マハーバーラタ/2-7.クリシュナ対シシュパーラ

2-7.クリシュナ対シシュパーラ

ビーシュマはシシュパーラについてビーマに語り始めた。

「シシュパーラは三つの目と四本の腕を持って生まれた。
生まれた怪物に両親が怖がっていると、天界からの声が聞こえてきた。
『その子を殺すことになる者の膝に置かれたとき、その余分な目と腕は無くなるであろう』
シシュパーラの母はヴリシニ一族のヴァスデーヴァの妹シュルタシュラヴァス、つまりクリシュナの叔母にあたる人だ。
彼女は息子の将来を心配し、その子を見に来る全ての人の膝に乗せた。余分な目と腕を落としてくれる者はなかなか現れなかった。
ある日クリシュナとバララーマがその子供を見に来た時、いつもの習慣で彼らの膝に息子を乗せようとした。すると、クリシュナの膝に触れた瞬間、余分な目と腕が無くなった。息子を殺すのは甥のクリシュナであることを知った彼女は深く悲しみ、命を助けてくれるよう頼んだ。
クリシュナはこう答えた。『心配いりません。この子が私に百の侮辱を与えても許します。あなたを傷付けるようなことはしないでしょう』
時が過ぎ、親友のルクミーは妹ルクミニーをシシュパーラに嫁がせたいと思っていたのに、ルクミニーはクリシュナに恋してしまっていた。結婚を予定していた日にクリシュナは彼女を連れ去り、それ以来シシュパーラはずっとクリシュナに対する不満を抱いていた。
クリシュナの称賛は聞くに堪えられず、目の前で名誉を与えられることにも耐えられなかったのだ。
自分より優れた者に対する小心者の嫉妬は理解できるものだ。彼は絶えることのない川の流れのようにクリシュナを侮辱し続けた。クリシュナが許すと約束した百の侮辱はとっくに消費された。
クリシュナが運命通りに彼を罰するのは時間の問題だ。
ビーマよ、急ぐ必要はない」

シシュパーラによる言葉での攻撃は終わり、クリシュナに戦いを挑んだ。
「クリシュナ! 私と戦え! どっちが優れているか世間に見せてやる! 一対一、正々堂々とだ!
かつてお前がしたように花嫁を奪って逃げるようなことはするなよ。女が川で沐浴している時に服を盗むようなことはするんじゃないぞ。
お前が一度でも公正な戦いができるのか見てみたいのだ!」

クリシュナは愛するユディシュティラのラージャスーヤを台無しにしたくなかったので、戦いはしたくなかった。ずっとシシュパーラの侮辱を無視していた。
どんな言葉による侮辱でも冷静であったが、戦いを挑まれてしまったのであれば、受け入れなければならなかった。それはクシャットリヤのルールであった。仕方なくこの自慢屋と戦う準備を始めた。
「この場に集まったたくさんの王達よ。あなた方にこの男が犯した多くの罪を知っていただきたい。
この男はずっとヴリシニ一族から嫌われた敵であった。たとえヴリシニ一族の娘の息子であってもそうでした。
彼がプラグジョーティシャの町へ行った時、ドヴァーラカーの町に火を放ちました。
我が祖父ウッグラセーナが国民たちと共にライヴァタカの丘に逃げた時、彼はさらに襲ってきました。
我が父、つまり彼の伯父が儀式をする時に、彼は邪魔をする目的で生贄の馬を勝手に殺しました。
他人の妻を盗んだのはまさに彼の方です。ヤーダヴァのバッブルヴァーハナの妻が隣国サウヴィラへ旅した時に、彼は誘拐し乱暴したのです。
彼自身とカルーシャの王を喜ばせる為に、バッドラという侍女やドヴァーラカーのたくさんの女性達を連れ去りました。
ジャラーサンダが彼の親友になったのは、彼ら二人がヴリシニ一族を敵視していたからです。
他にも数限りない問題を引き起こしましたが、全て話すには時間も忍耐も足りません。彼はとっくの昔に殺してもよかったのですが、彼の母、つまり私の叔母との約束が私を引き留めていたのです。百の侮辱を許すと約束していたのです。その数を超えても私は我慢していました。そして今、彼は私に戦いを挑んだのです。
この良き日に不愉快なことが起きるのは避けたいのですが、この手に負えない罪人を倒さなければならないのです。クル一族の長老ビーシュマと私に浴びせられた屈辱にもう耐えられません。この世界からこの罪人を退治します」

クリシュナは御者ダールカの運転する馬車に乗り込んだ。
シシュパーラは炎を見る蛾のような真っ赤な目でクリシュナを見た。

戦いが始まった。
その場にいた王達は予期せずに始まってしまった出来事を見守った。
最も不幸であったユディシュティラは、その時いくつかの不吉な兆候を見た。ナーラダの元へ行き、その兆候の意味を教えてもらうよう頼んだ。
ナーラダが教えたのはシシュパーラの死の予告であった。
平和を愛するユディシュティラにとっては、それは気の滅入る予告であった。悲しそうな目で戦いを見続けた。
それとは対照的にビーシュマの目は輝き、微笑みを浮かべて見ていた。まるで若返ったかのように見えた。

戦いは終わりを迎えつつあった。
クリシュナはチャックラをシシュパーラに向かって投げつけた。その時のクリシュナの目には無限の愛が現れていた。
チャックラは太陽のように空間を走り、シシュパーラの頭を体から切り離した。まるで斧で切り倒された巨木のように彼は地面に倒れた。

光がその体から離れた。それは空には向かって昇らず、クリシュナの方へ向かって行った。そして彼の神聖な足の中にその光は消えた。
その場にいた誰もがそれを目撃したが、その意味も、そしてクリシュナの目の中の無限の愛の意味も理解できる者はいなかった。

クリシュナだけが分かっていた。彼の愛する付き人、ジャヤとヴィジャヤへの約束を果たした瞬間であった。彼らにかけられた呪い、人間として三回生まれ変わるという束縛から永遠に自由にしてあげた瞬間だった。
もう一人の付き人、現在のダンタヴァックトラももうすぐ解放してあげようとクリシュナは考えていた。

シシュパーラの死は天変地異を引き起こした。
天からは理由もなく雨が降り注いだ。
地震が起こった。
海はその境界線を越えて大地を脅かした。
リシ達はその恐ろしい災害はシシュパーラの死によって引き起こされたことであり、さらなる恐ろしいことが起きることを理解した。

クリシュナがしたことに怒り出す王達がいた。
パーンダヴァ兄弟の友人達は喜んだ。
全体的には称賛よりも不満の方が多く見られたが、意見を述べるほどの勇気を持つ者は誰もいなかった。

こうして順調に始まったラージャスーヤは悲惨な結末となった。

そして、定められた運命を誰も止めることはできないのだった。

(次へ)


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