マハーバーラタ/2-17.パーンダヴァ達の追放

2-17.パーンダヴァ達の追放

パーンダヴァ達はハスティナープラへ引き返した。
同じ集会ホール、同じサイコロ、同じシャクニの笑み、全てが同じだった。
ただし、ユディシュティラの心の中には悲しみが既に広がっていた。
そして怒りを表現することなく、運命に抵抗することなく、同じ席に座った。
シャクニは勝者と敗者にもたらされる結果を説明した。
「このサイコロの一投で決まる。勝者はクル全土の王となり、敗者は12年間森に住む。そして次の13年目は一年間変装し、身を隠して暮らす。もしその一年間の中で発見されたならさらに12年間森での生活を繰り返す」

ユディシュティラは頭を下げ、沈黙の同意をした。誰もがそのゲームを止めようとした。しかし、ユディシュティラは耳を傾けず、表情は風のない湖の表面のように穏やかだった。
シャクニがサイコロを握り、振られたサイコロが床に転がった。
「勝った!」
同じシャクニの声。

パーンダヴァ達は自ら追放される準備を整えた。
木の皮や鹿の皮でできた衣服を身にまとった。

ドゥッシャーサナや他の弟達が彼らをあざけった。特にビーマに向けられていた。
彼の怒りは沸点に達した。
その姿を見てさらにからかった。
「まるで雄牛だ。ビーマカウ(牛)だ!」
ビーマの怒りが爆発した。
「お前らのずる賢い伯父が、お前らの為に王国をだまし取っただけだ! ずっと奪ったままでいられると思うなよ!
待っていろよ、戦争が起こるその日を待っていろ! この100人の息子達全員を殺してやる! ドゥッシャーサナの血を飲んでやるからな。あいつの心臓を引き裂く時、お前らはこの誓いを思い出すだろう。この誓いは必ず実行するからな。この誓いが現実となるのは14年後だ!」
ビーマは兄弟と共にまるでライオンのように大股歩きで出ていった。

ユディシュティラは長老達に一人一人別れを告げた。誰も答えなかった。誰も彼に声をかけることができなかった。
ヴィドゥラが言った。
「神があなたを守ります。あなた達の全ての誓いが叶う手助けをしてくれるでしょう。ドゥリタラーシュトラの息子達は既に破滅の運命を進んでいます。
ユディシュティラ、時を待つのです。必ずあなたにとって良い時期がもう一度やってきます。
あなたの母クンティーはここに残して行きなさい。彼女は森で過ごすのはふさわしくない。私がお世話をします。彼女を母のように大事にしますから安心して行きなさい。また会いましょう」
ユディシュティラは彼の気遣いに感謝した。
最後にビーシュマの前で敬意を表し、出発の準備を終えた。

町は悲しみに沈んだ。
パーンダヴァ達が道を歩いて出ていく姿を皆が見ていた。

ドラウパディーは涙を拭い、目を赤くしたまま歩いた。彼女は髪を結わず、その長い髪が顔や肩を覆っていた。

母クンティーが息子達と別れた。心が引き裂かれるような場面であった。
昨日までは王家の服装をしていた彼女の息子達が、今は木の皮や鹿の皮で覆われていた。宝石も身に着けていなかった。
そして、ドラウパディーの姿に心を引き裂かれた。彼女を胸に抱き寄せた。
「我が娘、ドラウパディーよ。あなたは本当に良い女性です。このような結果を招いた息子達に、どうか思いやりを持って接してください。あなたが思いやりを失ったなら、私の息子達はカウラヴァ一族もろともあなたの怒りの形相で焼かれてしまうでしょう。あなたが彼らを愛してくれたから彼らは生きていられます。あなたに祝福がありますように。どうか彼らの夜明けの日まで、一緒に待ってあげてください。
あなたに私のお気に入りの息子サハデーヴァを任せます。どうか彼の良き母であってください」
「分かりました。そうします」

クンティーは去っていく息子達の後を追った。
とてもつらい別れであった。彼女の口からは大きな悲嘆の声が溢れた。誰も慰めることのできない深い悲しみで崩れ落ちた。
ヴィドゥラが彼女を連れて帰った。

パーンダヴァ達はこの忌まわしい町から離れる為に、足早に歩いた。

ドゥリタラーシュトラは一人で寝室に籠っていた。
だが、一人になるのが怖くなり、ヴィドゥラを呼んだ。
「おお、ヴィドゥラ、来てくれたか。何が起きているんだ? 怖い、私は怖い。パーンダヴァ達が去る時に何か言っていたのではないのか? 教えてくれ」
「ハスティナープラの町の人々は皆パーンダヴァ達を共に森へ行きたがりましたが、ユディシュティラは目に涙を浮かべながら帰るように諭しました。まるでラーマがアヨーデャから去った時のようでした。
人々が泣いているのが見えました。ある者は上着で、ある者は腕で、ある者は手の平で、皆が涙を拭っていました。彼らが去っていくのを目で追っても、その涙のせいで見えなくなっていました。
ユディシュティラは上着で顔を覆って歩いていました。
ビーマは力強い自分の手をずっと見ながら歩いていました。
アルジュナは砂をあちこちに蹴散らしながら歩いていました。
サハデーヴァの顔はすすで黒くなっていました。
ナクラは埃と灰で覆われていました。
ドラウパディーは香水がつけられた長い髪で美しい顔を覆っていました。
ずっと泣いていました。
彼らのグル、ダウミャはその後に続き、南側のクシャの葉を引き抜き、ルッドラとヤマを称えるサーマヴェーダの詩を唱えていました」

ドゥリタラーシュトラは彼らの行動の意味を尋ねた。
「はい、もちろん意味があります。
あなたやあなたの息子はダルマを忘れるかもしれませんが、ユディシュティラは決して忘れません。そして彼は良い人です。
彼の怒りの目を町に向けたら終わりです。町全体が燃えて灰になることを知っているのです。ですから怒りの形相を自ら隠し、町を救ったのです。
ビーマが歩きながら手を見ていたのは、あなたの息子への復讐心を忘れないように願を掛けているのです。
アルジュナが砂を蹴散らしたのは、砂の雨を降らせ続けたのです。それはクル一族全てを滅ぼす為に矢の雨をまき散らすことを決心していることを暗示しています。
サハデーヴァは顔を誰にも見られないように黒く塗ったのです。
ナクラは五人の中で最もハンサムなので、町の女性達が彼を欲望の目で見て間違った考えを起こさないように埃や灰でみすぼらしくしているのです。
ドラウパディーが髪を束ねずに顔にかぶせていたのは、これから13年経ったらカウラヴァの全ての女性達が夫や息子達の葬儀を行う為に、このような姿で通りを歩くことになるであろうということを暗示しています。
ダウミャがクシャの葉を摘んだり、ヤマとルッドラを称えるサーマヴェーダを唱えたりしていたのは、あなたの息子達の葬儀が間近に迫っていることを示しています。
パーンダヴァ兄弟は口数が少ない男達ですが、有言実行です。口にしたことは全て実行するでしょう。
天界からも見えるこの邪悪な予兆は、まさにたった一つのこと、『破壊』をはっきりと示しています」

ヴィドゥラは怒りと嫌悪に満ちてその部屋から去ろうと振り返った時、ナーラダが彼らの前に現れた。
「ドゥリタラーシュトラよ。14年後、カウラヴァ一族は滅びることになる。あなたとあなたの息子達が生み出したアダルマの果実を自ら刈り取ることになるだろう。
その時までは、その嘘で得た富や王国を楽しむことができる。しかし、そんな心の平安はみせかけでしかないことを片時も忘れてはならない。よいか、あなたの息子達は皆、滅びるのだ」
ナーラダはそんな予言を残し、恐怖に震える王の元を去った。

王はヴィドゥラの解説と、ナーラダの予言を聞いて深い悲しみに沈んだ。
王の御者であり、腹心でもあるサンジャヤが部屋にやってきた。
「王よ。あなたは自らの為に上手に全世界を手に入れました。パーンドゥの息子達が持っていたものを全て自分の物としました。それなのになぜそんなに落ち込んでいるのですか?」

ドゥリタラーシュトラはサンジャヤに先ほどの出来事を伝えた。
「王よ。あなたは少しもかわいそうではないと思います。あなたの集会ホールでの振る舞いは最も許されないものでした。
あなたは息子達よりももっと悪いです。私はあなたを見ていました。ヴィドゥラの言葉に全く耳を貸そうとしませんでした。
あなたはこれまでのひどい行動の果実を刈り取っているだけです。パーンダヴァ兄弟が戻ってあなたの息子達を滅ぼす日々を心配する人生を送るのですよ」

その日以降、王に平和が訪れることはなかった。いつでも心配が彼を蝕むのであった。

第2章(サバーの章)終わり。

(次へ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?