マハーバーラタ/3-17.死の覚悟をするドゥルヨーダナ

3-17.死の覚悟をするドゥルヨーダナ

ドゥルヨーダナは生き残った兵を連れてハスティナープラへ引き上げた。
しかし帰り道の途中、彼は軍隊から一人離れた。

彼は人気のない場所をふらふらと歩いた。
何もかもが嫌になっていた。座り込み、時間が分からなくなるほど悲しみに沈んでいた。その表情はまるでラーフが月を覆うかのようであった。

突然後ろから戦いの途中で戦線を離脱していたラーデーヤの声が聞こえた。
「おお、ドゥルヨーダナよ! ガンダルヴァの軍隊に勝利したんですね! こんな場所で再会できるなんて幸運です。
私はあの戦いでガンダルヴァの矢とマーヤーの術に立ち向かうことができず、退却してしまいました。あれ以上何もできなかったが、あなたは勝利して彼らを退却させたのですね。素晴らしい。あなたは素晴らしい王だ」

ドゥルヨーダナは勘違いの褒め言葉を聞くに堪えなかった。涙が彼の目から流れ落ちた。途切れ途切れの声で彼の褒め言葉を止めた。
「違う。あなたは何も知らないのだ。あなたは私が勝利したと思っているようだが、違うのだ。私も、伯父シャクニも、弟達も、誰も彼らを打ち負かしてなんていない。完全に、負けた。
私も、女性達も皆がガンダルヴァの囚人となってしまった。
そこにアルジュナが現れ、敵に勝利したんだ。
あのガンダルヴァはアルジュナの友人チットラセーナでした。
今回の件はインドラの計画通りだったのだ。インドラが私に罰を与える為にガンダルヴァを送ったのだと。
私達が森に来た理由を話しているのを聞いて、あまりにも恥ずかしくなりました。大地が二つに割れて私を飲み込んで欲しいと祈るほどです。
手足を縛られて繋がれている私達の命はユディシュティラに預けられました。
私達があれほどまでの仕打ちをしてきた彼の前に立たされたんだ。
ユディシュティラは敵のリーダーにこんな風に言ったんだ。
『彼らを囚人にさせたままにしたなどという汚名は要りません。彼らを自由にします』
私に向かって微笑んでこう言った。
『ドゥルヨーダナ、もうこんな愚かなことはしないでくれ。悪意は決してあなたに幸せを与えないんだ。国に帰りなさい。あなたの幸運を祈ります』
聞きましたか? ユディシュティラは私達の幸運を祈ったんだ!! もう私は生きていられない。私はこの場で命が体から離れる時まで食べ物と水を断ちます。私は決めたんだ。
あなたは従者達を連れてハスティナープラへ帰りなさい。私はあの町に戻りません。彼らの手の平で踊っていたなどと、どうすれば話せるでしょうか?
私の中にある傲慢さや自惚れ、横柄さがこの結果を生んだのです。
敵の優しさによって救われてしまったこの命、どうやって生きていったらよいのでしょう? この上ない侮辱だった。私はもうこの人生に耐えられない。こうするしかないんだ」

ドゥッシャーサナもその場に現れた。
「ドゥッシャーサナよ、よく聞きなさい。私はこの地で肉体を離れることにしました。あなたが次の王です。ラーデーヤとシャクニの力を借りてこの国を統治するのです。
良き王となりなさい。罰を与える時、慈悲と公正さを組み合わせるのです。叔父ヴィドゥラから学びなさい。彼が一番の先生です」

ドゥルヨーダナはラーデーヤを温かく抱きしめた。
「あなたと一緒にこの王国を分かち合うことを望んできましたが、全て単なる夢だったんだ。これが現実なんだよ」

ドゥッシャーサナが彼の足元にひれ伏した。
目に涙をあふれさせながら両手で兄の両足をつかんだ。
「兄上、ダメです。行ってはなりません。そんな馬鹿げたことをしてはなりません。死ぬ必要なんてありません。一体私に何を頼んでいるのですか?
空が地に落ちようとも、太陽がその軌道を外れようとも、私が王国を統治することはありません。そんなことは起こさせません。
あなたが死んで私が王になる? 何を言っているのですか!
兄よ、私に対するあなたの愛はそんな小さなものですか?
私達兄弟の絆の強さはパーンダヴァ兄弟のものと同じです。私達はあなたを敬愛しています。あなたが全てなのです。
あなたがいなくなったら私達の中の誰が生きていけるというのでしょう。誰も生きていけません。そんなことをしないでください。
どうか落ち着いて、こんな出来事は忘れましょう」
彼は小さな子供のように大声で泣いた。

ラーデーヤが言った。
「ドゥルヨーダナよ。ここで嘆き悲しむ必要はありません。
今日のことは子供じみたいたずらでした。望んだ通りには成功しなかった。それだけです。忘れましょう。
パーンダヴァ兄弟は気高く、困っている人を助けるというクシャットリヤの義務を果たしただけです。すべきことをしたまでです。
これは不幸な出来事でした。考えすぎてはなりません。気をしっかり持つのです。
あなたが先ほど言った極端な行動を実行して私達を傷付けてはなりません。どうかその考えを手放してハスティナープラへ帰りましょう。
偉大なドゥルヨーダナが死んだら私達の誰が生きるというのでしょう? 生きる価値なんてありません。
どうか王国に帰って、公平さと愛情をもって統治してください。あなた無しでは生きられないのです。
あなたが帰らないなら、私も帰りません。あなたが生きないのなら、私も生きません。私だけ長く生きるなんて一瞬たりともできません」

しばらくしてシャクニもそこにやってきた。
面白げに微笑んでドゥルヨーダナを見た。
「二人の話を聞いたね。今日起きたあんなつまらぬことを重要だと思うのは良くない。自殺なんてクシャットリヤにふさわしくない。私がせっかくあなたの為に勝ち取った富も王国も捨てるというのかい? そんな嘆きは男らしくない。
立派な従兄弟達にアダルマをしてきたと分かったなら、もっと高貴な行いで彼らに報いてあげることもできるじゃないか。
あなたは称賛を失ったと言うが、クンティーの息子達に王国を返還すれば、すぐにまた称賛を得られるんだよ。
そうすれば全世界にあなたの偉大さへの称賛が鳴り響くでしょう。パーンダヴァ兄弟と仲良くすればいいじゃないか。ユディシュティラだってあなたを兄弟のように扱ったんだろう? 同じようにしなさいよ。少なくともそれは価値ある行いだ。
それをせずに、叱られて拗ねている子供みたいに振舞っているように見えるよ。そんなことは止めなさい。
生きていれば、敵を倒すことができるんだ。生きてさえいればね。馬鹿げた考えは捨てなさい」

ドゥルヨーダナは誰の説得にも応じなかった。
彼らをその場から離れさせ、一人になった。
クシャの葉を地面に敷き、その上で瞑想を始めた。
たった一人で一晩瞑想した。
次第にトランス状態になった。
彼の中の悪魔が話しかけた。
「もう懺悔の時間は終わった。お前はこの世界を支配することになるのだ。なぜ死ぬなどと考える? お前にはラーデーヤ、ドゥッシャーサナ、ビーシュマ、ドローナ、そしてアシュヴァッターマーが付いていて、お前の為に戦ってくれるのだ。こんなにたくさんの友がいるのだ。
なぜパーンダヴァ達の高貴さを恐れる? お前なら簡単に彼らを全員殺すことができるじゃないか」

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