【Focus】中国保険業界における「ライブ配信」の広がり
「ライブ配信」はテクノロジー発展の産物・時代の進歩の象徴であり、また未来の生活様式の牽引役として中国における2020年のキーワードとなっています。
PCやスマホから、映像と音声をリアルタイムに遅滞なく届けるライブ配信の優位性として「個人間の距離を縮めることができる」ことが挙げられ、これは「リアルタイムのインタラクション」・「同じ時間の共有」が可能であるライブ配信固有の特徴によって確立されています。
この優位性を伝統的なビジネスと結び付け、「ライブ配信で商品販売をする(=ライブコマース)」ことが中国での一種の新興販売方式となっているようです。
これは従来より特殊なマーケットとして認識されていた「保険」も例外ではなく、今般のコロナ堝の影響も相まって、伝統的な民間保険会社によるライブ配信の活用の模索は急加速しているということです。
今般、復旦大学(上海の名門校)が「中国保険社会安全研究センター」と共同で発表したレポートにて、「ライブ配信×生命保険」という新しいビジネスモデルにつき以下の通り報告しています。
(筆者が引用&翻訳・要約)
(記載の内容は転載不可でお願いします)
■ライブ配信(コマース)を実施する上での大前提 「Publicトラフィック×Privateトラフィック」
ライブ配信(コマース)を実施するに当たって、保険ビジネスに関わらず、そもそもどこから発信していくかということは一つ大きなポイントであり、それは「Publicトラフィック」と「Privateトラフィック」に分けられる。
<Publicトラフィック>
⇒ Wechatやウェイボー、TikTokに代表される大手IT企業(プラットフォーマー) が展開するSNS等(=公的な場)
<Privateトラフィック>
⇒ 自社のAPPやホームページ上等(=私的な場)
一般的にPublicトラフィックには多くのユーザーが集まっており、ライブ配信を実施する場合もPublicトラフィック上の方が視聴者数(=ユーザー数)は稼げる。
一方で、仮にPublicトラフィックで多くのユーザーを獲得できたとしても、それらユーザーのデータについては、Publicトラフィックを構成するプラットフォームに制限され、取得できないというデメリットもある。
この結果ユーザーのリピートに繋げられず、生産性が上がらないという悪循環が生まれてしまっている。
Privateトラフィックは自社で構築する枠組み(APP・ホームページ等)上でユーザーと接触することとなり、且つ一般的にユーザーと何らかの「関係」が既に構築されているケースが多く見られる。(既契約顧客 or 保険加入に意向を示した顧客等)
この場合においてはユーザーデータへのリーチが容易で、再生産にも繋がり易いメリットが挙げられる。
ポイントとしてはPublic・Privateどちらか一択と絞らず、PublicはPublicで前述の「接触できるユーザー数が多い」ということに加え、「システムをゼロから構築しなくて良い為コストがかからず始めやすい」といったメリットがある中で、Public・Privateをうまく組み合わせることがライブ配信(コマース)を効果的に実施するコツだと見られる。
■保険のライブ配信の台頭の原因
現在保険業においてライブ配信が拡大している要因として以下のポイントが挙げられる。
-インターネットにおけるライブ配信の急速な発展
-新型コロナウイルスによるライブ配信利用者と利用時間の大幅な増加
-新型コロナウイルスによる中国国民の保険に対する関心度の高まり
-ライブ配信による保険商品に対するより直感的な理解の促進
■保険のライブ配信で見られる番組内容例・販売に結びつけるプロセス
保険に関連するライブ配信は様々あるが、大きく体系分けすると以下に纏められる。
-保険営業従事者向けの研修
-一般消費者向けの保険商品セールス
-新保険商品の発表会
-既契約者向けの保険知識提供
-コンバージョンを見据えたライフステージ別保障プランの紹介
上記「一般消費者向けの保険商品セールス」等のライブ配信を活用した新しい販売モデルの場合、以下のようなプロセスを辿っていき、最終的に保険の契約に結びつけることがセオリーとして挙げられる。
1. 「保険の基礎知識」をレクチャーする内容のライブ配信で視聴者を惹きつけ、視聴者への個別のアプローチの方法を確保する
2. 視聴者に対する個別のチャットでのアプローチを通じ、無料での「保険のプランニング」や「既存の保険契約の見直し」サービスを提供することで視聴者を囲い込む
3. 自社のWechatアカウントに登録させ・自社が展開するコミュニティ(社群)に加入させた上で、コミュニティメンバー限定でより深い保険の知識を無料講座として公開し、ファン化させる
4. ファンに対する保険代理人による保険提案
■保険のライブ配信の実態・課題
かつての保険募集活動はオフラインで代理人と顧客が1対1で実施するのが主流であった中、ライブ配信を活用した保険募集活動は1対n(多数)の形態であり、より多くの顧客にリーチできる面で優位性がある。
一方で実態としてライブ配信業界において二極化が発生していることが挙げられ、「2:8の法則」と呼ばれる事象として定着しつつある。
これは「全ライブ配信者の2割が視聴者の8割を掌握しており、残りの8割の配信者で2割の視聴者を分け合っている」状態を指しており、このような状況下において新米のライブ配信者が群を抜け出る為には相応の工夫を凝らし、コストも掛けなければならないことが伺い知れる。
また、初期に多くの資源を投入したからと言って、その後に期待通りの成果が出て来るかは未知数であることも踏まえておかなければならない。
ライブ配信で保険の紹介、特に販売をする際にもう一つ挙げられるポイントとして、保険は一般的な製品のように明確に機能や効能を見せ辛い為、配信者は細心の注意を払い、保障範囲や約款の条項について説明しなければならないことが挙げられる。
保険の条項は複雑で、短い尺のライブ配信で説明しきるのが困難である中では、配信者に高い説明能力が求められるとも言える。
■保険のライブ配信の展望
今後保険のメインの加入層が1980-90年代生まれへと推移していく中、ネットやSNS上での情報は今後より注目され、オンラインを通じたサービスもより受け入れられていくことが予測される。
また、中国で800万人いるとされる代理人の半数が2015年以降に保険業界に足を踏み入れた状況にある中、こうした若年層の代理人はネットやSNSの活用の仕方に精通しており、これは保険会社にとってチャンスであると同時に、ネットを柔軟に使いこなせないシニアの代理人にとっては脅威だと言える。
更に、5Gが商用化され、自動運転がL4レベルまで成熟し、遺伝子検査やAIによるマシンラーニングがフル活用され始める世界が到来する中では、生保業界の現在のルールも大いに変化することが予測される。
ライブ配信・コマースもまた、こうした新技術の一部であり、既に生保会社における新たな「ニューメディアマーケティング」として確立されている。
一方、現在新型コロナウイルスが中国において落ち着いてきた中、伝統的なオフラインの経営・販売モデルが息を吹き返して来ており、已然として主流・主力の座を保っているのも事実である。
ライブ配信・コマースが生保会社の代理人採用・チーム管理・顧客マネジメント・サービス向上等を推進していることは疑いようはないが、これが持続的に一定以上の確たる貢献という成果を残すものとなるのかは、もうしばらく観察が必要だと思われる。
以 上
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