マハーバーラタ/3-16.ドゥルヨーダナのゴーシャヤートラー

3-16.ドゥルヨーダナのゴーシャヤートラー

カウラヴァ達はドヴァイタヴァナへ向かった。
先頭にいたのはラーデーヤ、シャクニ、ドゥッシャーサナ、そしてドゥルヨーダナだった。
意気揚々と一行を連れてドヴァイタヴァナの美しい湖に到着し、キャンプをした。

本来の理由である牛の調査はすぐに終わった。
ドゥルヨーダナは牛飼い達に贈り物や富を与えた。
そして仕事を終えたので森に出かけて狩りを楽しんだ。

パーンダヴァ達がドヴァイタヴァナに来ていることをスパイが報告した。
ドゥルヨーダナは妻達を連れてひと泳ぎする為に湖へ向かった。

しかし、そこはガンダルヴァ達によって占領されているという報告が従者によって伝えられた。
ドゥルヨーダナは湖から立ち退くよう伝令を送ったが、ガンダルヴァは従わなかった。ガンダルヴァは伝令を通じて返事をした。
「お前に従う気はないとあなたの愚かな王に伝えなさい。天界の住人がドゥルヨーダナに従うと思っているのか? 命が欲しければここから去るようにと伝えなさい」

ドゥルヨーダナはガンダルヴァの横柄な態度に激怒し、全軍を集めて湖へ向かった。
ガンダルヴァは彼らが進軍してくることを聞き、攻撃の命令を下した。

ドゥルヨーダナの軍は劣勢であったが、ラーデーヤは全くひるまなかった。彼は軍を立て直し、戦い続けた。
ラーデーヤの活躍によって今度はガンダルヴァが劣勢となった。
今度はガンダルヴァのリーダーが戦いに加わり、激しく攻撃した。
ラーデーヤだけがなんとか耐えることができたが、あまりにもガンダルヴァ達が強く、再び劣勢になっていった。

ラーデーヤはついに戦うことができなくなり、戦闘馬車から降りて逃げ出した。その姿を見てカウラヴァ達はパニックに陥った。
それでもドゥルヨーダナは背を向けずに戦い続けた。戦闘馬車を失っても戦い続けた。しかし、最後にはガンダルヴァに捕えられた。髪をつかまれ、腕はロープで縛られた。ガンダルヴァの馬車に乗せられていった。
ドゥッシャーサナや他の弟達も縛り上げられ、連れていかれた。女性達も同じように連れていかれた。

なんとか逃れた従者が助けを求めてユディシュティラのいるアーシュラマにたどり着いた。
「ドゥリタラーシュトラの息子達と妻達が全員ガンダルヴァによって連れ去られてしまいました。どうか助けてください」

それを聞いたビーマが言った。
「なんと素晴らしいことか。当然の報いじゃないか。あいつらを罰してくれる者が他にいたんだな。不正ばかり働く奴らを罰する勇気がある者がこの地上にまだ残っていたんだ。
あいつらは森で放浪する私達を馬鹿にするためにここへ来たんだろう?
他人の不幸を願う者は不幸によって打ちのめされるのさ。良いニュースだ。嬉しいよ」

ユディシュティラはビーマの態度が気に入らなかった。
「ビーマ、私はあなたの言葉に賛成できない。私達の従兄弟の従者が助けを求めてきたのですよ。
確かに私達と彼らの間には意見の相違はある。それでも従兄弟であるという事実は変わらないのだ。敵ではあるが、血のつながった兄弟のようなものなのだ。決して仲良しではないが、第三者の敵に対しては手を組まなければならないのだ。彼ら100人に対しては私達5人です。しかし、共通の敵に対しては100人と5人なのです。
彼らが私達の不幸の原因であることには同意します。間違いなく彼らは罪人だ。私達に富を見せびらかしに来たことも分かっています。
しかし、彼らは今、私達に助けを求めているのです。女性や罪のない人々が攻撃されているのです。我がクル一族の名声が危険にさらされているということなのです。助けに行く準備をしなさい。
アルジュナとナクラ、サハデーヴァを連れて行きなさい。急ぐのです」

ビーマは怒りで目を赤くした。
「兄よ。何を言っているのだ! あいつらが私達に何をしたことを覚えていないのか? あなたが忘れても私は決して忘れない。
あいつらは自分でしたことの報いを受けているだけだ。もっと早く私達の手ですべきだったことを他の誰かが代わりにしてくれているだけじゃないか。
私にはガンダルヴァが私達の幸せを祈る人だと思う。私達の友となるだろう。あんな奴らを助ける為に行けなんて頼まないでくれ」

遠くからドゥルヨーダナ達の助けを求める声が聞こえた。
心優しいユディシュティラは感情を抑えることができなかった。
「ビーマよ。あなたは恥ずかしくないのか? あなたの誓いを他の人がしてしまうのを許すのか? 彼らを助けに急ぎなさい。
クシャットリヤの第一の義務とは、困っている人々を守ることだということを知らないのか? 第三者の手によってドゥルヨーダナに復讐をするなんて考えてはならない。まずは助けるのだ。時が来たら自らの手で誓いを果せばいい。
どうしても行きたくないなら、私が弟達を連れて行く。
あなたが行くか? それとも私が行こうか?」

ビーマは兄の言葉に納得させられた。確かにその通りであった。
自分の役割を他の誰かがしようとしている、それは恥ずべきことだった。
「兄よ、分かった。私がすぐに行って、ドゥルヨーダナ達を解放してくる」
アルジュナが言葉を添えた。
「ガンダルヴァにドゥルヨーダナを解放させてみせましょう。もし彼らがそれを拒否するなら、大地がガンダルヴァ達の血を飲むことになるでしょう」

四人は出発し、囚人を連れて進む兵士たちの方へ向かった。
パーンダヴァ達は彼らに声をかけて囚人を解放するように頼んだが、兵士たちは聞く耳を持っていなかった。ただ囚人を連れていくよう命令されていた。理由すら聞いてもらえなかった。
アルジュナが言った。
「理由すら聞いてもらえないのであれば、これ以上優しく接することはできません。残念ですが、力づくしか選択肢は無いようです」

四人はガンダルヴァ軍に矢を放ち始めた。
激しい戦いが始まった。
ガンダルヴァのリーダーは戦いの状況を見て、最前線で戦い始めた。そして彼らが得意とする空中からの戦いを始めた。上から槌矛や矢を放った。
しかし、アルジュナはこの手の戦いに慣れていた。

ガンダルヴァのリーダーが突然戦いを止めて、アルジュナの前に降りた。
アルジュナが知っているガンダルヴァであった。
彼は天界にいる時に友人となったチットラセーナであった。
二人は愛情深くお互いに抱きしめ合った。
「我が友チットラセーナよ。なぜドゥルヨーダナ達を捕えることになったんだい?」
「長い話になるんだが・・・あなた達が助けようとしているドゥルヨーダナは牛の調査という名目で、あなた達が苦しんでいるのを冷かしに来たんだよ。木の皮や鹿の皮を着ているユディシュティラを、痩せ細っているビーマを、汚らしくしているマードリーの息子達を、笑顔を失ったドラウパディーを見に来たんだ。アルジュナ、天界から帰った君がそんな彼らを見て不幸に落ちているのを見に来たんだ。
あなたの父インドラはドゥルヨーダナ達の狙いを知っていて、私にこう命じたんだ。
『チットラセーナよ。地上へ行き、あのドゥルヨーダナという男と喧嘩して捕えなさい。きっとアルジュナと兄弟達はユディシュティラの命令によって彼を助けに来る。その時にアルジュナに全てを話すのです。パーンダヴァ達によって救出されたという事実はきっとドゥルヨーダナ達の教訓となるだろう』
この囚人達はユディシュティラの所へ連れて行こう。彼の思うようにするといい」

チットラセーナは囚人達をユディシュティラの元へ連れて行った。
ユディシュティラはすぐに彼に言った。
「愛するチットラセーナよ。あなたに感謝します。
彼らを囚人にさせたままにしたなどという汚名は要りません。彼らを自由にします」

チットラセーナは天界へ帰っていった。
ユディシュティラはドゥルヨーダナに言った。
「ドゥルヨーダナ、もうこんな愚かなことはしないでくれ。悪意は決してあなたに幸せを与えないんだ。国に帰りなさい。あなたの幸運を祈ります」
彼の目には優しさと哀れみがあり、憎しみは無かった。

ドゥルヨーダナは究極の恥をかき、うつむいたまま去っていった。

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