マハーバーラタ/4-3.ヴィラータへ潜入する弟達

4-3.ヴィラータへ潜入する弟達

それから数日後、ビーマが王宮へ向かった。
手に鍋用のお玉を持って歩くその大男に誰もが驚いた。彼は真っすぐ静かに王宮に向かっただけだったが、周りにいた者が彼を避けていた。

ヴィラータ王は彼のその風貌を気に入った。
ビーマが玉座に近づいて言った。
「マツヤ国王ヴィラータに神の祝福があらんことを。私が名はヴァララ。あなたの気高い性格と思いやりの評判を聞いてここに来ました。私を推薦する者がここにいないので自らを紹介させていただく。私は腕の立つ料理人で、千もの違う味付けの料理を作ることができます。あなたの傍にお仕えすることを願っております」
「いや、待て。お前は料理人にしては体格が良すぎる。まるで王子が変装しているかのようだ。象や馬車に乗って軍隊を指揮するほうがお似合いのように見える。料理人には見えない」
「ははは。その通りです。王様。よくぞ見抜きました! 私はプロの料理人ではなく、レスリングが専門です。私に匹敵するレスラーはこの世界にはいません。料理は単なる趣味です。そして趣味であるからこそ、大きな喜びなのです。
訓練場の世話を任せてくれるなら、この国の若者を鍛えてあげましょう。そして厨房で料理もできます」
「分かった分かった。これからこの国で過ごすといい。厨房の責任者に命じるので、知っている料理を全て教えてあげてくれ。訓練場の責任者にも命じる。あなたのような人材に出会えて光栄だ」
「さっそく仕事にかかりましょう」

次にアルジュナがやってきた。
伸ばした髪で肩を覆い、サンゴや真珠のネックレスを首にかけ、赤いシルクの服を身にまとっていた。
「私の名前はブリハンナラー、踊り子をしています。踊りのほかにもたくさんの芸があります。髪飾りの花輪を作るのが上手だとよく褒められます。
踊りや音楽をガンダルヴァから学びました。それをあなたのお嬢様にお伝えしとうございます」
「それはいいですね。話し方にも気品がある。
ですが、あなたの外見を見ると、その腕や胸は戦士のもの、特に弓使いのようにも見えます。半分男性で、半分女性ということだね。それでも構わない。あなたが気に入った。どうぞここに留まりなさい。それにしてもあなたは素晴らしい。単なる踊り子ではなく、王の方がふさわしいようにも感じてしまう。これからあなたは私の息子のようなものです。この国を自由に扱ってよいです」
「いえ、王様。そのようなもったいないお言葉。私が鳴らすことができる糸はヴィーナだけです。私は踊ることしかできません。どうかウッタラー姫の先生にしてください」
「分かった、あなたの望みとあればそうするがいい。ここに住みなさい」

ヴィラータ王は娘のウッタラーを呼んだ。
「ウッタラーよ。彼女が新たなお供だ。彼女から踊りや歌を学びなさい。彼女は高貴な生まれの方のようです。敬意を持って彼女と接するのだ。早速あなたの所へ案内しなさい」
アルジュナは根っからのチャーミングな資質を持つ娘の先生になれて幸せだった。ウッタラーの他のお供達もまた、アルジュナから踊りを習い始めた。アルジュナは予想以上にアジニャータヴァーサを楽しんだ。

ある日、ヴィラータ王が厩舎を見て回っている時、馬に愛情の眼差しを向けている黒くてハンサムな男性を見かけた。王は心の中で考えた。
「こんなハンサムな男は見たことがない。私すら魅了されてしまう。そして馬を愛し、まるで馬のことを全て理解しているかのような接し方だ」
王が彼を呼ぼうと決意したまさにその時、彼の方から近づいてきて、お辞儀をした。
「私の名はダマグランティ、馬のお世話をするプロです。ここにいる馬達のお世話をさせていただきたい」
「ええ、あなたの馬に対する愛が深いことが分かります。どうぞここにいる馬達のお世話をしてあげてください。
しかし、あなたの身なりを見ると、馬のお世話をするような服で身を包んでいますが、どこかそうではない気品を感じます。あなたは下働きをしてきたようには見えません。それどころか誰かに命令する方が適しているように見えます。どうしてここで働きたいと思ったのですか?」
「・・・・」
ナクラは微笑んで何も答えなかった。
「いいでしょう。あなたは馬達のお世話をしたいという気持ちがあるならそれで充分です。あなたをこの馬小屋の責任者に任命します」
ナクラはそれ以上の質問を受けなかったので安心した。
「私の技術全てを使って最善を尽くし、あなたを喜ばせましょう」

五兄弟の最後はサハデーヴァだった。
牛飼いの服を着て、手には牛を扱う棒を持っていた。まるでゴークラにいたときのクリシュナと同じくらい魅力的に見えた。
「私の名はタントリパーラ。どうか牛の責任者にしてください。あなたの富である牛をお守りいたします。私は牛の専門家で、どんな病気でも治してみせましょう。
私が乳搾りをすれば、牛はもっとミルクを出します。牛達は美しく健康でいられます」
「あなたはこのつまらない仕事をするにはふさわしくない人に見えます。しかし、私はこれまで私に願いことをする人に対して『いいえ』と言ったことはありません。あなたをこのヴィラータに歓迎しましょう。我が王国の富である牛達をお世話してくれる人に出会えて、私は幸運です」

こうして五兄弟はヴィラータの元に潜入し、それぞれの役割を果たしながら一年間を過ごすことにした。

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