マハーバーラタ/1-14.王都ハスティナープラへ

1-14.王都ハスティナープラへ

クンティーとパーンドゥの五人の息子達はシャタシュリンガのリシ達と共にハスティナープラに到着した。
ビーシュマ、ドゥリタラーシュトラ、シャンタヌの弟バールヒーカとその息子ソーマダッタ、ヴィドゥラ、サッテャヴァティー、ガーンダーリー、アンビカーアンバーリカーその他の者達がその知らせを聞いて、街の入り口で彼らを出迎えた。
パーンドゥの息子達はその美しさと気品で光り輝き、周囲の目を惹きつけていた。
リシ達がクル一族の王達に話した。
「俗世の快楽を放棄した偉大なクルの王子パーンドゥは17日前に先祖達の元へ旅立ちました。そして妻マードリーも火葬の薪の上で彼に付き添い、共に旅立ちました。
ここにいる若者ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナはそれぞれダルマ神、ヴァーユ神、インドラ神から命を授かったクンティーの息子達です。クンティーの横に立っている少年ナクラ、サハデーヴァはアシュヴィニ双神から命を授かったマードリーの息子達です。
ユディシュティラが15歳になった時にパーンドゥは彼らの為に全ての宗教的な儀式を執り行いました。
クル一族の未来の希望となる若者達とその母をここに連れてきました。ビーシュマ、ドゥリタラーシュトラよ。あなた達は父親を亡くした彼らの後見人となるべきです」
ビーシュマは甥パーンドゥに二度と会えないという悲しみで言葉が出なかった。ドゥリタラーシュトラもまた、弟であり仲間であったパーンドゥを失ったことを嘆いた。弟の愛情と優しさのおかげで自らの盲目を忘れさせてくれた少年時代の思い出が涙となって、彼の息を詰まらせた。
パーンドゥの母、アンバーリカーは気を失った。誰も彼女の悲しみを慰めることはできなかった。
町全体が悲しみに沈んだ。

ドゥリタラーシュトラは、亡くなった弟に相応しい立派な追悼の儀式を準備するように弟ヴィドゥラに伝えた。儀式を執り行う為にヴャーサが呼ばれた。

儀式を終えるとヴャーサは母サッテャヴァティーの所へやってきた。
「お母様、幸せな日々は終わりを告げました。これからクル一族にはひどく恐ろしい日々が待ち構えています。世界は青春の日々を終えたのです。
これからあなたの愛しい孫ドゥリタラーシュトラとその息子が原因となって絶滅に他ならないことが起こります。あなたの曾孫達が大戦争によって滅ぼし合うのを見ていられるほど強い心をあなたは持っていません。世界から離れて森へ隠退すべきです」
「分かりました。そうしましょう」
サッテャヴァティーはそう答え、アンビカーとアンバーリカーに同行するかどうか尋ねた。彼女達は痛々しい思い出のこの恐ろしい町から離れることを望んだ。
サッテャヴァティーがシャンタヌと過ごした幸せな数年間はビーシュマの不幸の上に作られていたものであったので本当の意味では幸せではなかった。夫の死、二人の息子の死、ドゥリタラーシュトラ、パーンドゥ、ヴィドゥラの誕生での失望。
そして偉大なクル一族に待ち構えているというヴャーサの口から発せられた絶望以外の何物でもない恐ろしい予言。彼女は休息を提案した自分の息子に感謝した。
アンビカーとアンバーリカーは、自分達に幸せを決して与えてくれなかったその町から逃げ出すことをただただ喜んでいた。ビーシュマによって無理やり連れてこられた瞬間からずっと義母によるゲームの人質であった。
自分達はヴィチットラヴィールヤと結婚させられ、愛する姉アンバーの悲劇の物語が続いた。その痛みから立ち直ることは全くできなかった。夫となったヴィチットラヴィールヤは彼女達と幸せな数年間を過ごしたが、悲劇的な死を迎え、彼女達は孤独な日々を迎えることとなった。
この日々は義母の命令によって中断された。彼女達は一族の名前を守る為に息子を産まなければならなかった。ヴャーサが呼ばれた時に恐ろしい体験をした。
生まれてきた子供達は大きな熱望を抱いていた義母に大きな絶望を与えた。
いまだにサッテャヴァティーの手の中にあるおもちゃであった彼女達は森へ行くことに同意した。アンバーリカーは息子が死んだ時、まさに死にそうであった。
森が約束する平安に対して彼女達は感謝した。ただただ忘れることを願っていた。

サッテャヴァティー、アンビカー、アンバーリカーの三人は自ら森に出発する直前に王家の皆に別れの挨拶した。
ビーシュマが義母サッテャヴァティーに話しかけた。
「なぜですか? お義母様、どうして私を置いていくのですか? ここに残って、悲しみの重荷を耐える私を助けていただけないのですか?」
「ビーシュマよ、私はもうここに留まりません。ヴャーサはクル一族の絶滅に他ならないことが起きると私に伝えました。私は自分を勇敢な女性だと思っていましたが、違うのです。私はクル一族の破壊をこの目で見ることはできません。私は森へ逃げます。私の決意は固いのです」
「絶滅!? その予言について教えてください」
サッテャヴァティーはヴャーサの予言を彼に伝えた。ビーシュマの顔は苦痛で歪み、真っ青になった。
「私も喜んで臆病者を装いましょう。我が父シャンタヌは私にある恩恵を与えてくれました。私が望む時に私は死ぬことができると、父は言っていました。私は死を呼び起こし、我が母ガンガーの腕の中に帰りたいです」
「なりません。そうすべきではありません。私があなたを呼び出した理由は、あなたの手にこの若者達を任せて去る為です。クル一族がこの世界でしっかりと確立するかどうかはあなた次第なのです。この義務が終わるまであなたのこの世界からの隠退を夢見てはなりません。かつてあなたは、私の為にしてほしいと命じた時に拒否しました。今回はできません。この子供達を守ることをあなたに命じます」
ビーシュマは頭を下げ、無言の同意をした。
こうして彼らは別れた。
ビーシュマはその押しつぶされそうなほどの重荷から解放されるにふさわしいと運命が認めるまでその重荷を背負うこととなった。

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