マハーバーラタ/1-15.ドゥルヨーダナの嫉妬

1-15.ドゥルヨーダナの嫉妬

パーンドゥの五人の息子達が宮廷にやってきてから、しばらくの間はドゥリタラーシュトラの息子達と共に一緒に楽しく遊んでいた。ビーシュマも宮廷に満たされる少年達の遊ぶ声を聞いて幸せであった。
しかし、ドゥルヨーダナの心には悪意が芽生え始めていた。

パーンダヴァの次男ビーマはいつも元気いっぱいで子供達の中で最も力強く、父を超えるほどであった。どんな種類の遊びでも彼が勝ってばかりだった。他の子供達が木に登っている時に、ビーマはその根元を揺さぶって、まるで木の実を落とすかのように彼らを振り落とすことが一番のお気に入りのゲームであった。そんな荒々しいいじめをするビーマに対して、他の子供達は腹を立てていたが、力で太刀打ちできない相手にはどうしようもなかった。

微笑みながら敗北や屈辱を受けることは、年を取るにつれて手に入れることになるみせかけの振る舞いである。それは若い時には全くないものである。
打ち負かされた子供は叫び、勝者に対して激怒するものである。『これは冗談なんだ』という言葉で済ますことは子供の自然な反応ではない。年を取ることによってのみ態度を成長させ、それを育むのである。

従兄弟達全員に対するビーマの幼稚ないじめは、少年ドゥルヨーダナの心に怒りと憎悪、嫉妬を満たすことになった。彼はそれまでは甘やかされて育ち、宮廷全体が彼の為にあり、ビーシュマの愛情を独り占めしていたが、この五人の侵入者が来てからというものの、特にビーマが彼の嫉妬の最大の矛先となっていった。『あんな奴、死ねばいいのに!』そう思っていた。

普通の子供であれば、成長することでいつしか解決していくが、ドゥルヨーダナはそうではなかった。彼の父ドゥリタラーシュトラは利己的で貪欲であり、彼もその性質を受け継いでいた。しかも彼は両親ともに盲目であったために、目を見て愛されたことがなかった。
彼はどうすればあの五兄弟を貶めることができて、自らが王として安泰となるかいつも考えていた。

ドゥルヨーダナの伯父であり、邪悪な助言者であるシャクニが彼の心に入り込んだのがまさにこの時であった。彼はドゥルヨーダナの心の中にある憎しみの閃光が全てを焼き尽くす大きな炎となるまで煽った。
この若き王子の心の中にはパーンダヴァ兄弟に対する憎しみ、とりわけビーマに対する憎しみ以外に何の感情もなかった。眠りは彼の目から去ってしまっていた。
シャクニとドゥルヨーダナはビーマを殺す計画を企てた。

ある日、少年達はガンジス河の岸でいろんなゲームをして過ごしていた。ドゥルヨーダナはお腹を空かせたビーマをテントに入れて食べ物をたくさんあげた。ビーマは単純でずるさがなく、決して他人の行為の裏の意図を見通すことができなかった。ドゥルヨーダナはカーラクータという死に至る毒をお菓子の中に混ぜて食べさせた。疲れ切っていたビーマは横になり、深い眠りに落ちた。眠っている彼の体をツタで縛り上げ、ガンジス河の中でも猛毒の蛇がたくさんいるという場所に投げ落とした。

そろそろ家に帰ろうかという頃になり、ユディシュティラはビーマを探したがどこにも見当たらなかった。きっと先に帰ったのだろうと考え、他の弟達と一緒に帰った。
ユディシュティラは母クンティーに話した。
「お母様、ビーマは帰ってきてますよね?」
「え!? 帰ってきてないわよ」
ユディシュティラは血相を変えて弟達を連れてガンジス河の岸に戻った。
「ビーマ! ビーマ!!」
彼らの捜索は実りを得ることはなかった。あきらめて家に帰り母に伝えた。

ヴィドゥラはクンティーに呼ばれた。
「お義姉様、ドゥルヨーダナはビーマのことを嫌っていましたね。ビーマを眠らせて殺したのではないでしょうか?
ですが、心配しないでください。あなたの息子達は長く生きることになるとリシに予言されています。ですが、ドゥルヨーダナは疑いを持たれていることを知ったなら、他の四人を殺そうとするでしょう。どうか感情を表に出さずに四人の息子達を守ってください。ビーマはきっと無事です」

ビーマはツタで体を縛られたまま川底で眠っていた。
何かに刺されているような痛みを感じて目を覚ました。
蛇達が集まって仕事を始めていた。一匹ずつビーマの全身を噛み始めた。
すると不思議なことが起こった。なんと彼の体に巡っていたカーラクータの毒を蛇の毒が中和した。彼は起き上がり、蛇達を退治し始めた。

数匹が蛇の親分ヴァースキのところまで逃げ延びた。
「あれは何なんだ? 人間とは思えない! 千匹の蛇が噛んだのに彼は眠りから覚めただけなんだ! このままでは全滅してしまう。ヴァースキ、助けてくれ!!」
ヴァースキは子分達に連れられてビーマの所へやってきた。
彼がビーマであることが分かると抱きしめた。
そして召使いに言った。
「この男はビーマ王子だ! 彼に差し上げる宝石を持ってこい! 彼に会えてうれしいのだ」
「彼は王子ですから富や宝石は喜ばないでしょう。あの薬を差し上げるというのはいかがでしょう?」
「それはいい提案だ。そうしよう」
彼は東に向いてビーマの横に座り、薬をお椀になみなみと注いでビーマに渡した。
「この薬を一杯飲めば象千頭分の力を手に入れます。どうぞお腹いっぱいになるまで飲んでください。飲めば飲むほどあなたは強くなるでしょう」
ビーマはその神聖な薬をなんと八杯も飲み干し、再び眠った。

ビーマは8日間眠り続け、起きた。
彼は蛇の王ナーガの神聖な食べ物でもてなされ、水面まで運ばれた。
彼は家に帰り、母や兄弟達に迎えられた。
ビーマは全員を抱きしめ、今日までの不思議な体験について話した。

ヴィドゥラがその話を聞き、ドゥルヨーダナに注意するよう警告した。
パーンダヴァ達の心は善良すぎるが故に、憎しみが人を盲目にすることを想像できず、衝撃を受けた。

一方ドゥルヨーダナは生きているビーマを目撃した。ビーマを亡き者にしたと安心しきっていた彼は衝撃を受けた。彼と同じく、罠が成功すると確信していたシャクニも同じくらい驚いていた。
ドゥルヨーダナの憎しみはさらに大きくなったが、パーンダヴァ達に気付かれていることが分かったので、おとなしくしていなければならなかった。

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