マハーバーラタ/4-1.13年目の計画

4.ヴィラータの章

4-1.13年目の計画

第一章(始まりの章)あらすじはこちら
第二章(サバーの章)あらすじはこちら
第三章(森の章)あらすじはこちら

ユディシュティラは周りにいた者達を集めた。
「さて、ここにいる皆さんのおかげで私達はこの12年間を耐えることができました。そしてご存じの通り、これからの一年間は身を隠して過ごさなければなりません。私達は変装して身を隠しますので、誰も私達の行き先を知るべきではありません。皆様とお別れするのは残念ですが、これからの一年間をやり過ごし、再び私が王となった時にはずっと皆さんと一緒に暮らせることを望んでいます」
悲しみでそれ以上言葉を発することができなかった。

ダウミャが言った。
「ユディシュティラよ、皆分かっています。あなたの言う通り、これは一時の別れです。大丈夫です。
皆さん、一年です。彼らがこれからの一年に耐えることができれば、まるで黒い雲の向こうから現れる太陽のようにユディシュティラが世界に現れて光り輝きます」

森の住人達に別れを告げたパーンダヴァ兄弟はドラウパディーとダウミャを連れて去っていった。
人の気配のない場所を見つけて彼らはこれからの計画を考え始めた。
ユディシュティラが言った。
「これから住む場所は慎重に選ばなけば。皆の意見を聞きたい。ドゥルヨーダナのスパイの目が届かない場所としてどこがふさわしいと思う?」

アルジュナが言った。
「そうですね。候補となる場所がたくさんあります。パーンチャーラ、マツヤ、サールヴァ、ヴィデーハ、ドヴァーラカー、カリンガ、マガダといった国は良い場所でしょう。その中でも、現在の王の名でヴィラータとも呼ばれるマツヤは絵に描いたような美しさだと聞いたことがあります。この中から選んでみてはどうでしょう? いずれにしても、町の中にいる方が気付かれにくいと思います」

他の皆の意見も聞いて、ユディシュティラは言った。
「私はパーンチャーラもしくはドヴァーラカーに行きたいが、義父ドゥルパダの治める国や母クンティーの祖国ですから、真っ先にスパイが入っているだろう。全てを考慮するとヴィラータが最も適しているように思う。ヴィラータ王は気高く、寛大な心を持つ善良な人だと聞いている。
さて、私達はどんな役割を演じることにしようか? それも決めておこう」

パーンダヴァ達はヴィラータでそれぞれがどのように変装し、どんな役で隠れ住むかを議論し始めた。
アルジュナが突然涙を流した。
「兄上、あなたはこの地上の統括者となる人です。そのあなたが誰かの元で働いている姿を見ることなどできません」
「アルジュナよ。大丈夫だ。悲しまなくてよい。誰かが私を侮辱するようなことはさせない。私は王の家来ではなく、付き人になることを決めた。
これから私はカンカと名乗り、トゥラシーと水晶のマーラーを身に着け、この世界での願望を手放した人のふりをします。王に対してはヴェーダやヴェーダーンタの知識を深く理解していると伝えます。さいころの達人であることも伝えましょう」
この時、ユディシュティラの顔がいたずらっぽい笑顔で輝いたが、ビーマが自分を見ていることに気づくと、顔を真っ赤にして下を向いた。
「そして、王にいつも同行します。そうして12ヶ月間を楽しむことができるでしょう」

ユディシュティラは弟達の計画を尋ね始めた。
「さて、愛しいビーマよ。その強さと怒りをどうやって隠すつもりだい? ドラウパディーにあげる数本の花の為にラークシャサの軍隊を滅ぼしてしまうあなたのことですから、ちょっとした挑発であなたのその目は赤く染まってしまう。12ヶ月もの間、誰かの命令に従っておとなしくしているなんてできるのかい?」
「ふふふ、兄上、大丈夫だ。もう役割は決めてある。それは王宮の料理人だ。料理を食べるのも好きだが、作るのも趣味だ。王宮のキッチンの担当者として雇ってもらおうと思う。そしてレスリングの達人であることも伝え、若者達を鍛えてやるんだ。王もきっと喜ぶでしょう。
私はヴァララと名乗り、以前はユディシュティラ王の下で働いていたが、彼が追放されてしまったので働き場所を探していると言うことにしよう。ヴィラータ王がユディシュティラ王のように素晴らしい人だと聞いたのでここに来たと言おう」

「では、愛しいアルジュナよ。あなたの計画はどうだい? その勇敢さを隠して従順な召使いのように振舞えるのか心配です。私のせいでこんな困難を味わわせるのはとても申し訳ないのだが」
「ユディシュティラ兄さん、それはもうずいぶん前に決まっているんだ。インドラの所に行った時にウルヴァシーから呪いを受けたのは覚えていますか? 今から一年間私の体は男ではなくなります。父インドラがそのように呪いの発動期間を変えてくれました。
私が弓を使うときに両利きである為に、両肩に傷があることで知られていますが、髪をほどき、女性の服装をすることで肩や胸を隠すことができます。
私は歌やダンス、楽器が得意です。王宮の女性達の先生にしてもらうよう伝えます。男性の体ではないので女性の宮殿に入っても問題ありません。私の名はブリハンナラーです、わよ」

「ハンサムな弟ナクラよ。あなたはその美しさと誇り高さをどうやって隠す計画だい? あなたはとても繊細だ。召使いの生活には耐えられるだろうか?」
「私は馬の調教が得意なので、王の馬の管理人として入りましょう。動物たちを上手になだめる力を披露すれば私の言葉を聞いてくれるでしょう。私はダマグランティと名乗ります」

「賢者サハデーヴァよ。ブリハスパティよりも、シュクラよりも優れた賢さを持つあなたが知らないことなど無いでしょう。我が母のお気に入りの息子であるあなたが普通の者の下で働くなどとできるでしょうか?」
「兄よ。私は子供ではありません。兄達と同じように上手に取り入ってみせます。私は牛の知識を披露しましょう。ヴィラータ王の持つ富で有名なのが牛です。私は最も良質なミルクを絞ることができます。私はタントリパーラと名乗ります」

「ドラウパディー、私達兄弟全員の命よりも愛しいあなたをこんな目に遭わせて申し訳ない。すでに十分苦しんできたのも知っています。とても優しく繊細なあなたがどうやってこの一年を過ごすか計画はありますか?」
「旦那様。大丈夫ですよ。私もあなたと共にこの一年に耐えてみせましょう。皆が努力をするというのですから、私だって努力をしますよ。安心してください。
私はサイランドリーと名乗り、ヴィラータ王の王妃スデーシュナーの所へ行きます。私のたくさんの技術を彼女に披露します。
他の誰にも調合できない香り、着付け、100もの髪の結い方、どんな形や大きさの花でも糸を通して美しい花輪にする技術など、きっと王妃は気に入ってくれると思います。私なら大丈夫です。さあヴィラータへ行きましょう」

パーンダヴァ達は新たな冒険に向けて出発した。
ドヴァイタヴァナを離れ、カーミャカに向かい、ヤムナー河の南側に沿って歩いた。たくさんの美しい森と庭園を通り過ぎ、マツヤ王国の国境にたどり着いた。
ここでダウミャと別れることにした。ユディシュティラは言った。
「ダウミャよ。ここまで一緒に来てくれてありがとうございます。
あなたはパーンチャーラへ行き、ドゥルパダ王の所で過ごしてください。くれぐれも私達がこれから行く場所や計画について誰にも話さないでください。ドゥルパダ王に対しては、正体を隠して暮らす日々アジニャータヴァーサに入ったことと、ドヴァイタヴァナを離れたということまでなら伝えてもよいです」
「分かりました」
そう言ってダウミャはパーンダヴァ達を祝福し、パーンチャーラへ向かった。

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