴァだろうが、インドラだろうが来るがいい。クリシュナを連れてアルジュナが来たっていいさ。
片手で相手してやる。私の鋭い矢でアルジュナを倒してやる。まるで蛇にように飛び、絶え間ない油の流れのように私の弓から放たれる矢は敵を滅ぼします。
やっとアルジュナと戦えるのです。13年もの間ずっとこの戦いを待っていたのだ。我が夢がやっと叶う時が来た。
私は千本の矢でアルジュナを覆うだろう。彼の血だらけの姿はまるで赤い花に覆われた山のようでしょう。
神聖なガルーダが蛇を捕らえるかのようにアルジュナを捕まえ、我が友ドゥルヨーダナを苦しみから解放します。
アルジュナを恐れる者はこの場から去るか、私の戦いを見ているかどちらかにしてください」
クリパが言った。
「ラーデーヤ。君はいつも戦うことや殺すことばかりを考えているようだ。人は本当に必要な時だけ戦うべきだ。戦うことなく良い結果が得られるなら、なるべく戦いは避けるべきなんだ。
君は片手で勝てると言っているが、そうだろうか?
むしろ片手で勝てるのはアルジュナの方じゃないのか?
カーンダヴァの森での戦いのことは知っているだろう。インドラにでさえ彼は負けなかったんだ。
少し前、ガンダルヴァからドゥルヨーダナを助けたのは誰か知っているだろう。あの時君はどうなっていたか覚えているだろう?
カーラケーヤとニヴァータカヴァチャを殺した偉業のことも知っているはずだ。
アルジュナの偉業を全て語り必要はないだろう。しかし君が愚かな選択をしない為には必要なことを言わなければならない。
君が今しようとしていることは、蛇の口に手を入れて毒牙を抜こうとするようなものだ。アルジュナは檻から飛び出てきたライオンのようなものだ。
綿の塊に落ちた火の粉のように、私達全員があっという間に焼き尽くされてしまうだろう。
しかし、それでも君が戦いたいと言うのならば、一人でアルジュナに立ち向かってはならない。私達が一丸となって立ち向かわなければならないんだ。
ドローナ、ドゥルヨーダナ、ビーシュマ、アシュヴァッターマー、私クリパ、そしてあなたラーデーヤ。この六人が結束しなければアルジュナに対抗できない。
いいですか、自分を過大評価してはならないし、アルジュナを過小評価してもなりません」
ラーデーヤは苛立った。
「なんと、この偉大なクリパ先生がアルジュナを見て怖気づいたようだ。
怖がっている人は戦わなくていいです。アルジュナを殺して我が友ドゥルヨーダナの恩に報いることができるのは私だけだ。
ドゥルヨーダナ王よ。ブラーフマナ達は儀式や食べ物の話だけをしていればいいのだ。戦うことに関しては彼らに相談する必要はない。アルジュナを恐れる者は帰らせてあげましょう。私が戦う」
ずっと話を聞いていたドローナの息子アシュヴァッターマーが怒りを露わにした。
「ラーデーヤ。聞くんだ。ブラーフマナというのは正義の人だ。自分の力を鼻にかけたり、ほらを吹いたりなんてしないんだ。あなたは今、ただの大袈裟なほら吹きに見えるぞ。
火を見てみろ。全世界の為に毎日料理をしているが、火はそのことを語ったりするか?
太陽を見てみろ。他の神々のするどんな仕事よりもたくさんの仕事を一瞬のうちにしている。太陽はそのことを歌ったりするか?
大地を見てみろ。生き物もそうでないものも、いつでも背負って耐えている。大地はその忍耐を認めてほしいと言うか?
行いをする者とは無駄なことは語らず、静かに仕事をするんだ。あなたは口だけだ。
我が友ドゥルヨーダナよ。ブラーフマナはサイコロで王国を勝ち取ったりしない。本当の英雄とはサイコロで騙したり、それで得たものをまるで戦場で勝ち取ったかのように語ったりしない。
あなたは偉大な王だ。しかしあなたはヴァイシャよりも劣っている。
ヴァイシャには騙して高く売る者がいる。だが、クシャットリヤであるあなたはサイコロゲームで敵から全領土を騙し取った。そんなクシャットリヤがどこにいるというんだ?
騙し取った国を楽しむのがそんなに楽しいのかい? あなた自身の不誠実さを自慢しているようなものだ。しかもあなたは自分でサイコロを振ることもなくパーンダヴァ兄弟とドラウパディーを奴隷にした。
あなたがドラウパディーを侮辱した時、あれは明らかにやりすぎだった。彼らの怒りは大きくなり、今アルジュナがあなたに天罰を与える者として現れた。これはあなたの過ちによる結果なんだ。
どうか私の父ドローナと伯父クリパを臆病者だと侮辱しないでくれ。彼らはインドラや天界の軍隊にも立ち向かえる。恐れてなんていない。
偉大な者が偉大だと見えているだけだ。アルジュナは称賛に値し、その技術、高貴な質、精神を語っただけだ。称賛することに問題はない。
あなたはたった一つの過ちをした。それはパーンダヴァ兄弟への嫉妬だ。それによってあなたの高貴な質が破壊されたんだ。
戦いたい人は戦えばいい。
私は戦わない。
もしヴィラータがこの場に来て戦いを始めたなら私は協力する。
だがアルジュナとラーデーヤの戦いにおいては手助けする気はない」
アシュヴァッターマーは弓矢を投げ出し、自分の戦闘馬車の中で静かに座った。